コンプレッサーで動かす"蒸気機関車"を報じる新聞記事のナゾ

katamachi2007-10-22

 「空気」で動く蒸気機関車というのが存在する。
 ここ30年、大井川鉄道山口線など全国あちこちで動態保存という形でSLが復活するようになったが、昔のような形で本線走行をさせようとするとボイラーなど各種部品を取り替えたりかなりの修繕をせねばならず、それに何億円ものの費用がかかってしまう。走り出しても運行経費はかなりかかるし、なかなか投資に見合った利潤を確保することができない。予備部品が確保できなかったり、機関車の台枠が走行に耐えられなくなったり、あるいは経済的に機関車を動かせる余裕がなくなったりして、運転を取りやめることもある。
 でも、2006年12月、群馬県の財団法人川場村観光開発公社http://www5.kannet.ne.jp/~hotel-sl/mokuji.htmが「ホテルSL」でD51の運転を始める。機関車の駆動装置として、ボイラーで石炭を炊いて蒸気で動かすのではなく、機関車に設けたコンプレッサーの圧縮空気によって、あの巨体を動かすことに成功したのだ。おそらく費用は百万円台で済んでいるだろう。"蒸気"機関車でも、"Steam" locomotiveでもない、かつて国鉄の本線上を走っていた鉄の固まりが動くというだけの"SLモドキ"でしかないのだけど、まあそれはそれ。村おこしの手段として取り組まれたスタッフのアイデアにはただただ感服するしかない。<参考>2006-12-19群馬県川場村を走るD51
 それとよく似たSLが鳥取県に出現した。

 第3セクター「若桜鉄道」(鳥取県若桜町、小林昌司社長)の開業20周年を祝うイベントが若桜駅周辺で行われた。今年8月、兵庫県多可町から譲渡された蒸気機関車の走行見学会も構内で開かれ、蒸気を上げるSLの雄姿に、家族連れらが歓声をあげていた。蒸気機関車「C12 167号機」は鉄道ファンや親子連れが見守る中、コンプレッサーによる圧縮空気で250メートルの線路上を快走。
蒸気上げSL雄姿 若桜鉄道が20周年産経新聞10月21日
鳥取市 鉄道まつりin若桜鉄道

 へえ……と昨日は事実関係を把握するだけで読み飛ばしていたのですが、今日、読み直すと、この記事の中に不思議な表現が一つありました。
「蒸気を上げるSLの雄姿」
 えっ、石炭→蒸気で動くのではなく、コンプレッサー→圧縮空気で動くということになっているのに、どうやってC12の煙突から蒸気が吹き上がるのだろうと思っていたのですが、他の新聞では、

圧縮空気を使ったため、煙や蒸気は出なかったが、よみがえった雄姿に構内を埋めた見物客から歓声が上がった。
蒸気機関車お披露目試運転 若桜鉄道日本海新聞2007/10/16

 この日は、同鉄道職員が圧縮した空気の力を使ってSLを起動。「ポォー」と汽笛を鳴らし、煙突から演出用の白い煙を噴出させた。SLは力強く約100メートル自走し、集まった大勢の観客が拍手を送っていた。
若桜鉄道:20周年祝う 里帰りSL、力強く 60年ぶり走行にファン拍手毎日新聞10月22日

となっていました。なんだ、やっぱり煙突から蒸気は出ていなかったのか…… 写真の白いヤツは演出用の煙というワケか。
 となると、産経新聞の記者の方って、なんで「蒸気を上げるSLの雄姿」と書いたんだろう。

  • 記者は煙突から出る白い煙が「蒸気」なのか演出用なのか区別がつかなかった。
  • 記者は関係者に取材していないorプレス用のペーパーをきちんと読んでいない。「蒸気機関車の白い煙→蒸気」と勝手に思いこんだゆえの早とちり。
  • 記者は、そもそも現地に行っていない。写真はメールで関係者から送付、コメントは電話取材しただけで、自分の眼では現場を見ていない

といったところか。正直、鉄道に興味のない新聞記者の方には、「蒸気」がホンモノなのかニセモノなのかなんて、どーでもいいんでしょうね。「蒸気を上げるSLの雄姿」ってのが、またベタベタな工夫のない表現ですし、いろんな意味で、この産経の記事は寂しいなあ……と思ったりもするのですが、それはまた別の話。