タイ国鉄塗色で9月になっても走っているC56-44のラストラン(?)と遭遇
この週末に大井川鐵道へ向かったのは、母校の大学鉄研で井川線にて貸切列車を走らせることが主目的だったのです。
大井川鐵道と言えばやはり蒸気列車。ただ、復活運転から34年が経ち、正直、鉄道マニア的な注目度は落ちているというのが現状です。JRが企画するSL列車ほど注目を集めにくいんですよね。同じ場所で毎日運転されているので、希少価値は薄いと見られているような気がする。写真撮影の対象にイベント性を求める昨今の文脈から外れているという言い方もできる。
その大井川でのSLについて、こんな話題がありました。
大井川鉄道(静岡県)を走る蒸気機関車「C56形44号機」の塗色が、緑を基調とする現在のタイ国鉄仕様から、日本の旧国鉄仕様の黒に戻ることになった。
戦争に巻き込まれて異国で長く活躍し、日本に戻る数奇な運命をたどった機関車が、再びオリジナルの姿で川根路を走ることになる。タイ国鉄仕様での運転は今月28日が最後となる。
タイ仕様の大井川鉄道C56、旧国鉄仕様の黒に読売新聞2010年8月23日
なるほど8月末で打ち止めなのか。僕らが行くのは9月4日。タッチの差で残念。と、諦めていたんです。
ところが......
大井川第一鉄橋で待っていたらなぜかタイ仕様のC56が現れた
9月4日は川根温泉笹間渡近くにある大井川第一鉄橋のたもとで待っていました。
上りの元近鉄16000(南大阪線特急)と下りの元南海21001(ズームカー)をまずは見送ります。順光にほぼ近い感じですかね。
次は金谷に向かう上り「SL南アルプス号」。川根温泉笹間渡1537発です。
笹間渡駅の発車時に汽笛がなるのが合図。まもなくやってきます。
緩やかなカーブのある橋をゆっくりと渡っていきます。勾配区間じゃないし煙ががっかりなのは仕方ないか。
牽引機はC11-227。大井川復活運転が始まった34年前からの主力機です。
次は「SLかわね路号」です。川根温泉笹間渡1601発。
さあて、次の牽引機は......って、もったいぶらなくても答は分かっています。C56-44です。
私の隣で撮っていた先輩談で、今朝の下り「SLかわね路号」はC56-44+客車7両+いぶき(補機の電気機関車。元大阪セメントの近江長岡の側線で活躍)で北上していったと聞いていたからです。
もちろん帰りもそう。タイ国鉄塗色のままでした。
8月でタイ国鉄の運用から外れるとの情報はホームページhttp://www.oigawa-railway.co.jp/100900c5644_thailand.htmにも載っていました。「C56タイ国鉄仕様運転予定日(毎週水・木・金・土曜日」も「8月28日(土)」が最後。「カラフルなタイ国鉄仕様はこの夏で見納めになりますので、最後のチャンスを逃さないようぜひお越しください。」とも。
これを読んだら、そして読売新聞で断言していたから、「8月でラストラン。9月は違うのが走る」と思うじゃないですか。
引退興行の後もそのままというのが何とも言えませんが、こういうテキトーなところが大井川鐵道らしいと言えば大井川鐵道なんでしょうね。
あとで寸又峡温泉で関係者が集合して宴会をしたのですが、みな予想外のタイ国鉄塗色C56の出現が嬉しかったようです。いやあ、ラッキーだったねえ。僕らの来訪を祝ってくれたのかなあ、と。
そして翌5日(日曜日)。井川線での貸切が終わって千頭駅から「SLかわね路号」に乗ろうとすると......
またC56-44ですよ。
昨年も一昨年も大井川鐵道に来たんですが、両方とも僕が乗った「SLかわね路号」の牽引機はC56-44。今回もそうか.......
鉄道趣味的にはアレ扱いされていましたが。
このC56。1936年に製造された後、戦時中に軍部へ供出され、タイとビルマを結ぶ泰緬鉄道で稼働していたたというのは有名な話です。戦後もタイ国鉄で動いていたけど70年代後半に廃車の危機に迫られていた。
それを拾ったのが大井川鉄道で、1980年から動態保存を始めます。一時期調子が悪くて休車になっていたのですが、2007年秋から再び本線上を走るようになった、と。
その際、
- タイ時代をイメージした塗装にされている。ボイラー部は深緑系
- 足下には、タイで使っていた牛よけ(カウキャッチャー)を装着
- 炭水車にはタイ語が書き記されており、先頭と横には"735"という番号
という色と形に変更されたという形になる。
日本とタイと大井川鐵道との関連性を強調するには確かに面白い取り組みだと思います。そうした物語性を強調することでアピールをしやすくなるし、蒸気列車が特に珍しいものではなくなってきた今日、JRなど他社との差別化を図ることもできる。
ただ、鉄道マニア的には、C56牽引機が来ると「ハズレ」とされていた模様。正調のクロ一色でないというのがあまり好まれなかった理由なんだそうです。海外鉄道好きの僕なんかはそういう異端の塗色も面白いんだけど、そもそも日本の鉄道好きで海外の鉄道に関心がある人は少ない。
国鉄色願望が強い最近の風潮からするとそうなんだろうなあとは思いますし、まあ、その気持ち、分からない訳でもない。
僕的には、C56のバックスタイルにはあまり魅力がないんです。お尻から見ると、
上の写真のように、正直、不格好なんです。
バック運転の時、運転室から前方が見易いように炭水車の一部を削り取っていたのは製造時からそうなんでその仕様に文句を言うのもなんなんですが、やはりバランスに欠けるんですね(タイ時代にもいろいろ改造されたみたいですが)。二年前のエントリーでは、「なあに? この機関車変!!!」という子供の発言を書いていたんですが、何度見てもやっぱりアレだなあ。前向きの運転だとそれなりに好きなんですけどね。
ただ、「C56って推進運転で本線上を走る事って滅多になかったから、これはこれで貴重だよ」とはSLブームを経験された大先輩の言葉。まあそういう見方もあるかなあ。次は別の機関車に乗りたいんだけど。
金谷到着後、すぐに新金谷へと引き上げていくC56-44。記念撮影のおっちゃんが入ってしまうのはご愛敬。
てなことで、9月4日と5日。タイ国鉄塗色C56-44の本当のラストランに遭遇した......と書けば格好いいんだけど、この調子だと、今週とか来週ぐらいまでは本線走行している可能性がありますよね。
というか、今回、僕や他の人たちが待ち望んでいたC10はどこへ行ったんだろう。新金谷の車庫にもいなかったし……とそっちも心配なんですが、それはまた別の話。