特急「北近畿」に乗りながら北近畿タンゴ鉄道と「タンゴエクスプローラー」を考える

katamachi2010-10-17

 前回「来春には消える元485系の「はしだて」と「北近畿」を乗り継ぐ - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続き
 大阪と北近畿を結ぶ特急「北近畿」の改称が検討されているという。

JR西日本が来年3月、阪神間丹波、但馬を結ぶ特急「北近畿」(新大阪‐城崎温泉)の名称を「こうのとり」に変える方向で検討していることが7日、分かった。
特急北近畿、「こうのとり」に改称検討 JR西神戸新聞2010.10.8

 空港や駅舎や公共施設に「こうのとり」と名付けて地域おこしをしている豊岡市などの意向も反映したものなんだろう。早さとか快適さをイメージさせる名前ではないけど、まあそれはそれでいいのかもしれない。
 この特急「北近畿」。とにかく存在感が薄い列車だった。

あらゆる意味で中途半端だった「北近畿」に福音は訪れるか

 「北近畿」が登場したのは1986年、国鉄分割民営化の直前のダイヤ改正だ。宝塚〜福知山〜城崎間の電化にあわせて設定されている。
 電化工事の当初、振り子電車が投入されるとか喧伝されたというが、国鉄の懐事情もあって紀勢線や各地から集められた485系がここに集中投入された。代わりに消えたディーゼル特急「まつかぜ」とさほどスピードは変わらず。遅くなるのも何本か。同じ改正で新車特急が回された北海道や四国と比べると扱いはかなり悪かった。
 そして愛称名の「北近畿」。申し訳ないが旅情や爽快感と皆無の名前だ。近畿の北部を示唆する、という意味では分かり易いとも言えるが、名前に余韻や想像力を喚起しない名前になった*1。あと、読みの「きたきんき」。「き」が3つという語感に妙な違和感を抱く。
 従来通りなら「丹波」「但馬」などでも良かったのだろうけど共に急行で使ってきた名前である。「城崎」など特定の観光地名を選択するのも、京都府兵庫県双方のメンツもあってやりにくかったのか。
 それから四半世紀。各車とも車齢が40年前後となり、かなり設備面ではガタが来ている。
 1991年の北陸の七尾線電化の際、113系415系800番台に改造するのにあわせて、福知山線485系の交流機器を引っぱがしてその資材に使われている。形式は183系に代わった。1996年に山陰本線園部〜福知山と宮福線などが電化されたときに「きのさき」「たんば」「はしだて」の電車特急が登場したが、やはり走っているのは同じ車両。北陸特急のお下がりなども頂戴したけど、基本、お下がりが集中的に回されているだけだ。

 ここ2、3年、183系(元485系)は鉄道趣味的には貴重となったんで、定期運用に入っている間に撮っておきたいというマニアも多くなっているようだが、正直、それまではあまり話題になっていない。
 なんで、今回、新車が46両もいっきに入るというのは青天の霹靂でもある。普通列車は223系がすでに相当数置き換えられいるし、特急の投入は遅すぎたというべきか。
 「こうのとり」という目出度い存在の鳥が"乗客増"という福音を持たしてくれることを期待したい。

丹後から大阪への旅客流動はいかなるものか

 一方で、前回書いたように、大阪・北近畿タンゴ鉄道直通特急は廃止が検討されているという。
 京都新聞の続報は「JR西の特急廃止検討に利便性確保を願う声」と「利便性の確保を願う声が」としているが、当の天橋立観光協会の会長自体、

