DMVとレールバスが抱える「定員が少ない」という問題

katamachi2007-04-20

 デュアル・モード・ビークル (DMV)って、なんだか大人気ですね。釧網本線で運転を始めた4月14日から、あちこちのニュース番組や新聞で紹介されています。 正直言うと、JR北海道の話題が全国ニュースに載るのは、事故関係を除けば、かなり稀なことだと思います。

 線路と道路の両方を走る新交通システムとしてJR北海道が実用化した「DMVデュアル・モード・ビークル)」が14日、JR釧網線で試験的な営業運転を始めた。鮮やかなレモンイエローの車両が浜小清水(網走管内小清水町)―藻琴(網走市)駅間をオホーツク海を望みながら軽快に走った。
「DMV:試験的営業運転始まる オホーツクの風感じ、レモンイエロー疾走」毎日新聞、2007年4月15日
 JR北海道が開発し、線路も道路も走れる「デュアル・モード・ビークルDMV)」の試験営業が14日、北海道のオホーツク海沿いのJR釧網線で始まった。第1号は満席となり、12人の乗客が約1時間、列車とバスの二つの旅を味わった。DMVは鉄道用の車輪とタイヤの両方を装え、ボタン一つで10〜15秒で切り替える。
「線路と道路の両方を走れるDMV、北海道で試験営業開始」朝日新聞、2007年04月16日

 DMVの製造費は2000万円?ぐらいとのこと。キハ40の1両あたりの製造費が1億3000万円なんで、その6分の1以下ぐらいで済むらしい。さらに、「軌道と道路の両方を走ることができる」、「車両燃費は4分の1で済む」、「保線費は8分の1程度」......「だから、お得」というのがそのウリ文句です。産経新聞によるとJR北海道はこれまでDMVの開発に2億円を投じているようです。各地でローカル線の廃止問題が浮上していて、自治体はその対策に大わらわになっている。そんな中、未来像を描いていく上での一つの指針となっています。
 でも、実際、DMVの動いている姿をテレビで見た人はみんな思うんじゃないでしょうか。「なんで、バスじゃないとダメなの?」と……
 「バスが鉄道線路の上を走る」というのは絵になる風景です。見ていて楽しいし、面白そうだし、一度ぐらいは乗ってみたいと思う。ただ、実用に向くのかというと……やはり違うんですよね。
 デメリットはいろいろ挙げられます。ありすぎて大変なのですが、それを整理してみると、

  • バスを運行するより割高
  • 定員が少ない

という2点に絞ることができます。

気動車とバスとレールバスDMVの製造費

車種 定員 値段
JR北・DMV 12人 2000万円
JR西・キハ126 128人(62) 1億2000万円
松浦(日車)・MR-600 125人(?) 1億円
小型バス(日産)・シビリアン 28人 500万円
大型バス(日産)・KL-UA452KAN 65人 1600万円
大型観光バス(三菱)・エアロ 57人 4000万円
国鉄・キハ40 96人(68) 1億3000万円
樽見(富士)・ハイモ180 90人(36) 4000万円台
由利(新潟)・YR-1000 106人(51) 4500万円
JR西・キハ120 112人(49) 8000万円

※定員の( )内は座席数。バスの値段は新車価格の実勢値。キハ120は津山線、キハ187は山陰本線、MR-600は松浦鉄道に導入されたときの新聞記事などから。樽見鉄道由利高原鉄道は「鉄道ジャーナル」1986年11月号(239号)より。

 確かにDMV、最近製造された気動車よりかなり安いです。今年2007年から運用を始めたローカル線用の気動車だと、松浦鉄道のMR-600(日本車輌製造)は1両あたりの製造費約1億円。錦川鉄道のNT3000(新潟トランシス)だと1億2000万円。その5分の1で済んでいます。あと、80年代にバス車体をモデルに造られた富士重工業LE-Car12m車(樽見鉄道ハイモ180)のレールバスと比べても半値以下です。
 でも、改造の元ネタ車となっている日産のシビリアン(定員28人)は、新車価格で400〜700万円程度です。DMV車はその定員の半分以下に過ぎないのに、値段は3〜4倍しています。また、大型バスは定員60人ぐらいの通常のタイプで1600万円ほど。それよりも2割ほど高めです。
 それと、車両としての寿命はどうだろうか。バス構体を使うレールバスDMVだと15年も持てば御の字じゃないでしょうか。鉄道車の構体を使っていると20〜30年は使えますし、倍ぐらいは長持ちします。
 そこら辺の費用対効果はきちんと検討されているのでしょうか。まだまだ試作段階であるのは事実ですし、あまり細かいことをツッこむのは気の毒なのかもしれませんが……

定員が少ないため普及しなかったレールバスと同じ道を進んでいるような......

