2012年までに廃止が決定する可能性のあるローカル鉄道4路線
先日、長野電鉄屋代線の廃止に至るまでの議論のあれこれについて「誰が長野電鉄屋代線の廃止を決めたのか。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で文章を書いたが、その「第11 回 長野電鉄活性化協議会」では重要な発言がなされている。
- オブザーバー
本協議会は長野電鉄活性化協議会であることから、今後は長野線の活性化についても協議する必要があるのではなかろうか。
第11 回 長野電鉄活性化協議会 議事概要
http://www.city.nagano.nagano.jp/upload/1/kotuseisaku_nagaden11gaiyou.pdf
- 赤字額の多い屋代線を経済的に支えていたのは現在まで長野線
- 「その長野線も本年度赤字に転じる恐れがあると聞き及んでいる」
- 「今後は長野線の活性化についても協議する必要がある」
- 本協議会に「取組み内容に長野線の活性化を取り込んで継続事業とすることも考えられる」
ということらしい。
この2011年1月の協議会で、次回、すなわち今年2月の第12回の協議会で屋代線への判決を下すとされていた。事実上、屋代線の運命はこの段階で決まっていたとも言える。
その席の最後、
「屋代線の運命は決まったけど、それで話はおしまいじゃないよ。次は長野線だぜ」
という主旨の発言がされている。
発言したオブザーバーは誰なんだろうか。山ノ内町など屋代線線沿線以外の自治体もメンバーに加わっているが彼らの発言であるはずはない。明らかに、国土交通省の北陸信越運輸局のスタッフによるものだろう。
比較的利用者の多い長野〜須坂間はともあれ、須坂〜信州中野〜湯田中はどうなるのか。予断は許さない
実は2008年春からの4年間で廃止されたのはわずか2.1km
鉄道時事ネタをウオッチしていると、昨年2010年ぐらいから急にローカル線の存廃問題が各地で焦点となってきたのが分かる。
2000年の鉄道事業法改正でローカル線の廃止がしやすくなったのは記憶に新しい。鉄道事業が免許制度から許可制度に切り替えられたことで、事業者は、廃止届を提出した1年後に路線を廃止することが可能になった。事業からの退出が容易になったのだ。
2007年2月に「ここ17年間で廃止された鉄道、42路線のリストを見てウンザリしてみる。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で2000年3月〜2007年3月に廃止された29路線をまとめてみた。法改正以後、7年間で29路線が廃止された。毎年4路線のペースだ。
ところが、その後、ローカル線廃止のスピードは緩まっている。
と、2007年以降に消えたのはわずか3路線。それに来春、屋代線が加わるだけだ(貨物鉄道、犬山モノレールは除く)。
実は、意外なことに、北鉄の部分廃止から来春の屋代線廃止までの2年半、ローカル鉄道の廃止はずーっと見送られている。というか、三木・島原が廃止された2008年春以降、消えたのは北鉄の部分廃止区間のみ。距離呈2.1kmだから、建前はともあれ、実質的には利用者へのマイナスは微々たるものである。すなわち、2008年からの4年間、大物のローカル鉄道の廃止はなかった(屋代線が4年ぶり)ことが分かる。
なぜ、最近になって廃止路線が減ったのだろうか。ローカル鉄道の存続に関係各所が懸命になっているから
……という簡単な話ではない。実は、この間、ローカル鉄道問題についてカギとなる、ある法律が施行された。
それが2007年10月に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」だ。
「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」とローカル線の存続
この法律に関しては、長野電鉄の協議会のHPにある以下の資料でも紹介されている。資料の作成は国交省のものだろう。
http://www.city.nagano.nagano.jp/upload/1/kotuseisaku_nagaden11-1.pdf
- 事業の存続が困難となった鉄道輸送の維持の要否について議論する際、鉄道輸送の維持の要否や地域による具体的支援方法等について、丁寧な評価と議論を行っていくことが求められる
とある。
- 鉄道を地域が支えることによる様々な便益
- 輸送維持のための費用など
を総合的に評価すると共に、
- 地域の支援によって存続させるべきものか否か真剣に議論する
ことが求められるようになったのだ。
これで、廃止の判断は鉄道事業者だけで行うのではなく、沿線の自治体も議論に積極的に参加することが求められるようになった。
確かに、これでローカル鉄道が廃止されるスピードは鈍化した。
