「リニア問題を考えるネットワーク」(仮称)の設置を呼びかけた川村晃生さんって、誰なの?

katamachi2009-03-04

(「リニアの反対団体をつくったのは」という問いかけに)
 JR東海が自己負担で建設することを決めたからです。(中略)でも、反対する人は誰もいない。政治家、行政の首長までもが誘致に躍起になり、マスコミも批判的な報道はしない。何より問題だと思ったのは、一般市民が、リニアが高速なのは分かっても、超電導がもたらす人体や環境への影響を何も分からないことでした。
リニア建設反対団体の発起人、川村晃生さん /山梨毎日新聞、2009年3月4日

 一鉄道マニアとして、リニアが完成したら面白いなあとは思う。ただ、

  • 技術的・経済的に実現可能なのか?
  • 20年後、30年後に本当に必要なのか?
  • 長野県の一部関係者が諏訪地区に"我田引鉄"しようとしているのはどうよ?

というぐらいの疑問はいろいろ持っている。うちのご近所を通ることはなさそうだし、JR東海株も持っていないし、とりあえず静観……というところ。そんなスタンスの人って多いんじゃないかな。
 でも、 このニュースを見つけたとき、なんか、香ばしい感じのする人が現れたなあ......という気がした。「反対する人は誰もいない」から"反対団体"を造るのか。なんか、いいなあ、その単純さ。
 で、ちょっと調べてみた。

「リニア問題を考えるネットワーク」(仮称)で検索してみて出てきたあれこれ

 「リニア問題を考えるネットワーク」(仮称)はまだ組織化されていないようだけど、検索エンジンでこんな記事を拾った。

 JR東海が検討しているリニア中央新幹線計画をめぐり、長野など沿線5都県の住民が7日、山梨県甲州市内に集まり、必要性や課題を考える学習会を開いた。「財政、自然環境の破壊、電磁波などの問題を一緒に考えていく必要がある」とし、今後、5都県の住民によるネットワークを発足させ、多くの住民にリニア問題に関する情報を提供していくことで一致した。
沿線住民でネットワークを 山梨でリニア学習会信濃毎日新聞、2月8日

 田中康夫亡き後、長野県政と蜜月状態になった信濃毎日新聞。面白そうな箇所は、

  • 南アルプスを貫く直線(C)ルートより、諏訪・伊那谷回り(Bルート)を現在の新幹線方式で建設した方が「現実的」
  • 大型公共事業の工事費は当初見込みの3倍程度になることが多いとし、同計画の建設費もJR東海が試算する約5・1兆円を上回る可能性がある
  • リニア特有の磁場が人体に与える影響については「全く分かっていない」と説明。南アの長大トンネル掘削も技術面や環境面で課題
  • 学習会は、川村晃生慶大教授(甲府市)が代表を務める山梨県内の団体が呼びかけ

ってところ。
 まず、「諏訪・伊那谷回り(Bルート)」がオススメ。その点では長野の保守政治家たちや県庁と共通する考えのようだ。「現在の新幹線方式」というのは納得してもらえなさそうだけど。
 2つ目の試算が上回る可能性というのはなんとなく僕も想像できるんだけど、その根拠が「大型公共事業の工事費は当初見込みの3倍程度になることが多い」というのは眉唾。シャア専用でもあるまいし、なぜに「3倍」。少なくとも国立大の名誉教授が根拠のない発言をするのはいかがなものか。

 ちなみに、伊藤洋山梨大名誉教授。元々は「専門は電磁界理論・情報伝送工学・プラズマ物理学」。リニアの磁場がどうのこうのというのは専門分野なのかな。肝心の所を「全く分かっていない」ってので逃げるのはどうよとも思った。
 あと、ここによると、関東ツーリズム大学というのに関わっているんだとか。いわゆる大学ではなく、ロハスと環境マニアがやっている特定非営利活動法人が運営しているらしい。
 そして最後。「川村晃生慶大教授」。ここにも出てきましたか。


