阪堺電気軌道とキリストは罪を赦す 聖書

katamachi2008-01-09

 正月の阪堺電気軌道というと、なにはなくても住吉大社である。
 全国でも有数の参拝客を誇る"住吉さん"への初詣客輸送のために、在籍する40両近くの電車のほとんどが本線上に出動する。普段は車庫で眠っていることの多い、昭和一けた製のモ161形も現存車10両のほとんどが上町線阪堺線の運用に借り出されてくる。住吉大社周辺の道路は全て歩行者天国に様変わりしていて臨時の停留所が車道上に設けられ、臨時のキップ販売場もあるし、住吉鳥居前・住吉電停付近には何両ものの路面電車が数珠繋ぎになっている。とにかく凄いんだ。ぜひ鉄道マニアなら見るべきだ。
 ……と、阪堺マニアである鉄研の後輩から十数年前から何度も勧められていたのだが、これまで利用する機会は全くなかった。
 年がら年中、国内から海外まであちこち飛び回っているのだけど、年始だけは地元で大人しくすることにしていた。渡世の義理というのもあるし、定番の行事をパスするわけにもいかない。
 今年も1月2日はなにも用事がなくて家でゴロゴロしていようとも思っていたのだけど、前日になって大学鉄研での別の知り合いからメールが来た。最初は「三木鉄道に行こう!」という話だったのだけど、年末のコミケ行きの疲れが抜けきっていないので朝から動くのはしんどい。で、手近に大阪の阪堺電気軌道へ行こうという話になった。
 そんな腑抜けた気分だったから恵美須町駅に着いたのは12時40分すぎ。すでに太陽は南中を通過していた。

今回が初めてですが、住吉大社輸送の阪堺電気軌道。なかなか魅力的です

 幸いなことに、停留所に停まっていたのは、モ163。銘板を見ると、「川崎車輌 昭和3年製造」とある。今年で80年目となる古豪の車両だ。いま、国内で定期運用に入っている車両としては最古参の部類にはいるのじゃないだろうか。
 車内は座席がさらりと埋まる程度。われわれが空席を見つけて座り込むと、まもなく発車のベルが鳴る。

 すでにピークを過ぎているのかな……なんて話をしていると、次の南霞町で大量の乗客がやってきて車内は身動きが取れない状態になる。その後も、頻繁に反対側から初詣客を満載した電車がやってくる。いつもは12分間隔での運転なのに今日はその倍ぐらいは動いているのだろうか。もちろん、ほとんどの客は住吉鳥居前の仮設電停で下車し、すぐ側の鳥居を抜けて住吉大社へお参りに向かう。
 われわれは大阪市内最南端となる我孫子道電停で下車。すぐ側にある車庫へ行くと、広大な敷地内にモ161形が2両、そして京都市電の中古車モ256号が1両鎮座しているだけだ。元旦だと、車籍のないモ256以外は全て出払うのだろうか。
 この後、電停近くにある鉄道模型レイアウトへ移設の「鉄道喫茶あびこ道」で軽く昼食を採った後、特に用もなく堺市内の大小路電停*1へ行き、そこから折り返して大和川電停へ。ここで、橋梁を行き交う電車の撮影を軽く済ませてから住吉大社へ向かう。

神社の前に懐かしのキリスト看板が……

 さて、住吉鳥居前電停に着いたのは15時過ぎ。もうビルの影が線路上に落ちていてあまりイイ写真が期待できそうにない
 ……と思っていたら、鳥居の近くに怪しい人たちが4人ほど立っている。
 みんな手に手に持っているのが、そう、あの懐かしき"キリスト看板"なんです。
 "キリストは罪を赦す"だの"神に対する罪を悔い改めよ"だの"キリストの血は罪を清める"だの、黒や白、黄色などの極太筆記体で書かれた看板が田舎の木造商店や農家に打ち付けられている姿を見た人は少なくないと思う。なんだか突然意味もなく掲げられているから高圧的にも見えるけど、一応、聖書の言葉を知らしめてくれるから有り難いと思わねばならないのかもしれない。むかし幼かった頃、祖母の家の近くにある神社に初詣へ行くと、この手の看板を持った怪しいオジサンやオバサンが鳥居の前に無言で立っていて、なんだかひどく怖かった記憶が蘇る。
 とにかく微妙な雰囲気を醸し出している。日本有数の初詣客で賑わう住吉大社の前に立っている人たちは間違いなくキリスト教の信者なんだろう。神道邪教だから、真の神であるイエス・キリストの声を聞け!ということなのか。というか、明らかに彼らの立っている場所は、参拝客の流れの妨げとなっている。神の言葉を訴えかける前に、公衆道徳を守れよ……なんて思うのだけど、阪堺電車の乗降客を整理する警備員さんたちは彼らの行動を完全に無視している。たぶん大昔から同じようなことをやっているんで、もういまさら誰も止めないんだろう。
 てなわけで、"キリスト看板"入りの阪堺電車の写真をピックアップ。
 まずは、"キリストは罪を赦す"。ルカによる福音書第23章32―43節の一節です(?)。むこうを走るのはモ503。ボディー広告はパチンコ屋さんの宣伝だから、ギャンブルをしたような罪人すらも神様は赦してくれるというのだろうか。

 次は"罪から清められた人はさいわい"。これは検索しても"キリスト看板マニアさんたちのサイト"しか出てこないので、聖書にはないオリジナル言霊なんだろうか。住吉大社の鳥居の真ん前にあったんで、神社に行けば罪が清められるということなのか。いや、神社に行くのは良くないから教会へお参りせよと言うことなのか。どういう意味かよく分からない。

 正直、日も落ちてきたし、まともな写真が撮れないんで、ヒマ潰しにこんな写真ばかり撮っていました。
 できれば、オールドタイプのモ161形か、あるいはラブホテル"やんちゃな子猫"の看板付きの電車(下は06年夏の503先頭部)と一緒に撮りたかったので、電停の側で待っていたのですが、10分ほどいても、こんな時に限って現れない。いい加減、寒くなったんで、人混みに紛れて神社に初詣へ行くことにしました。
 ああ、こんな汚れた気持ちで新年を迎えるとは、日本製の神様もイスラエル製の神様も赦してはくれないんだろうな……とも思ったのですが、それはまた別の話。

*1:いちおう、堺市西鉄軌道LRTとの連絡駅となる予定。堺市民以外の関西人には、元"トレンディー女優"千堂あきほのCM"金プラ買いでおなじみのヘリオス大阪"という質屋さんの最寄り駅として知られている?