道路特定財源5億円を使った国交相謹製のミュージカル「みちぶしん」。その敵となったのはJR中央本線。

 「道路ミュージカル」はもうやめます――。冬柴国土交通相は14日の衆院予算委員会で、国交省地方整備局が行っている道路整備への啓発ミュージカル上演を、08年度からやめると表明した。
道路財源でミュージカル 冬柴国交相「もうやめる」朝日新聞2008年02月14日

というのが、今週話題になりました。冬柴国交相、最近、地盤の尼崎市の市長から道路特定財源の限定使用に疑問を投げかけられたりと御難続きのようです。でも、ミュージカルはなあ。胡散臭いなあ。
 しかも五億円という額は半端じゃない。さっきでたYahoo!ニュースだと、

国土交通省の宮田年耕道路局長は、ガソリン(揮発油)税などを集めた道路特定財源で「道路ミュージカル」を80回上演し、03〜05年度で計5億2600万円を支出したことを明らかにした。14日の衆議院予算委員会保坂展人議員(社民党)の指摘に答えた。
道路ミュージカル『みちぶしん』は、全国8地区の地方整備局にある国道事務所が劇団に依頼し、無料で開催された。回数と費用は下記の通りだ。

  • 03年度:2億円(31回)
  • 04年度:2億2600万円(36回)
  • 05年度:1億円(18回)

冬柴国交相は「道路整備を円滑に進めるための普及啓発活動の取り組みだったが、それが過大な支出であるという評価であれば、私はもうやめさせます」と、答弁した。各道路整備局のホームページから『みちぶしん』のページが次々と消されている。
道路特定財源で5億円のミュージカル2月15日、レスポンス

とあつた。5億円かけて85回の公演か。ナウなヤングやこどもたちに道路建設の必要性を啓蒙するにはミュージカルが必要だ……そのぶっ飛んだ発想に役所の匂いがプンプンする

役所から丸投げの広報ミュージカルは全国でやっていた

 この「みちぶしん」及び第二弾「カントリーチャレンジャー」という題名から検索していると、

と軽く20例ぐらい出てきました。これらも全部ただ。国交相が無料招待。それが積もりに積もって5億円。
 そして迂闊なのは、そんな政治色が濃いイベントに、NHK中日新聞中国新聞中国放送など大手マスコミも後援者に名を連ねていくこと。議論が分かれる案件の片方に肩入れするのはどうなんだろう。

ミュージカル「みちぶしん」の敵は蒸気機関車と鉄道

 で、肝心のミュージカル『みちぶしん』。やっているのは劇団ふるさときゃらばんってところ。
 なんだかミュージカルをやっているには胡散臭さも漂う同団体のホームページを見ると、こんなことをしてきたんですね。

  • 2003年 ミュージカル「ホクトウの森」うつくしま未来博継承事業として上演
  • 2003年 新しい対話を生み出すミュージカル「みちぶしん」上演
  • 2004年 日本国際コメ年イベント アジアの原風景・棚田体験展(企画制作)日本橋三越本店
  • 2005年 ミュージカル「四国みちぶしん」上演
  • 2005年 EXPOウェルカム特別公演 MUSICAL SHOW「われら地球族!」
  • 2005年 「愛・地球博」ささしまサテライト会場デ・ラ・ファンタジア内上演
  • 2005年 協働と技術でつくる美しい国と地球〜みんなのくにづくりとなるほどどぼく〜PUBLIC MUSICAL「どんどんどんどん」 「愛・地球博長久手会場モリゾーキッコロメッセにて21日間(1日3回上演60ステージ)上演
  • 2005年 「愛・地球博」から飛び出したミュージカルショー「世界はまるい」上演
  • 2006年 みちぶしんMUSICAL第2弾ミュージカル「カントリーチャレンジャー」上演
  • 2006年 ミュージカル「地震カミナリ火事オヤジ」上演 消防庁長官より感謝状(ミュージカル「地震カミナリ火事オヤジ」)
  • 2007年 平成19年東京消防出初式 ミュージカルショー「稲ムラの火」上演
  • 2007年 ミュージカル「沖縄みちぶしん」上演

 それ以前も、国土交通省関東地方整備局 湯西川ダム工事事務所とか建設省荒川下流工事事務所とか建設省北陸地方建設局15団体とかにも参加。過去も現在も役人さんのイベントでの啓発ミュージカルというのを山ほどやってきたらしい。まだまだ他のイベントにもダム関係の費用とかも注ぎ込んでいるんじゃないの……とも思う。役所が金も人も集めてくれて、劇団も潤う……オイシイ商売なんだろうな。
 で、そこのHPを見ると「みちぶしん」の粗筋が載っている。

