中之島線を見切った京阪2011年5月ダイヤ改正の減量っぷりが豪快すぎる

katamachi2011-03-01

 数年前、鉄道好きの人たちとの宴席で、京阪電気鉄道の歴史について話をする機会があった。
 僕の持ちネタである未成線、特に京阪梅田線(戦前期に梅田〜森小路・蒲生・上新庄などで企画されていた鉄道計画)の話をしていて、「実現すればかなり便利になったけど、それでも阪急に吸収買収されてしまうという歴史は変わらなかったのかなあ」とかいう話をしていたと思う。
 「京阪の歴史には、どうしても後悔せざるをえない失敗が3つあったんだよね」
 「京阪電鉄の三大失敗」。さて、なんだろう。
 とりあえず、戦時中、半強制的に阪神急行電鉄(阪急)と合併させられ、戦後、新生・京阪電気鉄道として独立するものの、虎の子の新京阪線を阪急に持って行かれた(現在の阪急京都線)ことは最大の痛恨事であろう。
 あとは京津線の話か。もう一つはなんだろう。
 悩んでいると、京阪の歴史が動いた3つの局面を教えてくれた。

京阪電鉄100年のあゆみにおける3つの失敗

 国家総動員法に基づき、戦時中、電気事業を各地域毎に統合することになり、京阪電鉄も新設の関西配電(関西電力の前身)に譲渡せねばならなくなった。当時、電力部門は京阪の事業収入の3割を越えていた。エリアは京都大阪から和歌山や奈良にまで広がっていた。戦前の京阪コンツェルンの核となる事業であったが、電気事業を失ったことで致命的打撃を受ける。

 陸上交通事業調整法に基づき関西の大手私鉄の合併が図られることになり、阪神急行電鉄と合併、社名を京阪神急行電鉄(阪急の前身)と改めた。ただ、事実上、阪急が京阪を吸収合併したような形になっている。
 戦後、旧経営陣は独立運動を展開し、1949年に京阪神急行電鉄から分離し、新・京阪電気鉄道が発足する。ただ、戦前期に巨額の赤字を出しながらも育ててきた新京阪線を阪急に置いていかねばならなくなる(下は京阪梅田線が通る予定だった大阪環状線のガード橋)。

 京都市が永年構想してきた地下鉄東西線(醍醐〜山科〜三条〜二条)計画に際し、計画線と山科〜三条で並行する京津線の扱いが問題視された。
 結局、並行区間京津線を廃止することになり、代わりに京都市や京阪が出資する京都高速鉄道が三条〜御陵間の第三種鉄道事業者となった。
 1997年、地下鉄東西線は完成し、京津線は御陵〜浜大津間に短縮される。京阪は御陵から地下鉄経由で三条、京都市役所まで乗り入れることになった。浜大津から京都市内への到達時間は飛躍的に短縮するが運賃が急激にアップしたため、京津線の利用者は激減。ゼロ年代になって京津線の廃止論議が出てくる引きがねともなった()。

 なるほど。そうなんだよね。電力部門をもっていかれたのは京阪にとっては大きかった。これがなかったら阪急の傘下に入ることもなかったんだろうな。歴史に"if"はダメだと分かっていても、いろいろと想像はできてしまう。
「でも、今度できる中之島線もどうなるんですかね」
と僕。隣にいた京阪の人、「聞いてくれるな」という顔をして苦笑。
 すみませんでした。これ、コメントできないっすよね。


京阪中之島線って本当に必要だったのか

 で、2008年10月に開業した京阪中之島線中之島天満橋間。多くの人の予想通り、朝から晩まで終日ガラガラという惨状のまま2年が過ぎた。
 建設費1300億円。なかなかイイお値段がかかっている。
 建設主体は中之島高速鉄道。資本金の33.5%は京阪が担っているが、大阪市が33.3%、大阪府も16.7%負担してもらっている。
 もともと大阪市大阪府も別に天満橋中之島を結ぶ鉄道を欲していたわけではなかった。1982年に府と市が合同で企画した鉄道計画プランの中には中之島線は入っていなかった。1989年の運輸政策審議会答申で取り上げられたが、大阪市大阪府運輸省もこの路線が特に必要だという認識はさほどなかった。市役所の長期計画などにも盛り込まれていない。
 けど、なにを勘違いしたのか中之島への延長が是が非でも必要だと思いこんだ京阪。中之島界隈での再開発計画の重要性を市長と府知事を説き伏せ第三セクターでの建設という手段で実現にまで持っていった。国からもたくさん補助金や優遇策を施してもらった。
 確かに、この地域、鉄道があればそれなりに便利だ。
 ただ、新駅4つのうち、なにわ橋、大江橋渡辺橋駅付近にはすでに地下鉄網が張り巡らされている。というか、既存の京阪本線の駅ともさほど離れていない。中之島駅にしても、周囲にオフィスがたくさんある。京阪の電力部門をもらって戦後急成長した関西電力。その本社は中之島駅の近くにある。だが、京阪沿線の住民以外、中之島線を使って通勤する人は皆無らしい。地下鉄で通勤してくる人がわざわざ初乗り料金を払ってまで京阪中之島線に乗ってくれるのか。こういう経済情勢下でそんな甘い会社はない。

 

