「道路中期計画」を語る各新聞の論調が面白い

katamachi2007-11-15

 先週末から道路特定財源の見直しを巡る議論がきな臭くなってきている。事実関係はまず時事通信の2007/11/09の「評価低い区間は既存道活用で=事業費は65兆円前後−道路中期計画素案」という記事から。

 国土交通省が策定する、道路整備の中期計画素案の概要が9日、固まった。費用対効果などによる点検対象となっている、建設予定の高速道路など約2900キロについて、評価が低い区間は、道路の構造や規格を見直し、既存の道路の一部を活用して整備することを盛り込んだ。2008年度から10年間の事業費は65兆円前後になる見通しで、同省は13日に素案を公表する予定。
 政府は昨年末、「真に必要な道路整備」を示した中期計画を策定するとともに、道路歳出を上回る税収は一般財源とすることなどを閣議決定した。同省が現在、年末に向けて中期計画の策定作業を進めている。

 国交省のホームページによると、自治体などの関係者&パブリックコメントを受けて「「道路の中期計画(素案)」の公表」をしたのがそもそものきっかけらしい。

道路特定財源の見直しについて、「道路特定財源の見直しに関する具体策」が昨年12月に閣議決定されました。この具体策のなかで、「道路整備に対するニーズを踏まえ、その必要性を具体的に精査し、引き続き、重点化、効率化を進めつつ、真に必要な道路整備は計画的に進めることとし、19年中に、今後の具体的な道路整備の姿を示した中期的な計画を作成する」こととなりました。
この具体策に基づき、年内に道路整備の中期的な計画(中期計画(仮称))を作成していく予定です。
国土交通省道路の中期計画

 これに対して、うちでとっている朝日新聞、そしてネットで検索して出てくる各新聞社の社説を読み比べたのだが、その論調が微妙に異なっていて、比較して読んでみるとかなり興味深かった。

多くの地方自治体や、与党の道路族議員も道路整備計画の推進を支持している。交通の便がよくなるだけでなく、公共事業を通じて地方経済を活性化することを期待しているのだ。しかし、それは「土建国家」への危険な逆戻りになる恐れがある。(中略) 確かに必要な事業もあるだろう。 ただし、それを吟味するには道路特定財源一般財源化することが欠かせない。福祉に回す費用や教育費とも比べたうえで、必要性や緊急性を判断したい。
朝日新聞11/15社説道路整備計画―巨費を投じる余裕はない

揮発油税など道路特定財源一般財源化が有名無実化しようとしている。国土交通省のまとめた今後10年間の道路整備の中期計画素案により、すべてが道路に使われかねないからだ。年末の予算編成に向け、改めて一般財源化の基本に立ち返らねばならない。
産経新聞11/15社説道路特定財源 どこへ行った一般財源化

 常日頃、対極的なスタンスでウオッチャーに新鮮なネタを提供してくれる両紙だが、「道路特定財源一般財源化」がスルーされるのは我慢ならないという点では一致している。そりゃ読者層の多くが都市部の人間なんだからそう書かざるを得ない。ただ、そのベースに小泉政権構造改革路線があるか否かというだけの違いである。中日新聞読売新聞毎日新聞も同種の論調だ。
 でも、地方新聞はまったくスタンスが異なる。一番、露骨なのが北海道新聞

道路を建設するといいながら、実態は地方の切り捨てではないか。国土交通省が来年度から十年間の道路整備中期計画の素案を発表した。北海道にとっては極めて厳しい内容と言わざるを得ない。高規格幹線道路の未整備区間のうち、道内は八区間が車線削減など見直しの対象となった。(中略)総距離数で全国の六割にも及ぶ。(中略)(車線縮小も)全国の23%を占めている。道内の道路整備が狙い撃ちにされたといってもいい。建設コストの削減はやむを得ないとしても、見直し路線の選定に地方切り捨ての発想があるなら容認できない。 道路政策が効率や採算だけを基準に進められては困る。
北海道新聞11/15社説道路中期計画 地方への視点が見えぬ

とし、「道路特定財源一般財源化する論議」とは「切り離して考えるべきだ」としている。総論を高所から語っている大手紙とは違い、具体的にコストカットの路線名を挙げている。道内で削減対象となった路線は全て「真に必要な道路整備」ということを主張したいのだろうか。
 そこらは他紙も同様で、秋田魁新報徳島新聞は、

県内は今年、夏から秋にかけて日本海沿岸東北自動車道(日沿道)の岩城—本荘IC間など4区間が相次いで開通した。このほか「国体支援道路」として整備が進められた高速道路へのアクセス道路、生活幹線道路、秋田市の東西を結ぶ地下自動車専用道路なども開通した。国体に合わせた事業とはいえ、裏を返せば整備が不十分な現状を物語る。都市生活者からは地方の道路に無駄が多いと指摘されがちだが、地方の道路が充足しているとはいえない。(中略)本県では毎年、降雪期の幹線道路や身近な生活道路の機能維持が課題になるにもかかわらず、なかなか改善されない。高速道路網に限らず、地方の実情に応じた道路整備を求めたい。
秋田魁新報11/15社説道路整備計画素案 もっと内容に具体性を

