但馬空港について調べてみた
「青春18きっぷで乗降客数本土最下位の但馬空港へ行く。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続き
さて、今回、但馬空港についてはどんなところなのか下調べをせずに行ってみた。
鉄道は好きだけど、飛行機はあまり興味がない....というか、どちらかというと苦手にしている自分がなぜにこだわって、用事はないし急いでもいないのにわざわざ7900円ものの大枚を払ったのか。それは、この空港の立地と環境の特殊性にかねてから惹かれていたからだ。
但馬飛行場 - Wikipediaを参考に、この空港の基礎情報をまとめてみよう。
- 愛称 コウノトリ但馬空港
- 場所 兵庫県豊岡市岩井
- 空港種別 その他飛行場
- 開港 1994年5月
- 建設費 180億円
- 運営 兵庫県
- 滑走路長 1200m
- 運行本数 日本エアコミューター伊丹〜但馬便2往復
この空港が際だっているのは、定期便が伊丹〜但馬間のみで、1日最大で2往復、しかもプロペラ機しか運航されていないということだ。
飛行機はプロペラ機のサーブ340B。定員36名だから、2往復運行時でも最大片道72名しか運べない。特急「はまかぜ」中間車に使われるキハ180の定員76名/両よりも少ない計算だ。1月の平日は夕方の1往復しか飛ばないので、その半分しか輸送力はない。
かくして、但馬空港の年間乗降客数は2万8千人(2006年度)。後述するキャンペーンのお陰なのか但馬発の乗客は降客より多めだが、それでも41人/日に過ぎない。*1。貨物はゼロt。
この数字は、現在、定期路線を持つ日本の空港ではワースト10に入る。離島を除いた、本土4島の空港ではダントツのビリだ。
だって、1月17日夕方の但馬空港の利用者は、到着便19人、出発便20人の計39人(うち6人×2=12人分はマイル修行僧)。このために、機長1人、副機長1人、スッチー2人、カウンター4人、搭乗手続き周辺4人、売店1人、喫茶店1人、滑走路で7、8人……と目に付いたのはそれぐらい。これに、裏方さんを含めると、30人以上の人が関係しているのだろう。それだけの人材を投じてまで維持しなければならない価値があるのかどうか。よく分からない。
但馬空港なんかなくても鉄道やクルマでいいんじゃないの?
そもそも、但馬空港と伊丹空港は70マイル、113kmしか離れていない。所要時間は35分。前後のアクセスを考えると、大阪市内と豊岡市内の移動は2時間半ほど見ておいた方がいい。
一方、大回りしているJR特急は、豊岡〜大阪間を174km(福知山線)、2時間半ほどで結ぶ。
その運賃と所要時間の比較は以下。
- 飛行機 豊岡17:20→17:35但馬空港18:05→18:40伊丹空港→19:40大阪梅田(普通運賃なら13,320円)
- 特急「はまかぜ」 豊岡17:20→20:11大阪(自由席4620円)
- 普通乗り継ぎ 豊岡17:34→18:48福知山18:57→21:19大阪(18きっぷなら2300円)
となる。
豊岡を起点に考えると、特急と飛行機利用は30分ほどしか時間は違わない。さすがに普通運賃13,320円で乗る人はいないだろうし、僕らと同じ特便割引7,900円での利用がほとんどなんだろう。それでも特急より7割増の運賃がかかってくる。普通・快速乗り継ぎでも3時間半ほど。但馬空港を使いたいという目的がなければ、僕らもそうしただろう。隣接する京丹後市や福知山市からだと、JR利用の方がもっと便利だ。
さらに、和田山八鹿道路が2011年に完成すると、大阪・神戸と豊岡市の隣の養父市が高速道路と自動車専用道で結ばれる。クルマでも2時間半ほどで移動が可能だ。
ならば、そんな近距離に航空路線が必要なのだろうか.......素朴な疑問は浮かんでくる。
そして比較的距離があって、集客力がある但馬〜羽田便を飛ばせばいいのに、とは思う。
豊岡市役所も兵庫県庁も、伊丹便わり羽田便の方が本命である.....ということは容易に想像できる。たとえば以下の記事。
県と但馬は、東京直行便の実現を目指し、二〇一〇年度中に完成予定の羽田空港第四滑走路で、ブロップ機の乗り入れが可能となる「コミュニティー機枠」を創設するよう運動している。
但馬−羽田の直行便に ブロップ機、デモフライトでPR日本海新聞
