モロッコで120万円を貢いできたという日本人の話

katamachi2007-06-19

 モロッコから帰ってきました。
 帰りの便も行きと同じカタール航空カサブランカ→ドーハ→関西空港というルートでした。モロッコから関空までの所要時間は21時間(ドーハでの乗り継ぎ2時間も含む)。北アフリカだからたいして遠くはないや......と思っていたのですが、いやはやどうしてなかなか遠いじゃないですか。途中、リビアの首都トリポリを経由する便でして、滑走路にランディングすると窓の外から旧式のミグ戦闘機とかが見られてなかなか貴重な体験をしたのですが、さすがにカメラとか向けて監視員に見つかったりするとただではすまないだろなあ。行きも帰りも中国系っぽい人たちが大量に乗り降りしていたというのも意外と言えば意外。さすが華僑の活動はワールドワイドです。
 さて、ドーハからは23:45発のQR820で関空へ向かいます。A340の機内の95%までは日本人。そのほとんどがツアー客なんですね。格安航空券でヨーロッパ往復8万円とか9万円とかバカみたいに安い値段なんで、まあそんな状況は想像できます。

ツアー客の喧噪の中から聞こえてきたノロケ話

 で、これから日本まで10時間のフライト、しかも夜行便で時差が6時間もあるというのに、やたらと騒々しいんですね。もう修学旅行生の貸切バス状態。「あそこは良かったねー」とか「お土産はどこそこさんにはあれがいい」とか「携帯の新しい機能は」とか、もーどーでもいい話ばかり。この二週間、ほとんど日本語を聞いたことがないんでいやでも言葉が耳に入ってくるんです。おい、時計を見ろ。もう0時前だぞ。常識的に考えて、静かにしておくべきなんじゃないか。夏休みの大垣夜行でもこんなにヒドくはないぞ。
 しかもこんな時に限って、なかなか離陸しないんです。ついに時計の針は0時を回りました。なのに状況は変わらず。
 後ろに座っていたアラブ人はついにキレて、「日本人がうるさいから、違う場所に変えてくれて」とパッセンジャーアテンダント(スッチー)にクレームを付けていました。不幸にも満席状態で移るべき場所はどこにもない。さすがにこの状況を見かねたのか、「まもなく離陸しますが、お休みの方もおられるので……」と日本語での放送があり、ようやく機内は落ち着きました。
 さて、定刻30分遅れで離陸。しばらくして私の席の斜め後ろから再び日本語が聞こえてきます。男の方は年配で旅慣れた感じ。東京在住の方でヨーロッパへはカメラ関係の仕事で行っていたらしい。女性は、私と同じモロッコ帰り。マラケシュにいるという知人に会うための旅で、今回で三回目の渡航になるとのこと。機内で偶然隣り合った個人旅行者同士、ヒマつぶしに話し合っているらしい。もっぱら男性が聞き役で、女性の方が一方的に喋っている。まあ、声量を抑えてくれているし、目くじらを立てるほどでもない。
 カタール時間で深夜2時ぐらいに出される機内食の時間まで仮眠でもしようかと目を瞑ろうとしたのですが、どうも眠れないんです。原因は、徐々にテンションが高くなってくる女性の声。「やっぱりモロッコの人々って、フレンドリーですね。親切で。ステキ(^o^)」。ああ、そうですか。それは幸せな旅でしたね。分かったから、もう少し静かに喋ってくれ。
 いやあ、聞きたくなかったんですよ。でも、妙に声優チックな耳障りな語り口なんですね。イヤでも耳に残ってくる。
 しかも、その話の内容。確か最初は現地の知り合いに会いに行くという話だったのですが、カメラマン氏の方が細かく聞いていくとどうも事情は違うらしい。知人というのは現地のアラブ人の男性で、旧市街の近くでなにか仕事をしているビジネスマンらしい。で、「彼は日本語も片言だけど喋れるんで、私はあまり英語はできないし、フランス語もダメなんだけどなんとか意思疎通ができるんですう(^o^)」とかなんとか。「初めて行ったときに道に迷っていると声をかけて助けてくれて」......つて、それって日本人の女の子狙いのジゴロの典型的な作戦じゃないの???

