大村線の"小串郷駅"さんとゆかいな仲間たち

katamachi2008-01-16

12/18 ハラヘッタ〜 今日はパン昼休みでガバブルー
12/20 そんなことでブルーなの(笑) ペルルさんのパン*1おいしいですよね。毎週水曜日が定休日ですヨ 小串郷駅

 この週末、長崎県に行ってみた。
 目的はもちろん特急「あかつき」と島原鉄道。共に今年3月での営業廃止が予定されており、現役時代に乗れるのはたぶんこれが最後の機会だろう……と遠征してきたのである。帰りは、これまた11月での廃止が報道されている0系「こだま」を利用した。大阪市内発の九州往復割引きっぷを使えば、B寝台と新幹線利用をしても25,950円。定価で買うより4割以上も安く済ませることができる。
 「あかつき」はお名残乗車の鉄道マニアでほぼ満員状態。島原鉄道でも、軽快気動車タイプのみでキハ20が運用に入っていないにもかかわらず、各列車ともライト系の鉄道好きの人たちと高校生で席はほとんど埋まっていた。一方、0系「こだま」の方は、いつものようにガラガラ。新大阪駅到着時に数えてみたら、6両編成で乗客はわずか15人という状態だった。まあ、そこらの話はヒマなときでも報告します。
 で、今日の本題は、なぜか大村線

今どき珍しく地元住民に簡易委託されている小串郷駅

 長崎県早岐駅諫早駅を結ぶローカル線なのだけど、大村湾を望む海岸線沿いに走っていることもあって、魅力的な車窓を楽しむことができる。日本のローカル鉄道のオススメ路線として"大村線"を挙げる旅行派鉄道マニアも少なくない。以前に乗ったときの印象も良かったのだけど、その割には久しく乗車する機会に恵まれなかった。最後に乗ったのは、ハウステンボス駅と特急「ハウステンボス」が誕生した直後だから1992年、16年も前のことである。
 1月14日、長崎のホテルを6時前にチェックアウトし、長崎本線市布→肥前古賀→喜々津→東園→大村線千綿→岩松→竹松→諏訪→大村……と回って、未乗降の8駅を訪問。その後、「SEA SIDE LINER」と青く派手に塗られたキハ66に乗車して北上した。
 次の訪問駅は小串郷駅(川棚町)。佐世保行き普通列車は12:09に到着する。
 ワンマン列車の先頭から降り立つと、ホームを覆うって広がる花壇に目を奪われた。明らかにここは無人駅なんだから、たぶん地元有志の手で育てられているのだろう。こうしてホームが花で飾られている他の無人駅は別に珍しくないんだけど、ここの場合、黄色やピンクの花が整然と揃えられている上に、雑草もゴミも見当たらない。なんの花が植えられているのか分からないが、そんなシロウトでも、かなり丹精に手入れがなされていることだけはよく分かる。

 駅舎自体はモルタル造りの小さな建物。高度成長期に造られたと思われるモダンでかつ質素なタイプである。デザイン的に特徴があるわけでもなく、扉や窓はアルミサッシになっているし、マニアとしてもとりたてて語るべき点は見つからなかった。
 驚いたのは、ここが無人駅ではなく、実は、簡易委託駅になっているということ。地元の婦人会の方たちにお願いして切符の販売を行っているようだ。もっとも駅の利用者はそんなに多いとは思えない。ここの情報だと一日の乗降客数は200人強。ほとんど学生の定期客ばかりなんだろうし、それでは切符の販売手数料だけで生活できるとは思いにくい。実質はボランティアみたいなものなんだろう。
 大村線を走るのはワンマン列車ばかりだし、このレベルの駅だと切符の販売なんかやっていないはず……と思いこんでいたので、ちょっと想定外だった。残念なことに今日は成人の日なので、営業をやっていないのだけど平日はいつも窓口は開いているようだ。改札周りを観察している限り、POSとかマルスとかは入っていなそうだし、常備券を売っているような感じ。う〜ん、切符マニアとしてはちょっと惜しい気もする。きちんと下調べをして平日に来れば良かった……と後悔もするが後の祭り。
 とりあえず駅前から続く道路をてくてく歩き、集落を抜けて海岸線沿いに向かう。対岸の岬の先に大きな建物がある。さきほどパンフで確認したところによると温泉施設があるようだが、ここから2kmは離れている。タクシーもバスも見当たらないし、徒歩だと往復で1時間は必要だ。散歩するにはいい日和ではあるのだが、今日中に大阪へ戻らないと行けないし時間の余裕はない。仕方ない。漁港の名残のある集落をしばらく散策した後、駅に戻ることにした。
 次は13:04の早岐行きに乗る予定にしている。まだ40分ほど時間があるが、ほかにすることもない。なので時間つぶしに窓口に置かれている"駅ノート"を開いてみた。