  • 「直通がなくなることのイメージダウンが心配だ」

としつつ

  • 「もともと便数も少なく、不便になる印象はない」

とも語っている。

 気の毒だけど、まあ、そうなんだろうな。
 北近畿タンゴ鉄道から福知山線に直通する特急は1日3往復しかないんだから。下りだと新大阪1103発の「タンゴエクスプローラー1号」は観光需要にマッチしているが、それ以外はあまり使えなさそう。
 実際、前回書いた宮津での会議に参加していた人たちの1人は丹後在住。出張で鉄道を使ってあちこちに出かけるが、他の経済人も含めて京都方面に向かうことが多いという。大阪へ行くのは1日3往復しかないんで自在に選択が出来ないということは分かっているし、福知山で乗り換えることが前提、と。
 彼の会社は観光業も営んでいるんで鉄道利用の方はいらっしゃるのか聞いてみると、そもそも鉄道で丹後に来る人は絶対数で言うと高速1000円化・無料化以前からほとんどいなかったという。真夏の海水浴シーズンも、冬のカニのシーズンも。まあそういうことなんだろうなあとは分かっていたけど、鉄道の占めるウエートはかなり低いみたい。
 というか、大阪駅や京都駅に行っても、特急列車の名前や車種や行き先がバラバラなんで、なんだかどの特急列車に乗ればいいのか分かりづらいんだよね。
 それは丹後に住んでいる彼も指摘していた。
 京都発の特急

大阪発の特急

 わずか2路線に8系統も存在する。

 国鉄の非電化時代から多種多様な名前と行き先の急行列車が運行されていたけど、特急は「あさしお」1往復以外は基本福知山・城崎方面行きに統一されていた。ただ、京都府の要望で山陰本線舞鶴線北近畿タンゴ鉄道宮福線が電化された後から複雑怪奇なルートと名称が混乱することになる。
 山陰本線京都口、福知山線大阪口から福知山までが幹となっている一方、その先の枝に当たる部分は山陰本線豊岡口に舞鶴線北近畿タンゴ鉄道宮福線宮津線と多岐に分かれている。
 しかも、北近畿地区には、福知山、綾部、舞鶴宮津豊岡市などの都市があるけど、いずれも人口規模は小さくビジネス需要も限定的なもの。平成の大合併で「市」と名乗る自治体が増えてもそれはなんら変わりない。観光需要も限定的。90年代に高速道路が充実したことで大量輸送機関である鉄道の存在感は薄まった。それに高速道路の1000円&無料化が追い打ちを掛けている。

タンゴエクスプローラーKTR001系の調子は大丈夫か

 それに輪を掛けたのが北近畿タンゴ鉄道の特急車の存在だ。

あるのだけど、その使用車両は別名称となっている。
 今回、大阪口から消えると伝えられている「タンゴエクスプローラー」がいろんな意味でややこしい存在になっている。
 ゴールドの塗色は登場した20年前には新鮮だったが、3両編成であるがゆえに京都・大阪口の輸送力としてはやや物足りない。6両は大杉。
 当初京都口で使用されたが、1998年の舞鶴線電化後、京都府の思惑もあって大阪口で転属される。ただ、尼崎事故後、ATS-P未設置であるため2年ほど京都口に再転出、ようやく2007年に福知山線に戻ってきたら4年でお役ご免……
 一方、ハイデッカーの車体から乗り降りするのはちょいと不便。バリアフリーなんて言葉が一般化される前からあった車両なんで致し方ないんだけど。わずか2編成であるがゆえに他の183系(来春からは新車も)とサービス面で統一化が図られていないというのもJR西日本的には使いづらいとも言える。
 最大の問題は、タンエクに使用されているKTR001系の調子が悪いこと。
http://rail.hobidas.com/rmn/archives/2010/09/jr183_14.html
にあるように、車両の不具合で183系が代走している。ここ数年、それが頻発していたようで、おい大丈夫か、とマニアの間では心配されていた。
 北近畿タンゴ鉄道の第27期事業報告(2008年度)http://ktr-tetsudo.jp/about_ktr/H20jigyouhoukoku.pdfによると、

  • 特急車両を中心とする車両修繕費の大幅増加

との記述もある。第28期(2009年度)http://ktr-tetsudo.jp/about_ktr/%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdfになると、修繕費16.9%とさらに膨らんでいるらしい。
 過去の報告を見ても、

  • エンジンの予備で1000万円
  • ATS-P設置で7800万円(2編成でそんなにするのか!!!)

