ジンバブエのハイパーインフレの恩恵を受けた話

katamachi2008-06-22

http://www.asahi.com/international/update/0623/TKY200806230082.html
 アフリカのジンバブエが大変です。
 ムガベ大統領が2000年に農地改革として白人農場主の土地を取り上げ、イギリス系資本がいっせいに引き上げたことで始まった混乱。外貨の稼ぎ頭だった農業生産が大打撃を受け、実質国内総生産が往年の1、2割程度にまで落ち込んだ。もうめちゃくちゃになっている、と。
【明解要解】なぜ「暴君」に? ジンバブエのムガベ大統領
ジンバブエ、1000万ドル札を導入 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
ついに、世界最高額紙幣登場!5億ジンバブエドル札
 僕はアフリカ縦断旅行の途中、2005年10月に同国を訪ねました。その間、このインフレの影響をモロで受けていました。
 ジンバブエ・ドルWikipedia(ZWD)で確認してみると、

  • 2000年8月 1USD=50ZWD(闇70)→経済混乱の端緒
  • 2005年10月 1USD=26,003ZWD(闇80,000〜100,000ZWD)→僕が行ったとき
  • 2006年7月 1USD=101,195ZWD(闇550,000ZWD)
  • 2006年8月 1USD=250ZWD(闇550ZWD)→1000分の1のデノミを実施
  • 2008年6月 1USD=74億3718ZWD(闇171億6900万ZWD)

となっていた。
 僕が行った2005年秋でも、わずか2ヶ月でレートが2分の1になるとか滅茶苦茶だったけど、今は……なんだこれは。デノミ前の10000ZWD(実勢15円程度、当時の最高額紙幣)札を持っているけど、今ではそれすら紙切れなんだな……
 もちろん、空港とか銀行とか行くと公定レートでの両替を求められるのだけど、実際、みんな闇両替をしているんですよ。

公定レートと闇レートの差が3倍以上

 ジンバブエ最大の観光地であるビクトリアフォールズ(世界最大級の滝で有名)には、アフリカで国立公園のサファリーを楽しむ欧米人が多数立ち寄るので、それなりに米ドルや外資が使われている。と言いつつも、街中のジュースや安レストランではジンバブエドルでの払いを求めるので、それなりに両替しておかねばならない。

 ただ、銀行で両替すると、ジンバブエドルは1USD=26,003ZWDと公定レートでしか評価してくれない。
 街売りのジュースとかは3000ZWD=約10円程度なんでそれでも物価は安いのですが、闇レート90,000ZWDだと同じ3000ZWD=約3円と3分の1以下になる。そもそも銀行と通貨が不安定なんで、毎朝5時くらいから大勢の黒人たちが銀行に押しかけていて、外国人が両替できるような状況ではない。数日前に預金封鎖してしまい、金庫にあるキャッシュを求めに来たらしいのだが、それでなんとかなるんだろうか。大丈夫か、この国。ATMでキャッシングもできるが、公定レートなんで損してしまうし、それ以前にカネが入っていないらしく使い物にならない。
 仕方がない。街中の闇両替屋へ行くか。
 旅行会社が建ち並ぶ地域の裏側に闇両替をする事務所(掘っ立て小屋)がいくつもあった。ポリスとかに見つかると因縁を付けられるので隠れてじゃないと誰も両替してくれない。
 ジンバブエ国内でどれぐらい使うのか分からないので50米ドル(6000円)ほど変えたいというと、1米ドル=75,000ZWDという。このレートが正しいのかどうか分からない。8月の情報では1米ドル=30,000ZWDと聞いていたけど、2ヶ月でレートが半分以下に落ちているのか。でも、確かめようがない。「じゃあ」と去ろうとすると、オヤジは「80,000ZWD」と声をかけてくる。ホンマかよ……。で、近所の闇両替屋を数軒回っていくと、1米ドル=90,000ZWDが相場と言うことが分かった。そのうちの一店で変えることにした。
 若い黒人男は裏口へ行き、金庫の中から幅40cmほどの紙幣の束を持ち込んできた。50米ドル=4,500,000ZWD。ジンバブエドルの最大紙幣が10,000ZWD(=約15円)なんで、それが450枚も重ねられている。
 両替の際に枚数を誤魔化す場合があるので裏口で一枚一枚数えるのだけど、途中で、どーでも良くなってきた。450枚もあるし、たとえ2枚足りなくても、日本円だとたかが30円じゃないか……