駅ノートで交わされる"小串郷駅"さんと駅利用者たちのコミュニケーション

 駅ノートとは、主にローカル線の無人駅なんかに置かれている落書き帳のことである。
 駅めぐり(降りつぶし)が盛んになった90年代初頭から各地で見られるようになり、そこを訪れた鉄道マニアや旅行者、あるいは地元の利用者たちが、とりとめもない感想を書き連ねている。マニア向けのノートだから書かれているのは、その日の撮影の成果とか、旅の感想とか、どこぞは良かったとか悪かったとか、そういう話。管理しているのは鉄道関係者ではなく、どこぞのマニアさんが自主的に大学ノートとペンを持ってきて数ヶ月に一回ほど見回りにやってくるというケースが多い。無人駅に置いてあるんでイタズラにあって破かれたり盗られたりして管理するのもいろいろ大変なようだ。
 ただ、高校や大学の部室、旅館や民宿なんかに置かれている雑記帳とは、やや異なる独特の雰囲気を醸し出している。むかし、一緒に旅していた知人が某駅のノートを斜め読みしながら、「なんでみんな一方通行のことしか書いていないの??。やっぱマニアだなあ」とボヤいていたのを思い出す。個人的な感想がただ書き記されているだけというケースが多く、あまり利用者相互間のコミュニケーションがなりたっていないのだ。

 ところが、この小串郷駅のノートは違った。
 表紙には「小串郷駅を御利用いただき有り難うございます。お客様の声をお聞かせください」と書かれている。管理しているのは駅を委託しているスタッフの方たちなんだろう。
 初めてのカキコは2006年7月。

7/7 小串郷駅は日本一の最高の駅です!!

とあった。マニアなんだろうか。地元の学生さんなんだろうか。やや判断に迷う内容だ。ブログなんかでもそうなんだろうが、こういう書き込みがあったとしても、正直、対応に苦慮する。サイコーです!!と言われても、どう反応すればいいのか分からないからだ。もちろん、他駅での"駅ノート"だとそのままスルーされ、次に訪れた人間がまた個人的な感想を連ねてゆく。
 だけど、この小串郷駅のノートには、

7/8 記帳していただき有り難うございます♡*2 文字からし若い女性でしょうか? 日本一……なれたらいいですねェ 小串郷駅

とその翌日の日付で書き込みがあった。生協の白石さんみたいなヒネリがあるわけではないが、書き込まれた方の誠実さが伺える文章だ。
 ちなみに、このカキコ。どうみても委託駅の担当スタッフの手によるものだ。なぜ確信できるかというと、"小串郷駅"の文字のうち、"小串郷"の部分は駅窓口常備のゴム印が使われているからだ。これは駅名小印といい、回数券に駅名を押すときとか、切符の記載事項変更の時、訂正の時なんかに使う国鉄JR九州の公的な印章である。窓口の引き出しにしまっている判子を記名するときに使ったのだろう。
 旅行派の鉄道マニアにとっては思い出深いハンコだ。かつてローカル線ブームの最中、旅先で駅に降りると、窓口の駅員さんに頼んで途中下車印を押してもらうことが流行っていたことがある。18きっぷ周遊券の表面を各駅のハンコで埋めていって、その数を競い合う……大昔の朱印帳、最近だと郵便局の主務者印と通ずる酔狂なコレクションである。ただ駅によっては下車印がないところもあって、そういうときは代わりに駅名小印を押してもらったものだ。
 ただ、国鉄時代、厳格にルールを守っている駅では、「駅名小印押すことはできないんだけど……」と断られることもあった。駅名小印はあくまでも訂正印的な性格のものであり、途中下車印の代用として使うのは目的外使用となるからだ。それが今では雑記帳でハンコ代わりに使われている……なんかいろんな意味で感慨深いものがある。
 さて、この雑記帳での、駅利用者たちと窓口担当者"小串郷駅"(@駅名小印)さんとの会話はまだまだ続く。
 7/17には、佐世保市立中学の三人組が「今日は、海の行き方をおしえてくれてありがとう」と感謝の意を表している。日付から推測するに海に泳ぎに来たのだろう。小生意気そうだけどどこか純朴で憎めない雰囲気のある丸刈りの少年たち(もちろん推測)と、恰幅のいい60歳代後半と思われるオバちゃん(これも推測)とのほのぼのとした会話が目に浮かんでくる。
 10月には、

