自治体がJRにカネを出すのを禁じた地方財政再建促進特別措置法第24条第2項

katamachi2007-04-05

あの、地方公共団体(自治体)がJRに寄付金等の行為をすることを禁止した地方財政再建促進特別措置法第24条第2項ってどうなったんだろう

という、昨日の「2007-04-04 「関西国電のエース」117系と国鉄型車両」からの宿題です。鉄道経営とかに興味のある鉄道マニアには興味深い法律なのですが、めちゃくちゃ堅苦しい話である上に、当方、10年前に勉強したはずの地方自治法とか関係法令とかもすっかり忘れており、ちょっと説明に怪しいところがあるかも......と予防線を張った上で、今日もスタート。キーワードは、「地方自治体と国鉄・JRとのカネにまつわる関係」、「2001年の完全民営化でJRは適用除外となった」です。
 JR線の鉄道整備に関するカネと地方自治体の関係。4回シリーズの第3回になります。
1.2007-03-29JRが造る新駅の建設費を調べてみました。
2.2007-04-04「関西国電のエース」117系と国鉄型車両。
3.2007-04-05自治体がJRにカネを出すのを禁じた地方財政再建促進特別措置法第24条第2項
4.2007-04-06鉄道整備にカネを出す自治体。無関心な自治体。

そもそもは自治体の財政自主権を目指すための法律でした

 さて、国鉄時代からつい最近に至るまで、地方自治体が国鉄・JRにカネを出すというのは、実はなかなか難しかったんです。
 一つは、「鉄道整備はJRと国がやるべきだ」「JRは公共交通機関としての使命を忘れたのか」という認識が根強いこと。なんでオレがカネを出さないといけなのか......と言うわけなんですね。旧国鉄のイメージがあるのでしょうか。ここ20年ほど、他の私鉄も含めて鉄道整備に関する様々な施策が講じられてきましたが、自己負担してまでやろうという自治体はあまり多くなかった。
 もう一つは、法律の問題。実は、地方財政再建促進特別措置法第24条第2項という1955年に施行された法律があって、「地方公共団体日本国有鉄道→JR7社に寄付金等を支出してはいけない」という縛りがあったんです。
 この法律は、「昭和の大合併」が進められた1954年に施行された、地方公共団体(自治体)の財政再建、そして財政健全化のための特別措置法であり、これが現在でも続いている。夕張市なんかは、この第22条第2項に基づき財政再建団体になったわけです。
 さて、この法律の第24条2項には、「地方公共団体は、当分の間、国(中略)に対し、寄附金、法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これらに類するもの(中略)を支出してはならない。」という文章が盛り込まれています。「赤字の地方公共団体(自治体)は国にカネ(寄付金等の行為)を出してはいけない」ということです。一見すれば財政再建とは無関係のようですが、地方公共団体の国に対する財政自主権の確立を徹底するため......というのがその立法趣旨でした。国が自分の負担すべき経費を地方公共団体に転嫁させることを防ぐための施策だったわけです。
 ここで寄付を禁止されている「国」の中には、日本国有鉄道も含まれていました。そのため、自治体は、鉄道施設の整備や新車投入のために国鉄を補助することができませんでした。
 この法律があったお陰で、高度成長期、なかなか国鉄線の鉄道近代化が進みませんでした。国鉄としては、大都市部や幹線の改良工事に巨額の投資をせねばならず、採算が取れるかどうか微妙な地方の亜幹線にまでカネを回す余裕がない。一方、地方の各自治体としても、国鉄の予算措置が来る日を待っていたら、いつまでも設備改良や新車投入は進んでいかない。それでは経済発展から取り残されてしまう。
 そこで、両者の利害が一致して作られた制度が「鉄道利用債」です。これは国鉄が発行した鉄道利用債のことで、鉄道近代化が進められた50年代後半から70年代前半にかけてたびたび公募されていました。

  • 新車投入を希望する地方自治体が債券を引き受けて資金調達に協力
  • 国鉄は新車を造って、該当路線に準急や急行として投入

というのが整備のための枠組み。10系客車や165系、キハ55やキハ58などは利用債を使って増備された車両がたくさんあります。また、この利用債は、駅整備、複線電化などにも適用されていきました。

JRと第24条第2項に関して1987年3月と2001年8月に出された通達

 もっとも、自治体が駅の改築や新設などにカネを出すケースはこの時期でもたびたびありました。
 それは、第24条に、「あらかじめ自治大臣(現、総務大臣)に協議し、その同意を得たものについては、この限りでない。」という但し書きがあるからで、自治省(現、総務省)と事前に協議をしておけば、国鉄に寄付などの行為をすることは可能とされていました。
 ただ、これはグレーゾーンに近い法解釈だったようで、自治体が資金負担を決めようとすると、それに反対する勢力が第24条第2項を持ち出して抵抗するケースもありました。違法公金支出差止請求が行われた事例もあり、実際、1980年6月10日に、「新横須賀線西大井駅建設費支出禁止住民訴訟事件」の東京地裁判決が出ています。品川区が横須賀線新駅(現、東海道本線西大井駅、1986年開業)工事に公金支出した件に関して、第24条第2項に違反すると判断し、公金支出を差し止めたそうです。そこらの事情は分かりかねますが、ここここにそれらしい解説があります。
 その後、国鉄分割民営化絡みの法案を作成していく過程で、「新会社の赤字を地方自治体に負担させてはまかりならぬ」という議論が出てきました。この時期、ローカル線の廃止が進められていましたが、新会社にも多くの赤字線が継承される。その赤字を沿線の自治体に負担させるのだけはヤメてよ...というわけです。そこで、国会決議に基づいた、1987年3月の自治省通達により、この但し書きで書かれた「国」の中に、JR7社が含められることになりました。こうして、自治体がJRに寄付金等の行為をすることができなくなったのです。政府がJRの株式を保有していてから......というのがその理由です。
 そうした状態は15年ほど続きますが、2001年6月、JRの完全民営化の総仕上げとして、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律」(JR会社法改正法)が成立します。それにあわせて、総務省は、2001年8月に通達を出しています。JRの完全民営化を踏まえて、「昭和62年通達の対象から除外する」としたようです。つまり、自治体は、総務大臣との協議がなくても、JRに対して寄付金等を支出することができるようになったわけです。
 ただ、この2001年の通達は、現在でもまだ浸透していないようですね(と、言うか、私も今日初めて知りました)。
 この件に関して、検索エンジンで面白いモノを見つけました。京都府亀岡市議会定例会の会議録です。亀岡市山陰本線亀岡駅の改修工事に資金負担をした件に関して、日本共産党亀岡市議が噛みついているんです。事業費34億円(うち4番線増設や線路付替など橋上化にかかる事業に26億円)のうち、JRの負担分は2.8億円と全体の8%に過ぎない。もっとJRにもカネを出させろ(少なくとも3分の1ぐらいは)と言うのです。
 最初、亀岡市は第24条第2項を前提した答弁をしていた(平成17年6月 定例会、及び平成18年3月定例会)のですが、その後、京都府と相談しながら調べ直したようで、平成18年9月定例会で、24条2項のただし書きの解釈及び運用が変更された、JRは適用除外された旨を答弁しています。
 ああ、また需要のない記事を書いてしまった。これのどこが「鉄道系 時事ネタ」なんだ...と思わないわけでもないのですが、それもまた別の話。
 まだもう一回続きます。