東北新幹線新青森開業が青森で盛り上がらない理由。(その1)
12月の岩手県出張にあわせて東北新幹線に乗ってきたことは、以前、「弘南鉄道弘南線のラッセル車キ104の試運転列車」の最後に軽く書いてみた。
青い森鉄道で青森〜八戸間を往復した後、青森駅前の東横インのレストランマップで紹介されていた飲み屋に入ってみた。青森駅から徒歩5分ほど、
店内は地元客でほぼ満席だったんで、カウンターの隅にあった空席に座らざるを得なかった。
お隣は、青森で不動産業をやっている社長さん。地元の商工会にも入っている。
「ねえ、東北新幹線、どうだった?」というのが真っ先に出た質問だった。
東北新幹線の新青森開業。やはり地元でもいろいろと気になるようだ。他の席の人たちも、ヨソから来た僕の話を聞きたがる。
「新幹線で観光客が来てくれると言いね」とは後ろの席のおっちゃん。ただ、青森駅前で観光客相手し仕事をしているけど、同業も含めてこれといって仕事が増えたという実感はない。カウンターで魚を捌いている店主もうなつぐ。
続いて隣席の不動産屋のおっちゃん。「あまり土地も動いていないしね」。
「あれ、でも3、4年前に新しいホテル(東横イン)がそこに出来たんでしょう」と僕。でも、大きな動きは青森駅周辺ではなかなか起きていない。土地が動いているのはやはり郊外部だけなんだよね。......と不動産屋におっちゃんはボヤく。言われてみれば、新青森駅近くにホテルがないのかネットで調べてみたが、2010年12月現在、1軒も存在しないことに驚かされた。
青森駅界隈ではあまりいいことはないなあ、というのがみんなの感想。タクシーもクルマの送迎もみんな新青森駅に行っちゃうのかね。あんな辺鄙なところ、行きづらいよなあ……とか雑談もしながら長い時間滞在でした。まあ、酒の席なんでそんなにマジメに話したわけではないんだけど、実感としては分かる。
白い雪に覆われた新青森駅と七戸十和田駅を歩く
翌12月13日朝、前夜の雪で青森市内は積雪3センチほど。今年、僕が見た初雪になります。
ホテル提供の朝食を軽く食べて、目の前の青森駅に向かいます。利用者の多くは学生さんだというのは昨日夕方と同じだけど、大きなカバンを持ったビジネス客も十数人。みんな新青森に行くのでしょう。
7:12発の普通で奥羽本線普通で隣の新青森駅に移動。
5分ほどで新青森駅に到着。20年前、未開発の畑の中にポツンと無人のホームが一本あるだけだった新青森駅も2面2線の交換設備付きに様変わりしました。ただ、新幹線・特急接続駅としてはホームが狭いなど設備がイマイチなのが難点。
一方、新幹線駅は凄いですね。
ロータリーにはタクシーが何台か。逆側には新幹線利用者用の大きな立体駐車場があります。
ただ、全体的にお客は閑散としています。
時間的には青森から仙台・東京への出張客がメインな時間帯ですし、曜日は火曜日。さほど客が少ないとも思いません。でも、立駐を覗いてみてもクルマはほとんど止まってはいない。う〜ん、どうなんだろう。
ホームに上がると新青森7:32発の「はやて」は停まっていました。乗車率は2割程度。先に報道されていたのと同じぐらいの閑散な感じ。
まあ、席数が増えたとしても急に利用者が増えることはないからねえ。
新幹線は定刻に発車。次の七戸十和田駅へは15分で到着。ここで降りたのは僕だけだ。
特に用事があったわけではないんのだけど、出張先での仕事まで時間はあるし、なんか微妙な位置づけの七戸十和田駅になんとなく降りておきたかったのです。僕にとっては5923番目(JRだと3110駅目)の下車駅。
次の便まで1時間ほどあるんで駅の近所を歩いてみました。
七戸の市街地にはそれなりに近いところだけど、真冬の青森で道を歩いている人なんてほとんどいない。南部縦貫鉄道時代の面影は何も見当たらなかった。