……とカネ食い虫であることがよく分かる。
 それだけカネをかけて今夏に休車の連続……というのは何かがおかしい。
 新製から20年。40年選手の元485系と比べると、まだまだ車齢は若いと思うが、ガタが来ているのか。同世代の名鉄もと北アルプスは廃車された。でも、タンエクのベースとなったキハ183系550番台はまだまだ元気だ。保守に手抜きをしていた.....とは思いたくないけど、どうなんだろう。
 新聞記事では触れられていないけど、今回の大阪〜北近畿タンゴ鉄道特急撤退のニュースの裏にはそうした事情があるのかもしれない。KTR001系の新大阪までのロングランが難しくなったということか。

というアイデアもあるんだろう。
 ただ、それもオトナの事情が絡んでくる。車両使用料に関係する問題が出てくるのだ。

大赤字を抱える北近畿タンゴ鉄道はどうなるんだろうか

 北近畿タンゴ鉄道は借金をしてまでも特急車を16両揃えて、それをJR西日本に乗り入れさせることで車両使用料を頂戴してきた。2008年度まではそれが微増してきたようだが、「タンゴエクスプローラー」が乗り入れないとなると減額は必至。逆にJR西日本車が入って来るとなると、北近畿タンゴ鉄道JR西日本に払う車両使用料が増えてしまう。
 おそらく新聞報道通り、来春以降、JR西日本北近畿タンゴ鉄道は「はしだて」と「タンゴディスカバリー」を京都〜舞鶴線宮福線に相互乗り入れするのに留めるのだろう。大阪から集客できていない利用実態からしても、京都府が出資している北近畿タンゴ鉄道の性格からしてもそれが妥当だろう。「ディスカバリー」2両編成が「北近畿」改め「こうのとり」に連結されて朝夕に1往復ずつするくらいが適度の輸送力なんだろうけど、そんなことを考える余裕もないか。

 ただ、永年、「新型特急車を入れるのにカネがかかって減価償却できていないから赤字が続く」と言い訳してきたことが通用しなくなってしまう。
 というか、

同社は1990年度から多額の赤字を計上しているが、新製した特急用車両の減価償却に伴うものである。2009年度の経営状況は、第三セクター鉄道の中で一番赤字額が大きい
北近畿タンゴ鉄道 - Wikipedia

ということがマニアの間では今でも語られているのだけど、そもそも新車を入れたのは14年前。減価償却費が経営を圧迫していたのは一時代前である。


 北近畿タンゴ鉄道の経常損益は凄まじい。北海道ちほく高原鉄道亡き後、国鉄ローカル線引き継ぎの第3セクター鉄道ではダントツのワーストワンだ。

  • 2003年度 5.4億円(営業収益14.7億円)
  • 2005年度 5.8億円(同13.5億円)
  • 2007年度 5.7億円(同13.8億円)
  • 2008年度 7.4億円(同13.9億円)
  • 2009年度 7.2億円(同12.8億円)

と、2008年度以降、危機的な数字に陥っている。

  • JRのOBの枯渇による新人採用の増加
  • 老朽化の進む宮津線のメンテ
  • 燃料費高騰
  • 2009年度から始まった高速1000円化→無料化

など特殊要因はあるが、ちょっとヒドすぎる。高速1000円化が始まる以前から赤字額は膨らんでいる。それ以前の話ということもある。
 とりあえず京都府庁は年間7〜8億円ぐらいの損失が出ても支えていく気持ちはあると思う(じゃないと新人は雇わないよなあ)。鉄道を廃止するという選択肢は公共交通維持という建前をもちろん、政治的にも難しいんだろう。丹後地区を切り捨てることは出来ない。
 だけど、ここの赤字はかなり深刻だ。どうすればいいのかさっぱりアイデアが思いつかない。高速無料化で国の政策が全く読めないというのが最大の要因でもあるのだけど、それはまた別の話。<参考>
来春には消える元485系の「はしだて」と「北近畿」を乗り継ぐ - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

*1:先例として「西九州」という急行が存在はした