「福井鉄道が福武線運行継続」という新聞記事の不可思議さ

katamachi2008-02-16

 昨日、福井鉄道を巡る関係者の協議があったようです。

 存続問題が議論されている福井鉄道福武線は、今後も同社が鉄道事業を継続していく方針が15日、決まった。
「福武線は自力存続 県内撤退の名鉄、10億円の資金援助案」中日新聞2008年2月16日

 ただ、これは「福井鉄道の存続が決まった」という趣旨の記事じゃないんですね。中日新聞の別記事「名鉄、福井撤退へ 福井鉄道株を年度内にも譲渡」だと、記事もタイトルも微妙に異なったニュアンスになっている。経済面と言うこともありますが、存続云々について言及していないんですね。そこらの事情について、他の新聞も見比べて調べてみます。

名鉄は10億円の支援をして撤退を表明

 この協議については福井新聞の方がもう少し詳しく書いていて、

 座長の大橋直之県総合政策部長が、3セク化を含む新会社の設立ではなく、福鉄の会社体制を再編した上で再建することを提案。(中略)検討していた再建方針2案のうち「名鉄の増資を元手に、退職金の未積立金や借入金の一部を圧縮」する案を中心に議論することに決まった。名鉄の増資額に関しては、松林孝美専務が「福鉄の純資産のうち7億強の棄損相当分に加え、福鉄に経営陣を派遣してきた道義的責任を勘案し、10億円を上限に検討したい」と説明。その上で増資後は福鉄株を第3者に譲渡し、福鉄との資本関係を解消したいとの考えをあらためて示した。
福鉄が福武線運行継続 名鉄、10億増資後に撤退

としています。ある程度決まった方針は、

  • 福鉄の借入金は約28億円
  • 福鉄の全資産を時価に換算すると、7億円のマイナス。債務に対する支払利息が年間1億円近く
  • 名鉄は約10億円を増資または貸付金の形での支援→2007年度中にも福鉄株約25万株を手放し、福井県から撤退(読売新聞「福鉄鉄道事業を存続」)
  • 福井鉄道という現在の会社を再編させる形で再建したい

ということでしょうか。
 各紙を見ている限り、福井鉄道の存続が決まったような書き方をしていることもありますが、記事を読んでいると、ちょっと違う。福井新聞の冒頭にあるように、協議で決まったのは、

新会社に鉄道事業を譲渡する再建手法はとらず、福鉄がそのまま運行を継続することを確認。

だけ。すなわち、

  • 再建する場合、現在の"福井鉄道という会社組織"を存続させる(第三セクター会社とか別会社に委ねることはしない)

という方針が固まっただけで、

と決まったわけではない。そもそも名鉄負担分以外の借金については片がついたというわけでもないし、その段階で存続決定とするのは勇み足では。いや、そこらの曖昧な決定をどう表現すればいいのか各紙の記者も苦労したんだろうな……と思ったりもします。

 さて、福井鉄道に残る借金は約18億円。中日新聞

 県は、取引先の金融機関から利息の減免などの措置が期待できるとしている。

として「鉄道事業を継続していく方針が15日、決まった」としている。
 一方で、同日の産経新聞

 大橋直之・県総合政策部長は「金融機関は利子の減免、返済の猶予などは応じるが、債権放棄については応じかねるとしている」と説明
福井鉄道再建協 名鉄が10億円の支援提示 金融機関は債権放棄に難色

と、県側の見方を報じている。
 銀行の債権放棄は難しい……となると、誰かがこれを負担せねばならない。でも、福井県福井市が負担するというわけでもない。名鉄が2007年度中、すなわち春までに撤退する意向を持っているなら早く対策を講じねばならない。そもそも、なんで福井県福井市の予算編成が終わったこの時期に協議をしているんだ……という気もしないわけでもないのですが、それはまた別の話。
 ※以前の事情については、「福井鉄道福武線存続のために - 猫電車日記」、「福井鉄道再建問題 その後の動き(その3) - 猫電車日記」などid:Cat-Tramさんの記事が詳しい。