この羽田便への待望は、兵庫県庁のホームページの以下のページhttp://web.pref.hyogo.jp/contents/000111431.pdfでも訴えられている。ターミナルの玄関前にも下の写真のような看板が掲げられていた。
ただ、開港から15年。いまだに定期便が就航しないのは、
- 但馬空港の需要があまり見込めず、各社とも羽田便の運行に躊躇しているから
- 但馬空港の滑走路が1200mと短くてジェット機が離発着できないから
- 羽田空港の発着枠が逼迫していて、プロペラ機で需要の小さい但馬便を就航させる余裕がないから
というのも想像できる。神戸新聞の「羽田空港に新滑走路 但馬―東京直行便へ機運」という記事が的確に問題を浮き彫りにしている。
で、2010年秋に羽田空港の滑走路が増設されたら、発着枠に余裕が出来たら、但馬発のプロペラ機も東京まで乗り入れさせてもらえるのでは.....という期待も地元にはある。
だから、日本海新聞の記事にあるように、七十二人乗りの「ATR72−500」のデモフライトが実施されたんだろう。記事には代理店の伊藤忠商事側のコメントのみで、地元の意向は記載されていないのが不思議。但馬空港開港時には、「使用機材のサーブ 340Bは兵庫県が14億円で購入し無償貸与するという異例の条件」で日本エアコミューターに就航をお願いした経緯もあるようだ(wikiより)。伊藤忠は県庁に、このATR72−500を買ってもらうことを狙っているのかな。
この後、但馬空港がどうなるのかよく分からない。伊丹便の運営会社であるJACも親会社のJALも、但馬空港へ貴重な機材や人材、カネを投じるぐらいなら他の路線に回したいと考えているんじゃないの……と思ってみたりもする。
で、最近、やたらと豊岡市など地元自治体は運賃助成に力を入れている。
普通運賃12,400円。これが豊岡市と但馬空港推進協議会の助成制度を使うと5,400円となる。特便割引だと4,000円。68%引き。特急「はまかぜ」よりも安くなる。東京往復26,800円というツアーもある。(http://www.tajima.or.jp/modules/kukou/index.php/jyosei.html)
僕は7900円でも安いなあ……と思って、興味半分で利用してみた。でも、豊岡市民と通勤者たちはその半分ぐらいで利用できるのか。この不平等さというか、自治体の補助金の大盤振る舞いぶりに、なんだか非常に不可解なものを感じた。いいのか、それで??
「はまかぜ」への新車導入が遅れているのも、山陰本線経由の「出雲」が消えたのも、但馬地域の自治体が空港にばかり力を入れていたから??
豊岡市のホームページを見ると、年間目標搭乗率を70%とする「コウノトリ但馬空港利用促進大作戦『ターゲット70(ナナマル)』」と題した利用促進大作戦を展開しているようだ。市職員の大阪・神戸出張は原則飛行機利用とか、市内の小学生673人が遠足で伊丹便利用だとかいろいろやっているようだけど、それだけズブズブに公費を投じて搭乗率を底上げしてもあまり意味がないのでは??
というか、このホームページの一番下に「チーム・マイナス6% - みんなで止めよう温暖化 -」という日本政府のキャンペーンの文言が書かれている。ならば不要不急で環境に優しいとは言えない但馬空港の使用を停止すればいいのに……なんてことは県庁や地元市役所では口を出すこともできないのかな??
需要を喚起するために補助を出す自治体の動きは好意的に報道されることが多いけど、本当に空港を建設し、維持し続けるだけの効果があるのかどうか、きちんと分析がなされているとは思えない。ここ20年ほどの間にできた空港ってそんなところばかりだもんなあ。国際線を飛ばしたがる地方空港なんかもそうなんだけど、90年代の航空政策って需給バランスと戦略に欠いていたということをつくづく感じた。
と言いつつ、1年前に行った波照間空港とは別種の、過疎空港特有の雰囲気に魅了されたというのもまた事実。次は能登空港か石見空港、大館能代空港、佐賀空港だな……と思ってみたりもするのだけど、それはまた別の話。<参考>
定期便廃止間近の波照間空港へ行ってみた。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
波照間空港の備忘録 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
(いずれも2007.11.9)