選挙中に公表された長野県政と中央リニアを巡る興味深い意識調査。
選挙中なんで、各紙が立候補者や有権者にいろいろとアンケートを採っていて、それが紙面を飾っている。民主党が政権を取りそうなんで、ここ数日は高速道路無料化の是非が注目されているんだけど、僕が気になったのは中日新聞の意識調査。
中日新聞社が、県内5つの小選挙区の有権者を対象に衆院選公示前に実施した意識調査によると、リニア中央新幹線の望ましいルートは、南アルプスを貫通する「Cルート」が37%で最も多く、南アを迂回(うかい)する「Bルート」(24%)を上回った。主な候補者の回答ではBルートが多くあったが、それとは異なる結果となっている。
リニア「Cルート」37%で最多 有権者意識調査中日新聞、2009年8月27日
注目は、この「県内5つの小選挙区の有権者」というのが長野県民であるということ。Cルートが37%と、24%のBルートを大幅に上回った。
JRがCルートで建設する旨を語り出したこの数ヶ月、長野県庁や長野絡みの政治家は「Bルート死守」を旗印に様々な発言を続け、ネットの世界ではかなりの失笑を買ってきたのだけど、長野の一部の人たちがやってきたことが県民には全く伝わっていないと言うことがここで明白になった。
- 長野県全体
- Aルート 13%
- Bルート 24%
- Cルート 37%
- 分からない 27%
- 長野2区(松本市など)
- Bルート 23%
- Cルート 36%
- 長野4区(諏訪市など)
- Bルート 26%
- Cルート 34%
- 長野5区(飯田市など)
- Bルート 36%
- Cルート 49%
この数字からいろいろ語ることはできる。
以前、「リニア直線ルートを求める飯田地区。そして迷走する長野県知事と地方ローカル紙 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いたように、長野5区=飯田市周辺では、昨年末頃からCルート建設で早期開業を求める声が出てきていて、今年6月頃からは、それを露骨に出してきている。Bルート死守を主張する長野県政や多くの政治家たちとは明らかに意見が異なっていた。
それでも県庁や政治家たちはBルートでの推進を訴えかけてきたんだけど、中日新聞のこの数字はそうした願望を打ち砕くには十二分なものである。
中日は「ルートや中間駅をめぐる問題での県民理解が進んでいないことが図らずも浮き彫り」とするが、それ以上に、ここ数ヶ月、あれだけ一生懸命訴えてきたのに、飯田市を除けば、諏訪や松本ですらリニアの問題への関心があまり高くないということの方が衝撃的だ。
もう一つ。中日新聞が候補者にアンケートした、「主な候補者アンケート<下> (5)望むリニアルート (6)抱負や展望」も興味深い。
「リニア中央新幹線計画で、南アルプスを迂回(うかい)し、諏訪、伊那谷を通るBルート、南アを貫通するCルートのどちらに賛成か。中間駅の位置、国や地元負担などの望ましいあり方は。」という設問がある。
共産党は、全員、リニア建設は時期尚早と回答。ネタ政党、幸福実現党の回答はない*1。
一方、自民党と民主党の立候補者はこのように回答している。
- 長野1区(長野市など)
- 自民「県内多くの人が利用でき、沿線地域の振興はもとより、県の発展に寄与する。中間駅は地域振興の観点から複数駅が望ましい」
- 民主「「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」ではないが、少々遠回りしたところで時間ロスは知れている。中間駅は多くし、止まるのと止まらないのを多様に配置すればよい」
- 長野2区(松本市など)
- 自民「県全体の統合を保つ証しとして迂回ルートは絶対必要。諏訪にも駅を設け、松本との接続を良くして東京−松本を40分で結ぶ」
- 民主「諏訪と飯田の2駅を建設し、地域経済の活性化と産業の再生、観光の振興につなげていく」
- 長野3区(上田市など)
- 自民「Bルートが県内に最大の便益をもたらすと見込まれる」
- 民主「わが県にとってより効果が見込まれる県内合意のBルートで努力すべきだ」
- 長野4区(諏訪市など)
- 自民「県の合意を前提として人口集積地である諏訪周辺に駅を建設する従来の方針を堅持する」
- 民主「県民総意で決めたのがBルート。実現のためにできることはすべて行う。JRの意向、地域の思いはかなり明快だが、政府がふがいないために計画が右往左往している」
- 長野5区(飯田市など)
2区と4区は両党の候補者とも予想通りの発言。
でも、リニアがてきてもあまりメリットがない1区と3区の候補者はどこかヨソ事のような発言だし、Cルート派が一定の勢力を占める5区では総合交通体系の整備が必要とかそれらしいことを語りつつも、ルート問題には言及を避けている。
朝日も「リニア問題、長野5区複雑 小選挙区候補者・朝日新聞社総局アンケート」で、
リニア中央新幹線のルートは諏訪、上伊那地方を経由すべきか――。この問題をめぐる衆院選の候補者の立場が、地域によって大きく分かれている。伊那谷を選挙区とする5区では、候補者全員の答えが「どちらとも言えない」でそろった。選挙区内に賛否両論のあることが影響したとみられる(中略)
リニア中央新幹線の県内ルートに関して「諏訪地方、上伊那地方を経由するBルートとすべきだと思うか」という質問では、1〜4区の自民、民主の候補者が「賛成」か「どちらかと言えば賛成」。共産の候補者はいずれも「反対」と答えた。
一方、5区の抱える事情は複雑だ。上伊那、下伊那に二分される同区は、Bルート上にある上伊那でBルートを推す声が強い。下伊那では、中心となる飯田市が南アルプス直下にトンネルを建設する直線のCルート上にあり、同市ではこちらを望む意見が多い。結局、全候補者が「どちらとも言えない」を選んだ。
とする。みんな逃げ腰だなあ。
長野県内の国会議員たちも一枚岩ではなくなってきた。
そして、なにげに衝撃な記事はこれ。
伊那市を含む9つの市が、リニア中央新幹線の県内ルートについては、Bルートで推進すべきとして共同で提出した議案に対し、飯田市の牧野光朗市長と、小諸市の芹沢勤市長から、状況を見極めるべきで時期尚早などとする意見があったという
市長会リニアBルート採決見送り伊那毎日新聞2009年8月27日
時期尚早、か。飯田市長がそういう発言するのは分かるが、小諸市長もか。「リニア問題については、意見として県にリーダーシップを求めていくことになった」というのは無責任だけど、丸投げされた長野県庁としても、もうこのままでは収拾を付けられなくなったのでは。
一昨年、JRがリニアの話を持ち出してきたのも突然だったような気がするが、ルート問題1つで対立姿勢を色濃くしてしまった長野県の一部の人もまた拙速だったような気がする。基本、中央リニア新幹線という構想自体が時期尚早なのかも。
とりあえず、ここ数ヶ月、さんざん話題になってきたリニアのルート問題。それを検討していく上で重要となる調査を選挙中にやってくれた中日新聞。GJ!である。
と、共に、こうした県政を二分する施策に対する県民の意向を調査できる立場にあり、またすべきであったのは、長野県庁であり、信濃毎日新聞じゃなかったのかなあとか思ったりもするのだけど、それはまた別の話。