リニア中央新幹線「1県1駅」方針と地元各県の反応。

katamachi2009-06-11

 JR東海松本正之社長は8日、都内で開かれたリニア中央新幹線建設促進国会議員連盟の総会で、平成37年に東京−名古屋間で開業を目指すリニア新幹線について、沿線の神奈川、山梨、長野、岐阜4県の「1県に1駅ずつ設置するのが適切だ」と話した。「1県1駅」という方針を正式表明したのは初めて。
リニア「1県1駅」を正式表明 JR東海社長産経新聞2009.6.8

 バブルの80年代末ぐらいからどこに駅を造るのかは散々噂されてきましたが、社長自らが国会議員の前で方針を打ち出しましたか。「JR東海は当初、リニア新幹線の営業速度500キロという特性を生かすため、沿線4県に駅を置かない方針だった」というのは僕には記憶はないんですが、「1県1駅」というのは落としどころとしてはそんなところなんでしょうか。
 これを受けての地元の反応を整理してみた。

神奈川県

山梨県

岐阜県

    • 東濃地区で複数で誘致活動。
    • 中津川、恵那、飛騨、長野県木曽地域の商工団体「東濃東部リニア停車駅誘致期成同盟会」→2008年11月から「東濃地域全体で一つの駅の誘致を目指す」方針→「岐阜東濃駅」(仮称)誘致リニア中央新幹線:1県1駅 戦略会議開催へ 県、誘致から地域活性化目指す毎日新聞2009年6月10日
    • 古田肇知事は「岐阜が丸ごと首都圏になる。どのような県の発展を展望するか、戦略会議を立ち上げたい」と述べ、リニア中央新幹線を生かした地域づくりを検討する組織を、県として近く発足する考えを明らかにした。古田知事は、1県1駅計画に関して「ありがたい話だ」と歓迎。東濃地域に想定される中間駅の位置について「東濃は一つだということで率直な意見交換をしたい」と地域の総意をまとめる考えを示した「リニア1県1駅」受け、県が戦略会議立ち上げへ岐阜新聞2009年06月09日
    • 中津川地区が候補とは80年代ぐらいから言われてきた。JR東海の気分次第では県内での新駅スルーされる可能性もあったわけで、一安心と言うところか。ちなみに、首都移転構想はどうなったんだろ……

国土交通省

    • 金子一義国土交通相は9日の閣議後会見で、JR東海が「中央リニア新幹線」に「1県1駅」設置を正式表明したことについて「合理的な判断だ」と評価した。その上で、「地元調整が順調に進むといい。その結果、ルートもおのずから決まってくると思うので見守りたい」と述べた1県1駅は「合理的」=中央リニア、JR東海表明で時事通信2009年6月9日
    • 2009年6月9日の金子大臣会見要旨http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin090609.html「1県1駅は合理的な判断だと思います。JR東海が地元に丁寧に説明をされておられる、汗をかいているとのお話しを伺っていますので、なるべくそれが順調に進むと良いなと。その結果、ルートも自ずから決まってくると思いますので、それを見守りたいと思います。」「今4条件を提示しているので、地元との調整、ルートの決定が一番のポイントだと思います。それがまとまっていけば、当然ですが制度設計が出来て、需要予測、料金設定といったところへ進んでいくと思うので、まず入口の地元調整を最優先して努力をされていると思います。」
    • まあ、国交省としてもそこらは了解済みということで。地元調整は国土交通省としてはやらないということか

長野県

リニア「1県1駅」見解 「事業進むのか」と知事信濃毎日新聞2009年6月11日
「それで事業が進むのか!」リニア1県1駅構想で長野県知事産経新聞2009.6.10

    • 「中間地点の駅は経営的に大してプラスにならないとみているのは理解できるが、それで事業が進むのだろうか」
    • (建設費全額地元負担について)「鉄道事業者がそうしたことを常識的に言うのだろうか」と批判
    • 「とりあえず聞き置く」

80年代末の段階でルートを先送りしたツケが今来ている

 「それで事業が進むのか!」「とりあえず聞き置く」との発言は凄いなあ。
 ああ、とことんまで諏訪地区での駅設置にこだわるのか。岐阜・神奈川・山梨県が県内1駅の前提で調整を始めると表明したのに。国交相も同意しているのに。


 興味深いのは、JR社長会見の翌日、諏訪市役所で行われたリニア中央エクスプレス建設促進諏訪地区期成同盟会(会長・山田勝文諏訪市長)を対象にしたリニア中央新幹線整備計画の説明会。
 リニア新幹線Bルート改めて要望 諏訪で説明会 (長野日報:2009-6-10)から発言を拾っていく。

  • 山田諏訪市長「私たちはリニアの応援団として運動を展開してきた。それが一昨年暮れ、JR東海から(南アルプスを貫く)Cルートが浮上し、寝耳に水のことで困惑した」と述べた。その上で、国土の均衡ある発展、地域振興の観点から「Bルートが最良と考えている」と改めて強調
  • JR東海道新幹線21世紀対策本部担当課長が参加。「率直に意見交換したい」→非公開「山梨実験線建設の経緯や中間駅の構造やイメージ、自己負担を前提にした計画について説明」
  • 有賀昭彦諏訪商工会議所会頭「県民としてBルートと決め、県議会でも採択されている。その重みをどう考えているのか」
  • JR「Cルートと決めたわけではない。いずれかのタイミングで調査結果を報告したい」
  • 山田諏訪市長「一時より強烈なCルート論は引っ込んだ。とにかく県で音頭を取り、一本で進めていくことが大切だ」と指摘