東京〜大阪と同距離の寝台列車で70円。ビフテキが500円

 ただ、このレートの違いは有り難い。
 たとえばレストランに行くと、高級店では米ドル支払いを求められるけど、中級以下だとジンバブエドルでも可能。一つ、素敵なステーキハウスを見つけた。外国人相手の店なのに現地通貨での支払いも可能なんだ。500グラムの分厚いヒレ肉とサラダ・飲み物セットが300,000ZWD。米ドルの価格表もあって"13ドル"(1500円)とあった。日本的には安いけど、向こうの物価からすると異常な値段だ。が、もちろん僕はジンバブエドルで。日本円だと、わずか500円弱で食べることができた。かなりジューシーな足だったんで、滞在中、この店に何度も足を運んだ。
 他でも、たとえば、鉄道運賃。
 ビクトリアフォールズからブラワヨ(ジンバブエ第二の街)へ行くのに夜行列車を使う予定でいて、駅の運賃表で値段を調べると、一等寝台車で50,000ZWD!!!!。東京〜大阪間とほぼ同じ500kmもの距離なのに、日本円だと70円程度で乗車できる???!!!。なんじゃ、この値段は……。公共料金って、市場価格よりも値上がりのタイミングが遅れるから、ときどきこういうことも起きる。
 と思っていたら、窓口の脇に白い紙が。「10月22日から運賃値上げ」で、250,000ZWDと一気に5倍値上げになるらしい。しかも明日から……。まあそれでも350円程度だから許容範囲なんだけど、「50,000ZWD=70円」という数字を見た人間には目が毒です。

現地人はジンバブエドル、外国人は米ドルと2つの通貨が併存している

 外国人向けのホテルやレストランは米ドル支払いが義務づけられている。ジンバブエ政府の方針なんだろうし、企業家たちとしても不安定なジンバブエドルよりは米ドルの方が安心してタンス預金しておける(100kmほど離れた隣国ボツワナの銀行に預けているとか)。バンジージャンプ80ドル、ラフティング(川下り)100ドル、ライオンお触りツアー80ドル。ここらはもちろん米ドルなんで現地の物価からすると異常に高い。ジンバブエドルだと、実勢価格は3分の1になるんで頼んでみたけど、けんもほろろに断られた。
 僕は、ヘリコプターによるビク滝観光飛行(90ドル)に乗ったのだけど、途中の送迎バスで日本人のツアーと一緒になった。彼らは2泊ほどこの国に滞在するのだけど、米ドルをジンバブエドルに両替してはいけないとガイドに強く指導されているんだそうだ。闇両替にまつわるトラブルを避けるための処置らしく、欧米人もそうしているとか。
 おばちゃんたちのグループにせがまれて、ジンバブエドルの最高額紙幣「10,000ジンバブエドル札」をみせた。表は赤色。すかしとかそういう工夫はない単色刷。裏面は真っ白。インフレが激しくてきちんとした札を作るカネがないんだろう。「欲しい!欲しい!」とせがまれたんで、みなさんにプレゼントした。日本円で約15円だけど……まあいいや。
 闇レートと公定レートとのギャップを楽しんだ生活をしていたんだけど、列車でブラワヨという街に行くと、状況は一変した。博物館もレストランも全て米ドルでの支払いを強制されるようになったのだ。
 この都市の中心部には、ジンバブエ自然史博物館がある。アフリカ最後の白人政権国家だったローデシア(→1980年ジンバブエとして独立)時代に整備された、アフリカで最高の施設と中身を誇る素敵な博物館だ。日本人旅行者お馴染みの「アフリカ―アフリカ大陸37カ国ガイド (旅行人ノート)」でも大絶賛されていた。
 だが、入場料は10ドル=1200円。現地人価格は10,000ZWD(=約15円)。実勢レートで80倍か。旧共産圏の国ではまだ外国人料金の設定がある国もあるが、ここまで極端な例はない。博物館は確かに魅力的だったし出来も良かったけど、展示は70年代以降、あまり更新された気配がない……
 あと、ビクトリアフォールズでたびたび通ったステーキハウスにも行ってみた。だが、その日、政府からの指導があったようで、外国人向けメニューの値段表はジンバブエドル表示から米ドル表示に変えられていた。