 それ以上に困るのは、DMVの定員の少なさです。
 現在、釧網本線では定員12名で運転しているようです。本来のDMVの座席数は、補助席1つを含めて16名ですが、鉄道の運転士(JR北海道)、バスの運転手(網走バス)、女性ガイドさんの計3名がスタッフとして乗車している分、定員が少なくなっているのです。この輸送力では通勤通学輸送には全く対応できません。
 将来的に乗務員1名、定員15名で運行したとしても、採算ベースに乗るとは思いにくい。現行の気動車も大型バスもワンマン運転で50人とか70人とかの客を運べるのと比べると、かなり非効率です。
 この「定員が少ない」という課題を考える上で思い出すのが、レールバスの元祖である国鉄キハ01形、そして80年代に登場した富士重工業LE-Car(Light Economy-Car)12m車です。
 キハ01は国鉄が1954年に製造した日本初のレールバスです。バス用の部品を多用することで製造費を抑えることで、赤字ローカル線の採算を改善することを狙って投入されたのです。一方、LE-Car12m車は富士重工業の手で開発された"80年代型レールバス"と言える存在で、1982年に試作車が登場します。バス部品を多用している点、車体長が10m強である点、2軸車(1軸駆動)である点、座席定員が40人前後というのが共通点です。
 ところが、両タイプともイマイチ普及しませんでした。キハ01形は1956年までに49両製造されて北海道と九州などに投入されましたが、10年ほどで運用を止め、キハ10やキハ20などの大型気動車に置き換えられます。LE-Car12m車も同様で、1984年から樽見鉄道など5社19両が投入されるもののわずか2年で製造は打ち切られます。
 さて、この新旧2つのレールバスで最大の問題となったのは

  • 定員が少ない

という点です。

車種 車体長 定員 製造年
国鉄キハ01形 10m 40人 1954年
樽見ハイモ180 12m 70人(座席34人) 1984
JR北DMV 7m 12〜17人 2005年

 共に車体長は10m程度ですからバスとさほど変わらない。
 地方における通勤通学事情を知らない方なら、「赤字線なんだからそれぐらいで十分だろう」と思われるかもしれません。でも、このサイズだと通学客の集まる朝夕の需要に対応できなかったんですね。ラッシュ時だけは2両に増結せざるを得なくなる。20m級の車両と比べると床面積は6割弱にしかならないのだから仕方がない。
 その他にも、

  • 2軸であるため揺れが激しい
  • 増結運転で余計な要員が必要
  • バス構体を使っているから長持ちしない

などのデメリットが問題視されていました。
だからこそ、50年代も80年代も、製造からわずか2年で生産が中止されてしまったわけです。
 ちなみに80年代のレールバスの場合、樽見はハイモ180を入れて1年後、名鉄もキハ10投入3年後に、それぞれ15m車を投入している。近江鉄道は5年ほどで電車への置き換えを始めている。名鉄と近江はわずか10年で全車を淘汰し、樽見も15年目には予備車1両以外を淘汰。三木鉄道は1999年、北条鉄道も2000年に相次いで大型車に置き換えています。LE-Car12m車で現役なのは北条鉄道1両(予備車)、そして紀州鉄道1両のみ。一線で走っていたのは10年、長くても15年と言うところでしょうか。やはりバス車体の寿命はそんなものなんですね。
 その後、富士重工業はLE-Car12m車より一回り大きい車体長15mのボギー車の開発を進めて、1985年から投入を始めます。1989年以降は、鉄道車両の構体をベースとしたタイプの製造を始めます。モノコック構造バスの製造を中止(→スケルトン構造)したこともあって、バス構体をレールバスに使えるという最大のメリットが失われたのです。一方、ライバルの新潟製造所は、当初(1985年)より鉄道気動車を簡易化した"NDCシリーズ"を投入していました。90年代後半からは、富士も新潟も、ローカル鉄道用に新標準の鉄道車両気動車を投入していきます。
 両社から鉄道事業を継承して新潟トランシスが誕生した2003年以降もこの傾向は続いています。最近の第三セクター鉄道用の気動車の製造費が1億円を超えるようになったのも安物よりはちょっと値段が張ってもそれなりにしっかりした車両が欲しいという側面があるのは否めません。

もう一度、DMVを導入する意義を問い直してみるべきでは。

 さて、21世紀のローカル線の星と喧伝されているDMVも、車体長10m程度だったレールバスと同じ「定員が少ない」という課題を抱えているわけです。バスと同サイズの車体をベースとしている限り、永年の課題は解決しません。
 ローカル線の利用者は80年代と比べると3〜5割は少なくなっています。でも、釧網本線三江線でも、平日の朝には40〜50人ぐらいは高校生が乗っています。そこで定員16人のDMVを2両、3両と続行させて運行させるとなると、それぞれに運転士が必要となる。キハ54やキハ120をワンマン単行運転するよりも人件費は確実に増えてしまいます。
 仮に、DMVを1両投入されるだけで十分な輸送量しかないのなら、なぜ鉄道輸送せねばならないのか、なぜバス輸送ではダメなのか……結局、「なんでDMVを導入しなければならないの」という根本のところからして不可解なんです。
 「なんとか鉄道線を存続したい」という気持ちは分かります。JR北海道の挑戦も意義あることだと思います。でも、今のままでは実用に耐えない。50年代や80年代と同様、利用者の多い朝夕だけ通常タイプの気動車を運行するのなら、DMVを投入する意味はないと思います。
 昨年、JR北海道の某駅で社員さんと「本気でDMVを導入することはないと思うよ」なんて話をしてみたのですが、それはまた別の話。