秋田内陸縦貫鉄道を存続してもいいのか秋田県?
秋田内陸縦貫鉄道について、今週、動きがあったようです。
存廃に揺れる秋田内陸縦貫鉄道(北秋田市)の今後について、寺田典城知事と沿線の岸部陞北秋田市長、石黒直次仙北市長が18日、県庁で話し合い、存続を前提に検討を続けることで合意した。
内陸線 「存続」で検討継続、朝日新聞、2008年08月19日
秋田県知事がこの秋に結論を出すと言っていたけど、「存続を前提」に検討を続けることになっというのか。かなりの方向転換です。これまで、どちらかというと存続に消極的なニュアンスの発言を繰り返していたんですよね。
これを見ている限り、なんだか目出度い話のように思えるんだけど、地元紙はもう少し詳しく報道している。
たとえば、同じ三者会談を伝える河北新報の「秋田内陸線 公有民営化を検討 知事と2市長合意」という記事。
地元議会は存続を要望しているらしいけど年間2.6億円の赤字はどうするの?
ポイントは、以下の3点。
- 公有民営方式を採用し、沿線両市が線路などの施設を維持・管理して、運営会社に無料で貸す
- 地元の負担すべき財政負担は約2億円/年。赤字補填額は県が50%(1億円)、北秋田市30%(6000万円)、仙北市20%(4000万円)の負担
- 線路や枕木の交換などの安全対策費約9億円(地域公共交通活性化・再生法で国から3億円程度の補助)
北秋田市議会は、「地元としてそれに応じる意思を強く示した」(北秋田市議会、内陸線存続で負担受け入れ示す 知事と意見交換)と伝えられている。朝日記事だと、北秋田市と仙北市は、「施設の維持管理費分約8700万円(県試算)」を新たに負担とある。現状は両市で1300万円程度の負担が、8倍近くになると言うことか。
そんな負担に耐えられるのかな?
本当に存続して大丈夫なんだろうか?
秋田内陸縦貫鉄道が国鉄阿仁合線と角館線を引き継ぐ形で発足したのは1986年のこと。日本鉄道建設公団で未成の松葉〜比立内間を建設してもらって無償譲渡を受けて全通したのは1988年です。
バブル経済で第三セクター会社がフィーチャーされていた80年代後半。でも、その当時から、秋田内陸縦貫鉄道の先行きは不安視されていました。
未成だった松葉と比立内の間は、人口密度の低いという点では東北でも有数の過疎地域であり、両地区を結ぶ国道すら当時、あまり整備が進んでいませんでした。それは今でもあまり変わらないらしい。
でも、スピードの出しやすい規格のいい道路が整備されていないというのは、それなりの理由があるはず。角館のある県北(北秋田・大館地域)と、阿仁合や鷹ノ巣のある県南(大曲・仙北地域)は、同じ秋田県内であるとはいえ、ほとんど人的交流がなかったと言われています。その両エリアを鉄道で結ぶ意味合いはあるのだろうか。国鉄と鉄建公団が未成のまま放置した工事線って、美幸線なんかもそうなんですが、人の行き来がないエリアでも着工されていたりしたんですね。
5年で利用者数を6割増にするという再生計画自体が無茶だったのに……
で、開通しても利用者は増えない。
Wikipediaのデータを参考にすると、年間乗車人員数(人)は、
年度 | 年間乗車人員数 |
---|---|
1989 | 107.9 |
1990 | 102.3 |
1995 | 98.1 |
2000 | 79.5 |
2004 | 50.5 |
2005 | 51.3 |
2006 | 50.2 |
2007 | 44.3 |
(単位:万人)
と開業初年度をピークに順調に減らしているわけです。この間、秋田新幹線が1997年に開業して角館と東京が直結してなんとかなるのかなと期待されていたのですが、その年も利用者数は減少しています。
全線開業から15年で利用者数半減というのは極端なようにも見えますが、ローカル線のメインの利用者は当時も今も高校生。1989年と2007年とを比べると、全国の18歳人口は68%に減少。秋田県の郡部*1だともっと減りの幅は大きいんでしょう。その上、先述のように元もと人的交流がないところだと、新規需要の開拓も難しい。
2000年頃からは、赤字額は2.5〜3億円にまで達し始めた。
もちろん地元も秋田内陸縦貫鉄道再生支援協議会を組織して、存続のための道を模索してきた。
一応、2005年から存続に向けた再生計画を立ててはいたのですよ。
