JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」を要約してみる。

katamachi2008-04-01

 最近、JR東日本が熱い。
【PDF】宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗り入れ工事の着手について JR東日本
<JR東日本>国内初「スーパーグリーン車」導入3月31日毎日新聞
と、3月末になって鉄道マニアが気になる情報をリリースしている。もちろん首都圏の利用者も同様であろう。なにか東京や東日本の鉄道が激変する。そんな期待を抱かせてくれるニュースだと思う。
 うん、JR東? なにか発表するのかな……と思っていたら、

 東日本旅客鉄道JR東日本)は31日、2008年度からの「グループ経営ビジョン」を発表した。08年度から3年間の設備投資額をこれまでの3年間に比べ約2000億円上積みし、1兆4000億円に設定。東北新幹線への「スーパーグリーン車」(仮称)の導入などサービス向上や駅ビル開発などに積極投資し、10年度には連結営業利益で5180億円(07年度見込み4360億円)を目指す。
 設備投資は、運輸事業に1兆円、駅ビル開発など不動産や流通、電子マネー「スイカ」事業の強化などに4000億円をあてる。
JR東、設備投資上積みし計1兆4000億円に・3年で日本経済新聞

という記事が。なるほど、新年度に向けて中期的構想をアピールしてきたか。これを受けて、今日4月1日、JR東日本株は大幅続伸。「グループ経営ビジョン」を発表するなど積極的な投資の姿勢も示したことが好感されたという。
 やっぱり、首都圏の鉄道網は堅調に推移していると思う。私鉄各社も、東京メトロ新都心線絡みのプロジェクト以外にも積極的に投資を続けている。JR東海が中央リニア新幹線の先行き不透明さ、JR西日本が3年前の尼崎の事故でなかなか効果的な策を打てていないのと対照的な動きだ。地方に住んでいる自分なんかとは違い、まだまだ夢を見ることが出来る環境なのかもしれない。
 さて、今日は、JR東日本ホームページでpdfファイルで発表された「グループ経営ビジョン」の中で、鉄道マニア的に興味深い部分を抜き出してみよう。
JR東日本グループ経営ビジョン2020 ―挑む―
JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」について(プレスリリース)

新幹線ネットワーク

  • 2010年度 東北新幹線 八戸〜新青森間開業
  • 同時に、高速タイプの新型車両(E5系)の導入。時速300㎞運転、東京〜新青森間を最短3時間10分程度、「スーパーグリーン車(仮称)」を連結
  • 2012年度 東北新幹線で時速320㎞運転。東京〜新青森間を最短3時間5分程度
  • 2014年度 北陸新幹線 長野〜金沢間の開業
  • 2015年度 北海道新幹線 新青森〜新函館間の開業
  • 新幹線車両を増やし、お盆や年末年始等、お客さまのご利用が多い時期には列車を増発し、着席サービスを向上させます。

首都圏在来線の整備

  • 2013 年度 「東北縦貫線」を整備し、宇都宮・高崎・常磐線の東京駅乗入れを実現
  • 2014年度末 「相鉄・JR直通線」の整備完成にあわせ、相模鉄道との相互直通運転を開始
  • 東京圏環状線群「東京メガループ」(武蔵野、京葉、南武、横浜)の利便性向上(輸送サービス・駅設備・生活サービス)
  • 横浜、大宮、千葉を軸に据えた輸送体系を新たに既存ネットワークに組み入れる
  • 大宮を中心とした輸送体系の再構築
  • 千葉以東と東京都心との直通輸送
  • 品川駅周辺で車両基地の集約・移転、線路配置の変更等により、大規模な開発可能用地を生み出す
  • 中央本線三鷹〜立川間の連続立体交差化事業の完成、快速線への新型車両導入の完了

地方ローカル線の合理化

  • 地方幹線 設備、車両の若返りを進める。「以前の重厚長大な設備を見直し、その路線が持続可能となる、実状に即した設備へと改善します」
  • 地方交通線 「ご利用の増加に向けた取組みと徹底した事業運営の効率化を引き続き推進します。その上で、鉄道として維持することが極めて困難な路線、区間については、ご利用実態を十分検証した上で、当社グループを事業主体とする鉄道以外の輸送モードの導入も含め、全体としてのサービス水準の維持・向上をめざします」

運転の安定

  • 地上設備故障に起因する総遅延時分を1/2 にする(2008〜2010 年度の3 年間の平均。2005 年度比)。省力化軌道の敷設の拡大、信号・電路設備の簡素統合化、新幹線の若返り工事等
  • 首都圏における車両故障を2010 年度には2/3 にする。(2005 年度比)。主要システムが二重系化されたE233系車両を京浜東北線常磐線に導入。輸送指令が故障の内容を直ちに把握し対応するシステムを首都圏に導入し、故障発生時の復旧体制を強化
  • 異常時における情報案内・速報体制を充実させる。
  • 輸送障害の影響をできるだけ抑えるため、折り返し設備を増強する。情報ディスプレイを首都圏駅に増設。速報体制を拡充