自治体が公共交通の維持に参加すべきという理想論から言うと、これは望ましい形だ。
ただ、自治体側にとっては厄介な案件を抱えることになる。
今までは私鉄側に廃止をするか否かの全責任があった。もし廃止届を出したいという事態になったら、事業者の無責任さ、市民への配慮の欠落を一方的に糾弾していれば良かった。
ところが、今度は自治体自らが、ローカル鉄道にたいして「地域の支援」をするかどうかの判断をせざるをえなくなった。存廃の責任、そして金銭的な負担も担わなければならなくなったのだ。
国は、
- 地域のサポートで努力する鉄道→「鉄道事業再構築事業」には法律・予算・税制特例・地方財政措置等を含む総合的なパッケージにより重点的に支援をする
と言い出した。逆に言うと、
- 地域のサポートのない鉄道は切り捨てる
ということだ。しかも、例の事業仕分けで、2010年度以降、鉄道軌道輸送対策事業費補助金は「補助対象を輸送の安全を確保するために必要な設備の整備に特化」することになった。国交省HPだと、「地域鉄道に対する国の支援制度」が詳しい。
僕も以前、「次年度の国土交通省鉄道局の目玉は「がんばる地域・事業者を支援」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」ということで話題をまとめたことがある。
このパッケージからこぼれてしまった鉄道事業者としては大変なことだ。
自治体としても、いきなり協議をしろ、と言われても判断できるはずもない。支援しようにも財政的余裕のある自治体なんて皆無だ。
地域鉄道の活性化(地域主体・協調支援)を自分らでやれ、と言われてもそのパッケージも貧弱だ。鉄道事業再構築事業実施計画の認定を受けないとまともな支援を受けられなくなる。
2012年までに廃止が決定する可能性のある秋田内陸、樽見、神鉄粟生、北近畿タンゴ
ゆえに、ここ3年ほど、ローカル鉄道の存廃に関して判断先送り……という状況になってしまい、廃止届を出す事業者は実際になかったものの事態はまったく好転しなかった。
を受けたのはわずか3社のみだ。
和歌山電鉄、上田電鉄など上下分離方式などの支援策で事業継続の模索をとられている事業体もあるが、結論が先送り&現在議論中という会社も多い。
この半年ほどで報道されたローカル線存廃に関する記事を見ても、
- 廃止を含めた検討
の4社は2012年までの一年間である程度の方針は決まる見込み。
もちろん存続できれば万々歳なのだが、秋田内陸と樽見には厳しい判決がくだりそう。
あと、気になる鉄道会社を7社ほど。
- 判断先送り
- 条件付けで存続方針
阿佐海岸鉄道は全国のローカル鉄道の中でも最低の経営状況だが、この先どうするつもりなんだろう。伊勢エビ駅長ではなんの解決にも繋がらない。
一番下の4路線にしても、その支援策の期限が終了した後の姿は見えてこない。山形鉄道とか、養老鉄道あたりもどうなるんだろう。決して安泰とは言えない。
もちろん協議会が設立されたからと言って、即、廃止というわけではない。
冒頭で紹介した長野電鉄長野線。これが廃止されてしまったら長野の都市交通は大変なことになる。北陸信越運輸局も地元に危機感を持たせるためあえて牽制球を投げたのだろう。上の「2012年までに廃止が決定する可能性」のある路線として挙げた神鉄粟生線。これが消えたら神戸市から三木・粟生にかけての交通事情はかなり深刻なことになる。
ただ、地元自治体は、どうせ廃止されないだろうし……と高をくくっているところがある。三木鉄道を見捨てた三木市役所とかは神鉄粟生線の存廃問題についてどんな態度で臨むつもりなのか。神鉄にいる知人から聞いた話では、あまりよい関係を鉄道側と地元の間で構築できていないようだ。
さて、今後、ローカル鉄道を存続させるために、沿線自治体はなにができるのだろうか。補助金打ち切りをした政府、国交省を批判するのは簡単なんだけど、事態を放置していた事業者、助け船を求められても判断しない自治体、それぞれにも責任は少なからずある。努力すればなんとかなる、というほど甘いものでもない。
鉄道をなぜ存続しなければならないのか。本当に鉄道じゃなければならないのか。観光鉄道に生きる道を求める......とか変化球ばかりに可能性を期待するのではなく、当事者たちが「地域の支援によって存続させるべきものか否か真剣に議論する」ことが大切だろう。たとえ、それが国によるローカル鉄道を切り捨てる方便に過ぎなかったとしても、その議論を深める→地元がヒトとカネを出す決意をすることにこそ、不採算のローカル鉄道が生き残っていく活路が残されているのだと思う。そのために交わすべく言葉をスルーしている限りは、廃止と決めても、とりあえずの存続としても未来は見えてこないと思う。マスコミ受けするようなパフォーマンスばかりしている第三セクター鉄道(と結論先送りしている自治体。特に県庁)に苦々しく感じる理由はそこにあるんだけど、それはまた別の話。