 続いて、同じようなことを主張しているホームページ。「リニア問題を考えるネットワークの発足にあたって」。

 講演した山梨大学名誉教授の伊藤洋さんは、リニアのしくみから、その必要性、新幹線と比較してその経済性、建設コストからみた採算性などを説明した。さらに所用電力量を計算すると原発5基分に相当することを示した。JR東海のリニアがどれほど電力を使用するかは未発表のため明らかでない。そこで伊藤教授はドイツのトランスラピッドの1両当たり10MW/50人、を基礎に試算した。座席数、走行本数が新幹線と同じとして総電力容量は544万KWとなり、これは原発5基に相当する電力
がうす通信第95号2009/2/16

 うう〜ん、そんな試算の仕方ってあるか……とも思うんだけど、まあ反対するためならなんでもいいのかな。
 争点は「金と自然と健康の問題に絞られる」とのこと。
 「ほんとうにリニアが必要なのかどうかを考えていかなければならない」とあるけど、どうなんだろう。
 上の毎日の記事でも、「反対運動というよりも、まずはリニアについて多面的に勉強し、情報を広めていくことを目的」とある。でも、「〜を考える会」って、よく革新系の人たちが体制側に反対するための政治組織に付ける名前。考えるのが目的じゃなく、反対するという結論が先に出ているんだよね。
 南アルプスを抜けるトンネルとか僕も変だと思うし、まあいろいろツッこんでいって欲しいなあ。あまり反対しすぎて、東海道新幹線南びわ湖駅(仮→元)のように駅ができずに、山梨県と長野県は通過.....ということになったりして。
 がうす通信というのはhttp://www.gsn.jp/tsushinnew.htmのような団体。電磁波問題に取り組んでいる組織なんだとか。ふむ。

前回の山梨県知事選挙に深く関わっていた川村晃生さん

 さて、肝心の川村晃生さんって、どんな人なんだろう。
 検索すればすぐに答えが出る。http://www.flet.keio.ac.jp/member/kawamura.html
 慶応大学文学部人文社会学科文学系の教授。和歌を中心とした国文学の専門家だということが分かる。
 なぜに、リニア???とも思ったが、「著書・発表論文・学会発表一覧」を見ると、「環境事始め」という本を書いた90年代後半頃に景観問題に目覚めたみたい。

環境学事始め

環境学事始め

壊れゆく景観―消えてゆく日本の名所

壊れゆく景観―消えてゆく日本の名所

 古典文学からの視点で環境問題に取り組むというのは実感としてあまりイメージできないのだが、そういうアプローチもありなんだろう。僕も、以前、「宮崎駿が鞆の浦を「崖の上のポニョ」の舞台と言いたがらない理由。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」というオタ視点からのエントリーを書いたことがある。
 そして環境問題に取り組んだ理由は、

 ◆20年ほど前に、自然の中で子供を育てたいと横浜から出身地の甲府に戻ってきて、東京へ通勤してます。リニアがなくても東京に通えるのですよ。
 高度経済成長期以降、工業化していく社会の中で人間は本当に幸福になれるのかという根源的な疑問が心の中にありました。

なんだとか。「工業化していく社会の中で人間は本当に幸福になれるのか」という問題意識は、ちょっとステロタイプ的だよなあ。団塊の世代だし、田舎生活に憧れた口かな。甲府から「東京へ通える」のは大学教授だからなんだと思う。


 さて、この方の過去をもう少し調べてみた。

 来年の山梨県知事選挙で候補者を公募する試みが、「リセット山梨・県民の会」によってはじめられた。
 以下はそれを伝える記事。また巻末に県民の会のポスターを示す。 
 共同代表でもある川村慶應義塾大学文学部教授からの依頼もあり、青山も参与として「リセット山梨・県民の会」に参加した。
山梨県知事候補の公募開始!2006年10月14日