京阪の2011年5月ダイヤ改正の削減っぷりが豪快すぎる

 それから2年半。今年2011年5月にダイヤ改正をすることになった。
 詳細はこれ↓
京阪電気鉄道HP「5月28日(土)始発から京阪線のダイヤを一部変更します」
http://www.keihan.co.jp/news/data_h23/2011-03-01-3.pdf

  • 平日昼間時間帯以降と土休日を中心にダイヤを一部変更し、利便性の向上と新たな需要喚起を図ります。
  • また、需要動向に見合った効率的な運行体系構築の観点から、ご利用の少ない一部列車の運行を見直します。

と前文で書いてある。
 平日昼間と夜、淀屋橋出町柳間で特急を10分毎に運転することになった。
 2年半前の大改正前は、淀屋橋出町柳間の特急が毎時6本運転されていたが、新規に中之島出町柳間で快速急行が毎時2本走ることになり、そのあおりで直通の特急は毎時6本から4本に減らされた。それが元に戻されることになる。

 それだけじゃないんですね。

と毎時8本から6本に削減。快速急行そのものも昼間は消滅。

  • 京阪本線の昼間
    • 現在 特急6本・準急4本・普通6本
    • 改正後 特急6本・急行4本・普通2本

と毎時16本から12本に削減。準急が急行に格上げされた形になる。
 総計(京橋発)で言うと、

    • 改正前 特急6本、快急2本、準急4本、区急6本、普通6本
    • 改正後 特急6本、急行4本、準急2本、普通6本

と毎時24本から18本に削減。中之島発も淀屋橋発も25%ずつ削減されることになった。
 まあ、ぶっちゃけ、中之島線快速急行区間急行は重荷であると判断した、ということですよね。
 中之島線を早くも見切ってしまった京阪。今回のダイヤ改正の減量っぷりがあまりにも豪快すぎて妙に感心してしまいました。そこまでやるか。
 もっとも、80年代から90年代にかけては毎時20本ずつの運転だった(2003年改正で24本/時)。当時より客はかなり減っているんで運転本数は実態にあわせている、と。区間急行もいつ見てもガラガラだったし、仕方ない。
 ただ、淀屋橋発もついでに減らされてしまうのは困るなあ。2003年ダイヤ改正の時は昼間でも淀屋橋発が24本/時走っていたのが、今回で12本/時と半減。タイミングによっては、7、8分、運転間隔が開いてしまうこともあるのかも。普通列車を使って淀屋橋に行くことが多い、うちのばーちゃん。またブツブツぼやきそうだなあ。
 朝夕はどんな感じになるのか。プレスリリースだけでは全体像は分かりづらいのですが、中之島行きの快速急行淀屋橋行きの特急に切り替えられ、中之島発の快速急行は樟葉行きに短縮(戻りは淀屋橋行き急行に)。あと、交野線直通の快速急行が削られるのが目立ちますね。元京阪沿線住民としては寂しい内容です。
 快速急行の打ち切りは、まあ、妥当なことだろうと思います。でも、わざわざ中之島線快速急行用に製造された新・3000系の存在意義って……なんなんだろう。
 ともあれ5月初旬に発売されるという時刻表がいろんな意味で気になります。

京阪は中之島線をどうするつもりなんだろう

 それよりなにより、中之島線。どうするのよ、ということですよね。
 地下鉄との接続が便利な淀屋橋発着の京都方面行き特急を毎時6本から4本に減らし、わざわざ中之島から京都直通の快速急行を走らせる。その意味がまったく分からない。
 いや、京阪本社の立場からすると、この列車を設定した理屈は分かるんですよ。中之島線の効力をアピールするためにも快速急行を作りたかった、と。
 でも、それは多くの沿線利用者にとってはダイヤの"改悪"に過ぎなかった。
 出町柳から何度か快速急行に乗りましたが、みんな枚方市や京橋で淀屋橋行きに乗り換えていきますから。天満橋以降はガラガラ。以前は特急でそのまま直通できたのに……
 大阪側から京阪に乗るとき、快速急行はいつも空いていたので重宝していたけど、なんだかなあとは思っていました。
 たくさん中之島線直通を走らせても、運転するにはカネがかかる。だから、今回のダイヤ改正で一気に合理化を図った。でも、大手私鉄の幹線の運転本数がいっきに25%も削減されるって、戦後の混乱期以降、他私鉄でもなかったんじゃないですかね。逆に言うと、利用者減が怖くて8年前に利便性向上を図って列車を次々と増発し、中之島線開業で劣勢を挽回しようとしたのだけど、運行費や車両キロ増によるコスト高に耐えられなくなったとも言える。片町線奈良線の輸送改善に加えて、JR東西線長堀鶴見緑地線今里筋線おおさか東線第二京阪道路とライバルとなる路線も次々と完成し、かなりキツい状態にあったからなあ。
 来年2012年は近鉄も大幅な減量ダイヤに取り組むと伝えられますが、さてはてどうなることか。悲しいかな。これが関西大手私鉄、そして関西経済の実態なんですよね。そのうち京阪中之島線も「京阪電鉄の三大失敗」改め「京阪電鉄の四大失敗」にカウントされるのかなとか考えてしまったのですがそれはまた別の話。<参考>
京阪中之島線開業。そして消えゆくダイビルと朝日ビルディング - とれいん工房の汽車旅12ヵ月