紀州鉄道キハ603の動態保存に5000万円かかります。
毎年9月になると、青春18きっぷ消化の旅に出る。2006年は「高山線代行バスと富山ライトレールの旅」、2007年は「姫新線とホルモンうどんの旅」、2008年は「土讃線とキハ58の旅」&「米坂線の国鉄型気動車の旅」
さて、今年はどこへ行こうかな。北陸鉄道も佐久間のレールパークも行っていないなあ……とか思慮しつつ、9月5日に紀州鉄道へ行ってきました。1960年から走ってきた国内動態気動車最強のロートル「キハ603」の運行がヤバイと聞いていたから。
で、訪問からの帰り、携帯ではてなブックマークのニュース巡りをしていたときに見つけたのが「紀州鉄道の存続模索へ」という同じ9月5日の日高新報の記事。
タイトルだけみれば、紀州鉄道本体の存続が危ぶまれている書き方なんだけど、まあそれはそれ。キハ603の存続がいろいろややこしいという話だったみたい。ああ、だから、職員さんは言葉を濁してていたのか。
紀州鉄道の宝であるキハ603。
それがそろそろヤバいとは十年前から言われてきたこと。
北条鉄道から譲ってもらったキテツ1形(2軸の80年代型レールバスの生き残り)が走るようになってからは、1960年(新潟鐵工所)製のキハ603は予備車となっていた。
紀鉄で動くのはキテツ1とキハ603の2両だけ。キテツ1が検査中はキハ603が大活躍する。最近は週末に鉄道マニア向けにキハ603が運用に入ることも目立つようになった。鹿島鉄道亡き後、キハ20系と同世代の非国鉄系気動車はヨソでは途絶えてしまったんで、気動車史的にはそれなりに貴重な存在となり得た。<参考>
http://rail.hobidas.com/blog/natori/archives/2008/07/603.html
http://rail.hobidas.com/blog/natori/archives/2008/07/post_836.html
鉄道ホビダス 編集長敬白より
(下の写真の左隣は主戦級のキテツ1)
ただ、寄る年波には勝てず、他社から車両を入れることになる。北条鉄道で浮いていた車両をもらい受けた。これは最後の日が近づいたと言うことか。
「日高新報」2009年5月1日「さようなら「キハ603」
「日高新報」2009年6月5日「紀州鉄道 新旧車両が顔合わせ」
→となると、「キハ603の引退は早ければ7月中という可能性もありそうだ」
と気にはなったのだけど、7月時点で紀州鉄道では動きはなく、ちょっと様子見という感じだった。
でも、
日高新報2009年9月5日「紀州鉄道の存続模索へ」
紀州新聞2009年9月6日「紀州鉄道「キハ603」現役引退廃車・保存方針」
という報道が出た。
9月4日に、地元有志の作る「地域と紀州鉄道を元気にする会」と紀州鉄道高恕W社長ら紀州鉄道関係者の意見交換会があって、それを両紙が報道したのだ。
焦点は「地域住民に愛されている『キハ603』が廃車になるのは容認できない」の問題。「許認可権を持つ運輸局に車体を休車扱いできるかどうか聞いてみたい。仮にできるなら運行停止をさせておいても再運行できる可能性は残される」と、日高新報の方はまだ可能性がある主旨の発言を紹介しているが、あまり期待しない方がいい。
紀州新聞は9月27日のさよなら運転の可能性を報道している。
- 元気にする会
- 国の地域公共交通活性化事業で約半分の補助金を受けて、残りは募金と増収で賄うよう努力できないか
- 「現役引退は避けられなくても廃車は変更できないか。休車にして年数回運行させることは可能か」
- その他の意見
- 「引退が避けられないならせめて最後は華々しく飾らせてあげたい。11月29日の御坊商工会議所のイベントにあわせられないか」
- 「市民がどの程度キハ603の存続を望んでいるのか一度アンケートを取るべき。シンポジウムを開催して市民の機運を盛り上げるのも一つの手」
- 紀州鉄道側の意見
- 高崎社長は引退の時期について「車体の状況からみて今月中にも運行停止をしなければならない。暫定ではあるが、27日に引退セレモニーの案もある」