中世、人々のくらしは獣たちと隣りあわせだった。桔梗ヶ原(ききょうがはら)に鉄路がしかれ、狐たちの縄張りをわがもの顔で縦断する蒸気機関車が出現。誇りを傷つけられた狐の大将・玄蕃之丞は、蒸気機関車に戦いを挑む。人と獣が同じ世界にくらし呼吸していた時代が鮮烈な詩情で描かれる。
そして旅と言えば徒歩や早篭、人力車だったのがスピードを求めて、自転車に乗ろうとズボンをはき、馬が歩く道にはバスが乗り入れ、ガタゴトとにぎやかに走ってゆく。戦後まで日本の道路は、江戸時代のまま。クルマが走れる道路をつくり、自家用車に乗ることが日本人の夢となり望みとなる。道路づくりは国の復興をかけて急ピッチで進められた。

いう物語になっているらしい。

  • 蒸気機関車・鉄道→狐たちの縄張りを破壊
  • 道路→なぜか日本人の夢

と鉄道悪玉論、道路善玉論という奇妙な構造で物語が進んでいく(のだろう)。自分が鉄道マニアであると言うことを差し引いても、なんか微妙な違和感があるなあ。
 で、ミュージカルの終盤、長野県松本と岐阜県高山を結ぶ安房トンネルを18年間かけて完成させた……という感動のスペクタルになっている(はず)。舞台となったのは桔梗ヶ原とあるから、これは塩尻市大字宗賀桔梗ケ原、塩尻駅の西1km程の所の地名なんでしょう。安房トンネルとは50kmほど離れているけど、狐の縄張りを荒らした機関車とは中央本線を走る列車のことを指すのだろうか(あるいは松本電気鉄道?)。

 まあ、道路関係者にとって「鉄道」というのは悪玉?な訳で、となると、

 道路特定財源一般財源化を訴えている民主党若手国会議員の「ガソリン値下げ隊」のメンバー4人が12日、宮崎空港からJRを利用して延岡市を訪れ、東九州自動車道建設予定地などを視察した。面談予定のなかった首藤正治市長が突然現れ、「車で来れば説明は要らなかった」と皮肉たっぷりに暫定税率継続を直訴。
JR利用に延岡市長怒り 民主議員の高速道予定地視察宮崎日々新聞

という延岡市長の怒りも当然なのかも。道路建設は国民生活に不可欠なものであり、それを妨げる鉄道は悪玉。鉄道を使ってくる野党議員は批判されるべきことなのだ。
 あれ、確か15年前に宮崎県と延岡市旭化成あたりがカネを出し合って日豊本線延岡〜宮崎間の高速化整備に協力していたのに、民主党議員団がそれを使ってやってくるのがまかり成らないと言うことなんだろうか。
 まあ、そんな土建国家まっしぐらの役所からカネを出して、テレビの政府広報番組みたいなミュージカルを造っていて、見ている観客は楽しいか? もちろん、演じている役者さんや裏方さんも同様。仕事とはいえ、生臭い政治の世界の宣伝をしている中で、俳優としてのプライドを保つのは大変だろうな……と想像できるけど、それはまた別の話。

追記

公共性ビジョン「未知普請」について

4 ミュージカル「みちぶしん」 −「音と光が生み出す感動と対話」−
 正しい主張でもユーザーや住民に伝わらなければなんの意味もありません。人の理解は言語や理屈を通してだけではなく、むしろ体験や経験等を通した感動が、よりリアリティをもつことが多いともいえると思います。「道」とは何か、私たちとの関わりとは何か。
 今日の行政には、子どもたちや生活を支える女性等に受け入れられる表現手法が求められています。情報があふれる現代社会においては、楽しみの中に正論を忍ばせる工夫もまた重要なことではないでしょうか。
 このような狙いから、未知普請の主張がミュージカル「みちぶしん」(写真1)として創作されました。平成15年の MICHIBUSHIN 中部・名古屋大会でこけら落し公演を皮切りに、現在、全国各地で地元自治体や商店街、PTA、NPO教育委員会、道路整備推進協議会等が実行委員会を立ち上げ、ミュージカルが誘致されています。三世代が観覧、体感できるミュージカルとして音と光とで繰り広げられるドラマは、全国各地で新たな対話と感動とを生み出し大変な好評を得ています。多くの道のファンが誕生しています。

 保坂も引用しているが、旧建設省が1950年に政策(ママ)した「ユートピアソング」というのが秀逸。「山も谷間もアスファルト ランラン ランラン ランランラン ランラン 素敵なユートピア」って、21世紀の日本の国土を見ていれば笑えない歌詞がなんとももはや……。この記事を書いた国交省役人の道路行政に対する悪意をそこはかとなく感じるのですが。