日本の空港と鉄道で24時間化が進まない理由

katamachi2007-08-23

具体的な政策の一つに、東京メトロ都営地下鉄の統合と24時間運行化が考えられる。東京都は東京メトロの大株主である。保有している株式は全体の46.6%。残りの53.4%は政府が保有している。この46.6%の持ち株を足場に、東京メトロと一体化できる方法を考えていく。そして、24時間運行が望まれる中で、どういうサービスが都民に対して必要かを検討し、方向性をつかんでいくことが大切だ。
猪瀬直樹の「眼からウロコ」 都営地下鉄と東京メトロの一体化・24時間運行を考える(2007/08/21)

 また出てきた大都市での24時間運行化話ですね。評論家猪瀬直樹や作家石原慎太郎が言っていてもただのホラ話だけど、東京都知事東京都副知事が言い出すと重みも変わってくる。
 最大の課題となる「鉄道線路の保守」の話は、REVの日記 鉄道の24時間運行話で整理されているのでそこを参照。これにこだわると話が進まないので今回は言及しません。

日本の空港が24時間化しないのは需要がないというただそれだけ

 関西空港が開港した頃も、空港アクセス列車の深夜列車の運転について検討すべきだみたいな話が記事になっていました。こっちはJR阪和線南海線と二つあるので、毎晩、交互に運転して、片方は保守点検をすればいいみたいな話になっていましたが、もちろん具体化しませんでした。
 他にも理由はいろいろありますよ。

  • 空港・航空会社・鉄道会社の勤務者の経費と労働条件。
  • 日本の街が24時間化していない。

 でも、ここらを言い出したら、タマゴかニワトリかの話になるんですよね。猪瀬直樹もその次元で話を止めている。本気で地域活性化のため街の24時間化を進めるならば、風営法による時間制限を撤廃して色街を24時間体制で運営させるのが先決でしょう。当然、先端的な消費傾向を作り出す中高生や大学生、若い女の人たちもオールナイトで自由に遊ばさなくちゃ。もちろん賃金の深夜割増なんて面倒なことは全て撤廃する。無頼派を気取る小説家と評論家にはそんな覚悟があるんだろうか。
 実務面をもう少し考えてみると、

  • 客は深夜発を好まない。客の多くは日本人だし、日本時間にあわせたスケジュールを組んでいる。だから午前9〜12時の便に人気が集まってそこだけやたらと混み合う。
  • 深夜発着が多い他国の空港、たとえばバンコクとかドーハ、ドバイなんかの空港を見ると、他国・他地域からの中継地点、すなわちハブ空港として使われているケースばかり。深夜に街へ、あるいは街から移動しようにも公共交通機関はないからタクシーのみ。ごくごく一部の夜の街を除けば閑散としています。
  • 航空会社が深夜便を出したがらない。時差を考えれば分かるが、仮に日本午前2時発の便があっても、アメリカ大陸に着くのも深夜1時頃。ヨーロッパと東南アジアは早朝。そこから仕事なり観光を始めるのはかなり体がキツいし、利用者は敬遠してしまう。飛行機の回転率を上げたい会社側にしても不利益が多い。

 そもそも地球儀上での日本という島の立地が悪いわけで、海外に行ったことのない学者や公務員、マスコミがいくら「ハブ空港は素晴らしい」と唱えても実体が伴っていないからややこしいことになるんです。
 でも、深夜22〜1時頃発、早朝5〜7時着という便にはそれなりに需要があると思います。特に東南アジアを深夜に出て日本(成田、関空、中部、福岡……)へ早朝に戻る深夜便はここ10年ほどでかなり拡充されています。バンコクの空港なんて23時頃は日本人の観光客だらけですね。
 一時期、1996年頃からタイ航空が関空に深夜1時や3時に発着する便を運行し(バンコク→ロサンゼルス便が給油のついでに立ち寄る感じ)、それと接続する深夜バスが大阪市内との間に運行されましたが、共に経費の割には利用者が少なくて中止されています。
 ただ、その後、タイ航空が関空深夜1時台発の便を設定すると、意外に人気を集めます。値段がやや安めに設定されている上に、朝のバンコクでの東南アジアやインド方面の接続がいいんですよ。エミレーツ航空カタール航空トルコ航空ウズベキスタン航空など中東付近行きのエアラインも関空23時発の便を飛ばしてそれに追随しています。ヨーロッパ方面行きもそれで新規需要が開拓できるかもしれない。関西国際空港のフライトスケジュール
 理想を言うならば、関空なり羽田なりに国内他地域や中国あたりから20〜22時台に到着する便を集中させ、23〜1時に東南アジアやヨーロッパへ出発する便を整備するとかなり便利になりますよね。そうした国内でのネットワークを造って初めてハブ空港となりうる。でも、福○とか富○とかの中小都市は自分のところに国際線を飛ばして「国際化」を進めることばかり考えているんですよね。需要を分散させすぎて核となる空港の整備が進まない。こんなバカな施策を取っている国ってヨソではありませんよ。
 ネットワーク造りが重要なのは鉄道の24時間化にしても同様でして、地下鉄や空港アクセス鉄道だけを24時間運行しても、それと接続する他路線でも24時間運転しなければ全く意味がない。鉄道線はスタンドアローンで成立しているのではない。都心居住者よりも郊外居住者の方が圧倒的に多いという現状を見れば、そして12月31日から1月1日にかけて運転される終夜運転の実情を見れば当然のことですよね。
 ニュヨークやロンドンと都市構造も風俗も生活スタイルも違うのに、そこでの話を日本に持ち込んで理想化する悪習はそろそろ止めればいいのにと思うのですが、それはまた別の話。

追記

 タイ航空の関西空港発の深夜便(バンコク・ロス発着便)って、ここ十数年、関西のバックパッカーに愛されてきたんですが、その運転ダイヤをころころ変えているんで分かりづらいんです。wikipediaのタイ国際航空だと05年11月にバンコク〜ロス便が関空を経由しなくなったことを書いてますが、それ以前も運航を止めたり再開したりの繰り返しでした。ちなみに、関空バンコク行きの深夜便は06年夏ダイヤでは運航を止めていたのですが、07年夏ダイヤでは関空1:25発として復活しています。
 検索エンジンをかけてみると、タイ航空が微妙な時間帯に運転したのは1997年夏ダイヤだったことがここのサイトで分かります

 これにあわせて0時〜4時とかにバスが運行されたんですが、手元に時刻表がないんで詳細が分かりません。ネットの検索エンジンって2000年以降の情報はムダなものも含めてたくさん引っかかるんだけど、80年代や90年代って本から孫引きしたor自分が見た情報しか見つからないんだよね。10年後のナウなヤングはどうやって現代史を調べていくだろうか。
 とりあえず、自分も、一度、ヒマなときに時系列的に調べてみよう。