当時の状況は秋田県南日々新聞のサイトにありますが、
06年どから10年度(平成18年〜22年)までに乗車人員を05年度実績の約51万人から1.6倍の82万人とし、赤字幅も半分の1億5000万円までに圧縮する「再生計画」を策定(太字、筆者)
と、「再生に向けた最後の機会として取り組」んでいたらしい。
でも、再生計画スタートから2年で15%減。目標数値の半分程度。2010年度にそれが倍になる可能性はゼロでしょう。
そもそも高校生が年に数%ずつは減少しているのに、5年間で利用者数を6割も増やそうという再生計画自体が無謀でした。この間、秋田内陸線を毎日使っていた小中学生の通学客が、安全面その他の理由でスクールバス利用に切り替えたという特殊事情はあるにしても、あまりにも夢を見すぎです。
鉄道よりも別な選択肢もあるのでは
で、今回の目標設定はどうなんだろうか。
先の河北新報を見ると、秋田県知事は
- 存続のためには年間2億6000万円に膨らんだ赤字を2億円に圧縮し、44万人に落ち込んだ乗客を60万人に回復する必要がある(太字、筆者)
と強調したらしい。
えーと、今度は利用者数を36%増にするということか。そんな簡単なことじゃないの。今までいろいろ"努力"はしてきたのだろうけど、前年比横ばいにするのも難しかったのに。 読売の記事だと改善策として、
- 1万本以上ある鉄道の枕木の販売
- 鉄道ファンに無人駅の駅長になってもらう
- 1万円で1年間乗り放題とする乗車券の発売
- 県外の県人会に働きかけて鉄道ファンを誘客する
というアイデアが出ているようだけど、なんだかなあ。
変に鉄道マニアへ期待されても困る。正直に言うと、秋田内陸縦貫鉄道って鉄道趣味的にそんなに面白い鉄道じゃないんですよ。新潟鉄工所製の軽快気動車を見て喜ぶ人は現段階ではほとんどいないし、阿仁合駅とか阿仁前田駅とか魅力的な駅舎があったところも、みんな新たにヘンテコな建物に建て替えられた。沿線風景もさほど褒め称えるほどでもない。少なくとも、銚子電気鉄道や鹿島鉄道のように、一時的とはいえ趣味人の注目を浴びるようなタイプの路線ではない。
で、万が一、目標値である乗客36%増が達成されても、「安全対策工事を含め今後10年間で計30億円以上の負担が県や北秋田、仙北の両市に生じる」とされている。
「市議側から『地元は高齢化、過疎化している。高齢者は車の免許を返納しており、生活するために内陸線は必要だ』などと存続を求める声が相次いだ」とある。
ならば鉄道じゃなくて、クルマで十分なんじゃないか。
高齢者の方たちの家と病院や買い物先への移動はクルマの方がよっぽど便利だと思う。最近は過疎部でも都市部でもデイサービスやショートステイなどを行う福祉施設のマイクロバスが行き来しているけど、そっちの方がよっぽど使い勝手がいい。毎日新聞の「クルマ高齢社会:第3部・いま地域で/5 過疎の町」という特集記事なんかも参考になる。
まあ、そうは簡単にはいかないという地域の政治状況もあるんでしょう。この記事によると、現在3期目の寺田典城知事(68)は不出馬が確実になっていらしい。不出馬確定で後継候補が不透明な中、県議会や地元自治体の意向に反して廃止を決断することは難しい。新顔で争われる次の2009年の選挙戦の争点にはしたくない。そこらの高度な判断が働いたのかな。
今年9月には結論が出るということらしいけど、はたしてどうなることやら。
この議論のベースには今年の国会で成立した「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律」があるのは間違いない。地域が公有民営方式などを使ってローカル鉄道の事業再構築を取り組むための支援策が講じられた訳なんだけど、これには当然、自治体の負担もそれなりにはかかってくる。そこに踏み出すだけの政治決断(と将来の尻ぬぐいの覚悟)ができるかどうか。たぶん、この秋田県の判断が今後のローカル鉄道と自治体との関係を見据えていく上で重要になると思うのだけど、それはまた別の話。<参考>
2008-01-10次年度の国土交通省鉄道局の目玉は「がんばる地域・事業者を支援」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
2007-09-11全国のローカル鉄道89社のワースト偏差値ランキング - とれいん工房の汽車旅12ヵ月