無駄な道路づくりが許されないのは当然だ。だが地方では本当に必要な道路さえ十分ではない。住民は生活の利便性を高め、地域の発展に役立つ道路整備を望んでいる。大都市と地方の格差を是正するためにも、国道や高速道路などの整備を急がなければならない。
徳島新聞11/15社説道路中期計画素案 地方の実情踏まえ整備を

と、「他地区と比べれば、おらが県の道路整備はぜんぜん進んでいない」と主張されている。
 一方、中国新聞は地方紙にしては社説の論調が異なる。

ガソリンにかかる揮発油税など道路特定財源は「暫定税率」を今後十年維持しても、道路整備に使い切るから余らない―。国土交通省が示した六十八兆円を上回る道路整備中期計画の素案は、そう言わんばかりの中身である。無駄とみなされる道路は一切造らないという小泉改革路線からみれば、後退した印象はぬぐえない。
中国新聞11/15社説道路中期計画 地方の視点も不可欠だ

と大手紙寄りになっているのだ。ただ、「地方に将来必要な道路の整備が遅れているのも確かだろう。不便を我慢してきた地域の視点も不可欠である。」ときちんと地方の読者にも納得して貰えるよう予防線が張られている。こういう当たり障りのない論説は読んでいてあまり面白くない。

「おらが町は十分に道路が整備されていない」とみんな嘆くけど……

 僕は都市住民だし、地方の方がアレも必要コレも必要とおっしゃっているのを聞くと、「●▲県のそんな路線、いらんでしょう。たいして利用もないんだし、今の国道を手直しするだけでは十二分なのでは」とも言いたくなる。自分の地元(実家)の視点で言うと、早く第二京阪道路を完成させて欲しい。国道の拡幅もきちんと整備して欲しい。僕らの税金でヒグマしか歩かないようなところに高速道路を造られても……とは思う。でも、そのように発言すると「それは地方切り捨ての発想だ」ということになってしまう。正直、みんなが「おらが町が」と言い出すと、各論に踏み入れても「地方と都市」という対立構造に雁字搦めになってその先に話を進めることができない。
 ここらの混乱は最近になって始まったことではない。日本が大正デモクラシーを迎えようとした90年前、鉄道敷設法が改正されて日本の地方にばかり国鉄線を張り巡らす構想が衆院にかけられたときも同様の議論が出ている。かの原敬首相が、選挙地盤である岩手県に山田線を敷設しようとしたときの答弁が有名だ。この路線は人家稀な山岳地帯を抜けていく路線であって途中駅からの乗降は今も昔もかなり少ない。当時の帝国議会で、「山猿を乗せる気か」と対立陣営から揶揄されたのだが、原は「鉄道規則を読んでいただければわかりますが、猿は乗せないことになっております」と平然と答弁したという。政友会政権のあまりにも露骨な鉄道構想に対して、「我田引鉄」という言葉も生まれた。
 ともあれ、「地方では本当に必要な道路さえ十分ではない」とあらゆる地域が主張する。では、この国で「十分に道路が整備された地域」ってどこなんだろう。発展途上国を旅する機会が多い自分としては、この日本という国、十二分に道路が整備されていると思う。なのにまだ道路って必要なんだろうか。
 さて、そんな都市と地方の中庸を行く主張を展開するのが、毎日新聞の社説。朝日や産経などと論調はよく似ているのだけど、

この計画に基づき、特定財源を用いて、全国で道路建設を進めれば、地方では基幹産業になっている建設業が一時的に盛り上がるかもしれないが、地域活性化地域再生とは全く別物だ。公共事業のばらまきが地方の自立性を失わせてきたことは、高度成長期以降の歴史が教えている。いま必要なことは、道路を含め公共投資の権限や財源を基本的に国から地方に下ろすことだ。同時に、事業も重点化やスリム化しなければならない。道路の中期計画はこの流れに反する。
毎日新聞11/15社説道路中期計画 これでは土建国家の温存だ

と結論づけている。私は個人的にこの意見に賛成。道路整備の是非について論議するなら、まずその権限を地方に移譲せねばならない。ただ、

  • 今の税財政システムと官僚の統治機構を考えれば、そんなことは万が一でもあり得ない
  • 一昨日のLRTの話の時にも触れたが、たとえ財源と権限を移譲されても地方自治体が適正な判断をできるとは思えない
  • そもそも道路特定財源を「地方と都市、どちらに配分するのか」、「地方間でもどこに重点的に配分するのか」。ただのカネの分捕り合戦になって各論に踏み込んだ議論を展開できるはずもない

とも思う。それは毎日だけでなく他紙の論説委員の方々も分かっておられるはず。カネの配分の話になると、日本の政治はいつもお手上げ状態になってしまう。ホント、海外のどっかの機関が日本の国債のランクを大幅に格下げして経済混乱でも起きない限り、この手の議論は解決の糸口は見いだせないよな……と思うのですが、それはまた別の話。