- 「運輸局からの強い指導があり、レールバス2台運行への移行はさせていただく」と今月末での引退を確認
- 「これ以上走らせると事故の危険性もあるので、今月中の運行停止に変更はない。ただ、許認可権を持つ運輸局に車体を休車扱いできるかどうか聞いてみたい。仮にできるなら運行停止をさせておいても再運行できる可能性は残される」(日高新報)
- 「休車が可能かどうか運輸局に聞いてみる。ただ、休車にできたしても整備費や年間維持費、定期検査は必要」(紀州新聞)
- 廃車後は、御坊駅乗換客の待合室、御坊臨港鉄道のグッズ展示、車両内部、運転席に座っての操作、線路に降りて車両のエンジンや機械部品を見学、記念撮影などを検討
6年間で維持費・全検なども含めて5000万円か。
この数字、寄付金で集められる金額じゃないし、御坊市民にそこまで思い入れがあるのか。
地域公共交通の活性化及び再生に関する法律というのができて、やる気のある鉄道には施策の半額補助が国費から出たりするけど、不要不急の動態保存が認められる可能性は低い。
紀州鉄道本体が鉄道部門の維持にどこまで興味を示してくれるのか。「鉄道会社という社会的評価を後ろ盾として「紀州鉄道」の本社が全国でリゾート・ホテル事業を積極的に推し進めてきた」という例の逸話は有名だけど、こういう御時世だと、いつまでも期待はできない。
動態保存にかかる費用をここまで明示したというのは、キハ603を走らせようというなら、金銭的な責任も取ってね、ということなんだろう。休車とか中途半端な処置をしても運輸局の許認可が出るとは限らない。予備車であるキハ603の運転には、運輸局だけでなく、同社のスタッフも不安に思っていたんだし、だから北条鉄道から1両引っ張ってきた。なのに今さらキハ603の維持に巨費をかけるのは無茶だ。
営業線での動態保存という難しい難題がまたまた突きつけられたという気がする。費用を全額紀州鉄道持ちにするというのは不自然である。地元がどうするか、という問いかけに対して、新聞報道を読んでいる限り、「元気にする会」の認識は甘いような気がする。
ここ数年、
- 上毛電鉄デハ101 500万円とも言われた全検の費用→検査費用を10分の1程度の数十万円に抑えて動態保存に取り組む
- 一畑電鉄デハニ デハニ2両を修理・改造した場合、4億8000万円程度かかるとの試算→島根県などが動態保存が可能なのかアンケート集計中
一畑電車デハニ50形活用に向けたアンケート調査
(事務局:島根県地域振興部交通対策課)
という動きもある。
鉄道車両を残せと関係者や趣味人は声高に語るのだけど、維持管理にどれだけの費用がかかるのか。それを誰が負担するのかということには無頓着だ。経済性を無視した無い物ねだりは小鉄道の行く末を混乱することにもなりかねない。ヨソ者の鉄道マニアが遠くからあれこれ言っても意味がない。だからこそ、こうした正味の数字を公開することは大切なんだろう。
その費用をかけて残すことは本当に必要か。地元の方たちや自治体や鉄道会社が創意工夫して、勝算と意義とを両天秤にかけながら決断していくしかない。
なお、現地に行ったとき、キハ603が今月で消えるともなんとも知らず、紀伊御坊駅の窓口で5000円以上の硬券切符を購入した。まあ、紀州鉄道に御布施してきたんだ。
同社は、ここ数年、いろんな硬券切符を出して切符マニアにアピールしているけど、全国500人の切符オタが5000円ずつ買っても250万円にしかならない。鉄コレを出しても、1万個×1500円×0.05が紀州鉄道に入ってきたとしても75万円。撮影する人も乗りに来る人も多くなったとは言え年に3000人も来れば御の字。彼らもあまり同社にカネを落とさないしな。「キハ603の動態保存に5000万円」という果てしなく遠い数字に何とも言えないやるせなさを感じたのだけど、それはまた別の話。
続報
日高新報http://www.hidakashimpo.co.jp/news/2009/10/603-1129.phpによると、
- 10月25日で定期運行は中止
- 11月29日の「復活 商工祭」 で紀州鉄道の顔 「キハ603」 の引退式。