10/3 60年前、この駅で働いていました。懐かしいです
10/4 60年前ですか……大先輩ですね。おいくつになられるのでしょうか? たまには散歩がてら駅を覗きにいらして下さい。お待ちしております。小串郷駅

という書き込みがあった。60年前ということは戦中戦後ということか。ちょうど中国大陸や東南アジアから引き上げてきた方たちが、お隣の南風崎(はえのさき)駅始発東京行きの復員・引揚専用列車に乗り込んで故郷へと帰っていった時期である。その頃はこの駅も活気に満ちあふれていたのだと思う。
 そんな在りし日を知る年配の方がわざわざ訪ねてくれた。
 書き込みの内容からすると、この"小串郷駅"さんは、駅OBの方とお会いすることはできなかったようだ。非常に残念だったと思う。でも、通りすがりの利用者の何気ない書き込みを読むことで、小串郷駅の過去と現在に思いをはせることができたに違いない。ここが人々の出会いの場として重要な役割を担ってきたこと。自らがそうした過去から現在へと続く歴史的な場面に立ち会っているんだということ。たとえ正式な職員ではなくても駅で勤務するという仕事に何ら変わりないということ。そうした思いが"駅ノート"を舞台に交錯し始めている。
 本来、窓口の担当の方は、利用者からのご意見を拝聴するためにノートを設置したはずだ。その声を仕事に反映させ、改善させていくことに繋げたかったのだろう。でも、一つ一つの書き込みにコメントを付けていくことで、この"小串郷駅"さんと駅利用者との間で会話が成立し始めた。そうした匿名によるコミュニケーションが、ネットだけでなく雑記帳という原始的な媒体でもいまだに成立しえるんだ。そのことに私は魅力を感じた。
 もうちょっとノートの中身はメモしてきたんですが、夜も更けてきたのでそれはまた別の話。

追記

8/23 彼氏と仲直りしました!! またラブラブになって良かった……
8/24 良かったですね 小串郷駅

 幸せそうな通学生と思しき女の子との会話。
 この手の書き込みはしばしばあるようで、

9/15 もう、さいこー ラブ
9/16 恋してるんですね。お幸せに! 小串郷駅

 確かに、"お幸せに"としか周囲は言えない。でも、

12/16 今日は、ブルーです
12/17 どうしたの? 小串郷駅

と非常時の対応もお任せ。

 

9/20 暑いですね。早く秒*3になってほしいな
9/21 今年の夏の暑さは異様でしたね。暑さ寒さも彼岸まで。もう少しの辛抱です。小串郷駅

 昨年の夏は暑かったですね…… 

9/24 暑かですたい
9/25 本当に
すごい暑さ お*4んだかやばいですたい なめんじゃねえよ??
9/29 今日は すずしかですね
10/1 お彼岸がすぎ、朝夕は涼しくなりましたね。小串郷駅

 まだまだ暑い暑いと煩いヤングに対し、ちょっとは我慢をしなさいと一喝。
 でも、

12/21 今日はやっと雨が降りました
12/22 これで少しは水不足も解消するでしょう 小串郷駅

長崎県佐世保地区はいろいろあるようです。
 その他、娘の家出相談とかいろいろ香ばしいネタもあるのですが、少々、重くなるので、それはまた別の話。ヒマな方は現地へ行ってみてください

*1:小串郷駅前のパン屋さん。昼飯に寄ってみたが焼きたてで旨かった。クルマで来店している人も多かった

*2:ハートマーク

*3:秋?

*4:な?