 「リセット山梨・県民の会」か。
 山梨県って、保守派が強そうなところだよなあ。バブルの時に高速道路や整備新幹線や大規模公共事業のバラマキを行って日本経済を破綻の危機に追いやった金丸信先生。彼も山梨を地盤としていた。彼のお陰でリニア実験線は山梨に来たようなもんだ。
 それをリセットしたかったのかな。
 ここでコピーされている新聞記事っぽいのを見ると、川村晃生さんは2006年10月に「透明度の高い県政に向け改革意欲のある候補者を擁立したい」と発言したらしい。「リセット山梨・県民の会」には五十嵐敬喜とかも名を連ねている。川田悦子って、この頃、山梨県民だったのかな??
 2007年1月の山梨県知事選。保守が分裂して接戦になりそうというので全国的にも話題になった。で、どうなったかというと、"金子のぞむ"という、慶応大→電通→地元ライオンズクラブ会長(博物館主宰http://takenaka-kinenkan.jp/)を推薦したらしい。
当時の山梨日日新聞
 当時のシンパらしい人のブログが残る。

リニア事業は「経営上の見通しはない」と指摘して、中央新幹線への変更を求める
第一声の続報勝手に論じる〜再生山梨、2007年01月06日

と、川村晃生さんが推薦した知事候補は語っていたらしい。あと、地元の方が書いたっぽい「中部横断道とボロ電・・・ハコモノとは: 冬風雑報」という記事も興味深かった。
 で、結果的はビリ。総投票数の3%。共産党候補の半分。
 当時の仲間は「山梨県知事選の暫定総括」という文章を書いているが、選挙運動についての総括はきちんとなされていないらしい。「リセット山梨・県民の会」のホームページも消えているし、当時の政策を見ることも出来ない。山梨県政をリセットする前に、自分たちの組織をリセットしてしまったのか。
 そして、川村さんは、2年前に実現しなかった夢を求めて、リニアという敵と対峙しようとしている……のかな??


 さて、基本、保守系候補が苦手だし、リニアってホントに必要なのかねと思っているし、財政のバラマキはもう通用しないよなあというスタンスの僕としては、川村さんの立場を応援したい。でも、そこで展開される主張が手垢が付きすぎて、僕が山梨県民でも、一緒に戦おうとは思わない。何も分からない市民を啓蒙して……というスタンスがイヤなんですよ。もちろん、それは個人的な感想に過ぎないので、リニア反対派を応援する人たちを批判するわけではない。
 今回、ふと思いついて、川村さんとリニア中央新幹線(中央リニア新幹線)について調べてみた。反対派の存在も想定の範囲内だったし、特に目新しい発見はなかった。ただ、「リニアの建設問題と政治」というのがかなり密接な関係にあるということを再確認しただけである。
 政治的に関わりたいと思う人間がいるからこそ、賛成したり、反対したり、複雑な関係性がそこに産まれる。上で指摘したように、リニア反対派と、リニア諏訪経由(Bルート)派の利害が一致するというのも不思議なこと。野次馬として見るのは凄く面白いんだけど、そこから先は、ねえ。と、無責任なところで投げ出しちゃうんだけど、それはまた別の話。

追記

 JR東海が進めているリニア中央新幹線建設に反対して市民団体が結成された(中略)私はこれを複雑な気持で読んだ。というのは、生長の家が考えている“森の中のオフィス”を設置する候補地の1つが山梨県内にあり、そこへの交通アクセスが他の候補地より不便であることが指摘されていたからだ。リニア新幹線が開通すれば、この問題は一気に解消する。が、こうして「自然保護」を掲げる団体の主導で反対運動が始まることになれば、生長の家の“森の中のオフィス”構想が微妙な立場に置かれる可能性が生まれるかもしれない……などと考えたのである。
2つの新聞記事: 小閑雑感

 最初に調べたときは、完全にスルーしていたのだけど、谷口姓→生長の家???
 おお、この谷口雅宣 - Wikipediaって人。生長の家の第3代総裁だったのか。リニアの反対派を通じて語っている内容が、「“森の中のオフィス”の考え方に合致するかどうか」とか、なんだか明後日の方向に向かっているというのが興味深い。愛国的な要素の濃い宗教団体だと思っていたけど、「現代人にとって“便利な生活”と自然環境保護の要請とは、基本的に矛盾することは否めない」なんてことを言っている。ちょっと驚いた。