サービス事業の拡充

  • 2011年度 丸の内赤レンガ駅舎の復原
  • 2012年度 「東京ステーションホテル(仮称)」が開業
  • 2013年度、「東京ステーションシティ」が完成(八重洲口側のグランルーフ、駅前広場の整備等)
  • NEWDAYS」の500 店舗展開
  • 「中央ラインモ−ル(仮称)」構想 中央本線三鷹武蔵小金井間の高架下整備・開発計画、により、沿線価値を総合的に向上し、沿線イメージを高め、収益の拡大
  • 新宿駅新南口ビル(2016 年度開業)の開発を推進、千葉駅、横浜駅西口・東口、品川駅周辺および渋谷駅の周辺でビル開発計画を推進

Suica 事業

  • 2010 年度 首都圏エリアでSuicaPASMO の利用率90%(2007 年12 月現在、約70%程度)。電子マネー利用件数 1 日あたり800 万件(2008 年2 月末日現在、SuicaPASMOICOCA 計約92 万件)
  • すべての路線でSuica を利用可能にする
  • 磁気券のIC化や簡易で廉価なシステムの開発。これまでの乗車券の概念を根本から変革する取組み。IC乗車券の特徴を活かした運賃・料金制度への切換
  • 2009年度までに札幌、福岡エリアとの相互利用を開始
  • 在来線特急列車をSuicaで便利にご利用いただくための料金収受システムを開発
  • 「現金決済をSuicaにシフトさせることにより、小額決済の消費をデータ化し、顧客属性ごとの消費パターン等をマーケティングデータとして活用する情報ビジネスに取り組みます。」
  • 「購買履歴から見た消費嗜好や行動パターンを反映させた販売促進情報をお客さまに提供できる仕組みを構築し、データの付加価値を高めることを検討します。」
  • 待たずにきっぷが買える駅窓口。インターネット予約サービス「えきねっと」や「モバイルSuica」のサービスを充実。駅の指定席券売機の設置拡大や機能増強 。「えきねっと」で割引サービスを在来線特急列車に拡大

モバイルSuicaについては、オートチャージ機能を追加。モバイルSuica定期券やモバイルSuica特急券では、利用に応じた還元サービス

SuicaやIC乗車券の全国展開


 と、備忘録を兼ねて内容を整理してみた。環境がどうのこうのとか、経営の目標数値とか、そういうのは割愛。興味がある人は本文を読んでください。
 で、僕的に気になったのは以下の言葉。

  • 東京圏鉄道ネットワークを磨きぬき、沿線価値向上につなげる
  • イカーの利便性に負けない公共交通ネットワークをつくりあげる
  • JR東日本の沿線に住みたい」と思っていただけるような魅力ある路線づくりに取り組む
  • コンパクトシティ」のような、自治体が進める「駅を中心としたまちづくり」に応え、バス、タクシー等への便利な乗り継ぎを実現するために必要な駅設備の改良を自治体と協力する

 これから首都圏でも、居住者の高齢化と退職、低成長・通勤需要減退の時代を迎えることになる。永年、首都圏の国電→E電の課題となってきた「殺人的な混雑の緩和」といったテーマに引きずられていたら投資戦略を誤りかねない。乗車率が150%程度に抑えられれば理想だが、その投資に見合うだけのリターンがあるとは思いにくい。
 今回、JR東は、「混雑緩和」という言葉を封印し、自らの鉄道線を軸とする空間の魅力向上に主眼を置いて中期計画を組み立てている。正直、どこか借り物っぽい言葉も多いのは事実だけど、それはそれで一つの見識だと思う。
 ただ、僕だけでなく、鉄道マニアにとって気になるのは次の表現。

 「地方交通線」は、ご利用の増加と徹底した事業運営の効率化を推進する。その上で鉄道として維持することが極めて困難な路線・区間については、当社グループを事業主体とする鉄道以外の輸送モードの導入も含め、全体としてのサービス水準の維持・向上をめざす。

 「当社グループを事業主体とする鉄道以外の輸送モードの導入」と回り回った言い方をしているけど、要は、鉄道線の廃止→バスやLRTDMVなど鉄道以外の輸送モードに転換する可能性についてコメントしているのだ。
 ついにJR東日本も明言してきたか……
 過去に、盛岡支社が岩泉線のバス転換の提案をしている。2006年頃から盛岡市などの識者でつくる盛岡にLRTを走らせ隊は山田線の市内区間LRT化を提案している。北上線奥羽本線新庄〜横手間、米坂線......など、「鉄道以外の輸送モード」が導入される可能性がありうる地方交通線は少なくない。「当社グループを事業主体」という言葉からすると、完全に切り捨てるのではなく、近鉄から分離された伊賀鉄道養老鉄道のように、なんらしかの形で新主体へコミットを続けるということなのだろうか。
 地方交通線を抱える自治体は、早晩、路線の存廃について決断する必要に迫られるのだろう。ここまで財政が悪化している中で、首長、地方議会は鉄道の価値をどこまで評価してくれるのか。実際に利用する住民たちは鉄道が必要だと言ってくれるのだろうか。クルマ社会からの脱却というお題目が日本国民に共有される日が来るのだろうか。そして、僕たち鉄道マニアはなにか有効な言葉を発信することが出来るのだろうか。難しい問題が山積しているな……とは思うのですが、それはまた別の話。