やがて急に雲行きが怪しくなって、吹雪き出したんでそうそうに切り上げて駅へ戻る。
目立ったのは七戸十和田駅前のイオンモール予定地でした。あとはだだっ広い600台収容の無料駐車場。
この次の便で盛岡に向かい、「やまびこ」に乗りかえて出張先へ向かいました。
東北新幹線新青森開業での利用増は1日900人程度(2002年は3500人増)
この訪問時にすでに地元紙などでは報道されていたんですが、新青森まで開業したのに在来線特急時代より利用者が増えていないというのが話題になっていました。
僕が読んだ陸奥新報2010.10.13「新青森−八戸「はやて」 平均乗車率23%」もそうだった。開業日から1週間のデータで、
- 東北新幹線八戸―新青森間の「はやて」乗車率23%
- 八戸―新青森間の乗客数は1日平均6500人。特急列車の利用実績比は16%(900人)増
- <参考>2002年盛岡―八戸間開業時。盛岡―八戸間乗車率38%、1日平均9900人で前年比55%(3500人)増
だったという。
これは、年末年始の最繁忙期でも同様。「東北新幹線の年末年始利用者、八戸―新青森「18%増」」(日経2011.1.7)によると、
- 八戸―新青森間の利用者数は12万人(1日平均13,333人)。前年比18%
と伸び率は開業直後と同程度に留まっている。3年ぶりに利用者数が増加に転じた東北新幹線。開業直後のお試し乗車組も相当数いることを考えると、もう少し増えて欲しいというのが本音のところでは。
12年前の八戸開業時と比べること自体、あまり意味がないのかもしれない。有料列車は乗車率は7割越えるのが目安だけど、最北端部なんで比較は無意味。
ただ、
- 2002年八戸開業→特急より3500人増。2010年新青森開業→特急より900人増
という現実は少し厳しい。
新幹線開業が盛り上がらないのは自治体や経済が悪いから、か。
実は、東北新幹線が新青森まで延びてもあまり影響がないのでは、とは以前から言われてきた。たとえば、「新幹線が来る/新青森・七戸十和田開業」で精力的に東北新幹線新青森開業を報じてきた東奥日報。
市民の開業機運が低調なのは、新駅周辺のハード面の整備遅れが一因だと平田さんはみる。「12月に青森に来て、駅を降りた人はびっくりするんじゃないかな。何もないからね」。このまま5年後の函館開業を迎え、単なる通過駅になることを心配している。
「開業まで40年間かかり、疲れてしまったのか。新幹線を通すこと自体が目的になってしまい、新幹線をどう活用するかという一番大切なビジョンが欠けている。市民が主役になるビジョンを官民一体となって早急に整備すべきだと思う」
と2010年5月時点で「(2)青森市民の声/「開業効果低い」と閉店/周辺整備遅れ期待感薄く」報じている。
続く「(5)提言・注文/自然体で「当事者」に/開業生かす活動 継続大事」
で、青森大学の末永洋一学長は、
- 産業経済の不況
- 八戸開業時に思うように開業効果を得られなかった人たちが一歩踏み出せずにいる
- 行政の取り組みが悪い
と挙げ、「街づくりや観光などストーリー性を持たせた戦略が、決定的に欠けている」と指摘している。
青森県人の気分的な面では、そういう側面があるのかもしれない。青森市役所はあまりPRに乗り気ではないというのは東奥日報の他の記事からもうかがえる。
でも、外的要因にばかり原因を求めるのはなあ……とは思う。他にも盛り上がらない点がもっといろいろあるんじゃないの。新青森駅がいろんな意味で中途半端とか、東北新幹線の今回の区間って青森県人にとってメリットが薄いんだよね......ということを気が向けば書こうとは思っていますが、それはまた別の話。<続き>東北新幹線新青森開業が青森で盛り上がらない理由。(その2)