 JR東海はリニア構想を発表した80年代末以来、そのルートについては明言を避けてきた。もちろん甲府から飯田へと直行する「Cルート」が念頭にあったからだ。
 リニア構想の前身である中央新幹線構想が話題となったのは、それより先の1973年。田中角栄首相の手で全国新幹線鉄道整備法の路線の中に盛り込まれたのが契機である。当時、飯田周辺では国鉄中津川線(飯田〜中津川)の工事が予算が付かずに中途で放置されていた。試掘が始まっていたトンネルを中央新幹線に転用することが期待されたりもした。
 ただ、この時点では、甲府と飯田の間については何も明言されていない。
 そして、80年代、いつしか田中角栄は権力者の座から引き下ろされ、中央新幹線は新幹線形式じゃなくてリニアでやるって話に膨らんできて、その弟子の1人である金丸信副総理が山梨県にリニアの実験線を持ってくるのだが、ここでも結論は先送りされている。
 もちろん、JRや国や鉄建公団はCルートありきで考えていたのは誰にでも想像できるんだけど、最終的にどうするかは先送りしてきたんだよね。みんな。グレーゾーンにしておけば、とりあえず政治的軋轢は生じない。

長野県民もBルートで一本化されているって訳でもないんですよ

 まあ、長野県民以外にとっては諏訪に行こうが行くまいがどうでもいい。飯田経由・Cルートでいいよとは思う。ネットの住民が長野県庁や長野県知事、商工関係団体などの言葉に反発を感じるのも当然。おらが県にだけ2つ駅を造れ……と主張するのはワガママにしか見えないし、土木業に依存してきたここ数十年の地方政治の汚い側面を見せつけられたような気がするから。ネットでは賛同者はへとんどいなさそうだし、信濃毎日新聞など長野県絡み以外のマスコミもスルーしている。
 そして、長野県は、1989年にリニア中央エクスプレス建設促進長野県協議会で県内ルートは諏訪回りのBルートで一本化。県議会で議決したり、イベントを開催したりしながらBルート当然というスタンスを固めてきた。もう20年間も。これじゃあ後戻りできない。振り上げた拳を収めるタイミングを失った。
 そもそも長野県民はどう思っているのか。
 長野県世論調査協会http://www.nagano-yoron.or.jp/ってところが、4月16日に世論調査結果(コピー)を発表しているのだけど、

  • Bルート支持 41・3%
  • Cルート支持 21・7%

ということになったらしい。
 信濃毎日は「41・3%が諏訪・伊那谷を通るBルートを支持し、南アルプスを貫くCルート支持の21・7%を上回った」としたが、僕の印象は逆だ。全県民一緒にBルートでいくと言っていたのに、Cルートでいいという人が2割もいたことに驚いた。飯田市で54・1%がCルートを支持というのはともかく、諏訪、茅野、岡谷各市でも12・9%がCルートでいいとしている。長野県民も微妙に割れているんだよなあ。県庁が思うようにはコントロールできていない。
 そう考えると、先に引用した山田諏訪市長が「とにかく県で音頭を取り、一本で進めていくことが大切だ」と指摘した意味も理解できる。
 長野県には、飯田市伊那市など伊那谷vs長野・松本・諏訪市など中部・北部の間で「南北問題」があるもんなあ。「伊那商工会議所女性会 村井知事と懇談」では「長野市は道路が良く、施設もたくさんある。イベントも集中している」など道路整備の推進や県内の南北格差を訴える意見が相次ぎ、村井長野県知事も(南北格差について)「気持ちはよく分かります」と一定の理解を示したんだとか。それぞれの経済圏が自立しているがゆえに県庁での強引な政治的決着が難しいという地域性もある。
 

 結局、中央新幹線構想の節目で重要な役割を果たしながらも、無責任にプロジェクトを決めてきた田中角栄金丸信が悪いんです。全て。国土と財政と地域の破壊へとまっしぐらに向かっている高速道路や空港や港湾を大盤振る舞いしてきたのもこの2人が原因だし。角栄と金丸が悪かったんだと、あの世に逝った2人に責任をなすりつけることで長野県も「1県1駅」で納得してくれないかな……と思ったりもする。
 こういうときに汚れ役となって調整してくれるのは政治家や中央官庁なんだけど、みんな腰が引けてしまっている。地方自治体も言うべきことは言いながらも、退くときは退く。そうした阿吽の呼吸が日本的土木国家を作り上げてきた。そうした悪しき伝統が途絶えてしまったからこその混乱なんだろうと思うのだけど、それはまた別の話。<続く>
リニア直線ルートを求める飯田地区。そして迷走する長野県知事と地方ローカル紙 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

<参考>
「リニア問題を考えるネットワーク」(仮称)の設置を呼びかけた川村晃生さんって、誰なの? - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
北陸新幹線を巡る新潟県のドタバタと森喜朗の無力 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
2008年末、政治に翻弄される整備新幹線を取り巻く状況をまとめてみる(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月