いまどき珍しいジゴロにカネを貢いだという話でした。

 この手の一人旅をしている日本人女性をターゲットにしたナンパ師って世界各地にいます。有名なのはインドネシアのバリ島とか、タイのビーチ、ネパールのカトマンズ、そしてアフリカで一番先進国っぽいモロッコ円高が進み、航空券価格が安くなった90年代初頭にはすでにあちこちで聞かれるようになりました。まあ、他人に迷惑をかけないならご自由にやればいいんでしょうが、当の女の子たち、そして現地のナンパ師たちがそれぞれ別の視点から「男と女のランデブー」の成果を自慢げに語るんですよね。「●▲の男の子ってステキ」とか「オレはこれまで5人の女を捕まえたぜ」とか「日本人と違って純粋にアイしてくれる」とか「日本の女ってバカしかいないのか」とかなんとか。私を含めた他の日本人にとって、それを聞かされるのは、正直、不愉快でした。カネを貢いで、アイを求めて、でも裏切られて詐欺だと分かって泣き寝入りしている人たちが少なくない(てか、多い)わけで、実際、そうやって鬱状態に入っていた旅行者をカルカッタで介抱したこともありました。さすがに「あんた、騙されるってバカじゃないの」とは言えませんでしたが……。まあ、この手の話は90年代にはあちこちで聞かれたのですが、ここ4、5年はめっきり減ったような気がします。一つは10歳代、20歳代の若い子で海外個人旅行に関心を示す層が減ったこと(https://www.jata-net.or.jp/tokei/004/2002/06.htm)、もう一つは日本の女の子が成熟して海外に出て"リゾラバ"(15年前の死語)をする必要がなくなったこともあるのでしょう。
 で、件の日本人旅行者。どーも、今回、モロッコに行ったのは、そのアラブ人の男、っていうか"カレ"にオカネを渡すのが目的だったようです。それを聞いた隣席のカメラマンの男。口調が変わってきます。この娘がジゴロに引っかかっていることをお見通しのようです。
「へー、ビジネスでヨーロッパに行くなんて、精力的な活動されている方なんですね。で、資金はどれぐらい必要だったんですか」
「う〜ん、8万ディラハムぐらいですか(^o^)」
「えっ、日本円で言うとどれぐらいなんです」
「100万円ぐらい(正確には120万円)です。3分の2は米ドルで持って行きました。」
 "カレ"は有能なビジネスマンであり、これはあくまでもカネを貸しているだけ。1年以内に返してくれる約束らしい。将来は日本に呼び寄せて、こっちの方でも仕事をしてもらいたい。それを今回言ってみたのだけど、まだその時期ではないと断られた......と。でも両親公認の仲だし早く日本に連れて行きたい............
 ここまで聞いていてついに我慢ができなくなりました。こいつ、どんなヤツなのか。後ろを振り向いてみると、彼女の隣席に座るカメラマン氏と目があいました。そして、お互いニヤリ。この人も笑いをこらえるのに必死だったようです。お気の毒に……
 さすがに、カメラマン氏も、幸せの最中にいる旅人にツッこむような無粋なことはできなかったようです。かといってアイとカネの話以外に関心を持てるような話題もなかった模様。やがて会話は途絶え、再び機内に静穏が戻りました。
 そんなこんなしているうちに、ようやく機内食の準備ができたようです。ただいまカタール時間で深夜1時40分。こんな時間に晩飯は食えないよ...と思うのですが、出されたモノを残すというのも、もったいない。選択肢は日本食とチキンとがあるが、行きの便で食べさせられた日本食が激マズだったんで、まあ無難にチキンにでもしておこうか。この時の選択がマズかったようです。やたらと重かった植物油のせいか胃腸がやられてしまい、翌朝の機内食はほとんど食べられませんでした。それから数日経った今でも胃腸のだるさは解消せず、今朝、病院でクスリを処方してもらってきたのですが、それはまた別の話。