海外から石油を買う金がなくなって博物館から蒸気機関車が復活

 その翌日、今度はブラワヨ駅へ行ってみた。
 夜行で着いた時に気付いたのだけど、駅で貨物列車の入れ換えとかの作業をしているのが全て蒸気機関車だったのだ。ガーラット機関車という旧宗主国イギリスがアフリカ各国に導入した全長50mの巨大なSL。日本の機関車とは違い、ボディーの前と後ろに炭水車を付けているのが特徴的だ。
 SLはとっくの昔に淘汰されて、欧米人向けの観光客用にしか走らせない……と聞いていたのに、なんで21世紀にSLが入換なんて地味な仕事をしているんだろう。駅のチーフに聞くと、「石油がなくて……」という話。お隣の鉄道博物館で休止状態になっていた蒸気機関車で状態がイイものをリストアして復活させたのだとか。
 駅の南側で入れ換えをしている機関車を見に行く。ディーゼル機関車の倍以上のサイズがある巨大な蒸機が1台、2台……いやあ、凄いやあ。迫力がある。でも、黒煙が……なんか匂いが違う。燃焼が不完全なんだろうか。鉄道マニア的にはかなり楽しかったのだけど……


 で、日本に帰ってから調べてみると、こんな記事が見つかりました。

 経済状況の悪化でガソリンやディーゼルなどの燃料が極度に不足しているアフリカ南東部のジンバブエはこのほど、ディーゼル機関車の代役として、既に引退していた蒸気機関車(SL)を約十一年ぶりに“現役復帰”させることを決めた。海外のSLファンにとっては朗報だが、国内の劣悪な交通事情の大幅改善につながるかどうかは不透明だ。
 ジンバブエ国鉄などによると、同国鉄は一九九四年、特別列車用など一部をのぞき、SLからディーゼル機関車に切り替えた。しかし、ここ数年は外貨不足でディーゼル燃料や保守に必要な部品がほとんど買えず、「(首都の)ハラレで列車が走っているのを見た記憶がない」(外交筋)という状態。
 そこで国鉄は、国内に石炭は豊富にあることから、第二の都市ブラワヨの車庫に保管するSL十両を、約八万ドル(約九百二十五万円)かけて補修、うち五両を今年末までに、残り五両を来年末までに現役復帰させることを決定。貨物や通勤、ビクトリア滝などへの観光列車として利用する予定という。
燃料不足でSL復活へ/ジンバブエ、11年ぶり東奥日報、2005年11月1日(共同)

  • バスの運行にも著しい支障が出ており、労働者の多くが何時間もかけて徒歩で職場に行く
  • 地方では、家畜に救急車を引っ張らせているとの情報もある

とか凄い話も紹介されている。2005年当時、夜行列車は週7本運転のところ、燃料不足とディーゼル機関車の整備不良で5本程度に減らされていたけど、それから3年経った今はどうなっているんだろう。5億ドル札って、ちょっと気になるしまた行きたいなあとか思うのだけど、それはまた別の話。