四国新幹線の計画中止に反発していたのは誰なんだろう

katamachi2008-05-23

 実現のめどが立たない四国新幹線の海底トンネル建設調査費として国土交通省が07年度まで29年にわたり、少なくとも24億円を投じていたことが分かった。08年度予算でも1億円計上した。道路特定財源の見直しで無駄な公共事業への批判が高まり、調査打ち切りを決めた(中略)
 国交省によると、数年前から四国新幹線の調査を疑問視する声が省内からも上がったが、地元の反発を恐れ、事業は打ち切らず、調査費の支出を続けてきた。調査結果がまとまるまでには、さらに約10億円が必要という。
四国新幹線、29年で調査費24億円 国交省が打ち切り朝日新聞、2008年05月22日

 四国新幹線。ついに打ち切りか……
 本文には「地元の反発」とあるけど、誰が反発していたんだろう。この構想が潰れても、四国各県や淡路島なんかの人たちは、実際の所、さほど痛みを感じない。だって、本州四国連絡高速道路が三本も建設されたことで、十二分に享受を受けている。まあ、新幹線ができればそれなりに便利になるのだろうけど、高速道路に比べればありがたさには欠ける。平成になってからの日本経済を見ていれば、さすがに無茶だということは、フツーの人なら誰でも分かる。
 愛媛新聞に「四国四県知事らは四国新幹線の早期実現が極めて困難な状況は認識済みだ」とあるように、実際、ここ十年、四国の各県庁や関連する議員さんたちの関心は、岡山経由でフリーゲージトレインを走らせることの方に移っていた。まず完成するとは思えないフル規格の新幹線よりは現実的な路線を考えてきたわけだ。いや、フリーゲージトレインの実験車は、最高速度210km/hと0系以下のスピードしか出せない。N700系+四国特急より足が遅いわけで、実用には程遠いような気もするけれど、それはまた別の話。

 で、調査の委託を受けていた独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の前身は、あの日本鉄道建設公団。この組織、70年代までに、39線1500km以上の区間を鉄建公団線として調査、工事していながら、そのほとんどを完成させないまま放棄したという前歴がある。実際、工事され路盤ができていながらも完成前に破棄されてしまった区間も200〜300kmほどはある。下の写真はその一つ、阪本線(五新線)です。

 自分は、以前、国鉄関係の未成線の顛末について本を書いたことがあるので、鉄建公団が放棄した鉄道線について調べたい方は本屋か図書館で手に取ってみてください。

鉄道未成線を歩く (国鉄編) JTBキャンブックス

鉄道未成線を歩く (国鉄編) JTBキャンブックス


四国新幹線と鉄道建設公団の歩み

 さて、この四国新幹線。今回、鉄建公団が1995年に刊行した「日本鉄道建設公団三十年史」で調べてみた。

四国新幹線


 豊予海峡明石海峡についてはここ20年ほどの動きは何も記されていない。
 明石海峡は、四国新幹線建設を前提に敷設された大鳴門橋*1と同様、鉄道道路併用橋になるはずだった。ただ、1985年、建設費抑制のため道路単独橋として建設されることが決定した。その段階で四国新幹線の夢は瓦解しているはず。そして1998年に橋が完成したことで、大阪・神戸から淡路島・徳島県へ行くのはかなり便利になった。もう二つの島の住人から鉄道を待望する声はあまり聞かれない。
 ところが、唯一、諦めていないのが和歌山県
 この手のトンネルや橋の構想がある場合、通常は本州側ではなく、海を挟んだ先にある島に住んでいる人たちの方が計画に熱心に取り組む。
 でも、紀淡海峡はちょっと事情が異なる。橋の"根っこ"にあたる和歌山側の方が一生懸命だ。
 いつしか鉄道トンネル構想はうやむやになり、1993年頃からは紀淡連絡道路として道路橋を架ける話になっているhttp://www.kitan-renraku.com/。そして、ここの調査・研究にも税金は大量に投じられている。
 正直、淡路島や徳島側からすると、経済規模の小さな和歌山と直結するメリットはさほどない。でも、和歌山側は、淡路島と連絡することで大阪湾を一周する交通ネットワークを完成させることで、自らの経済圏の魅力が高まると期待している。いや、そんなに甘いはずはないのに……とは思うけど、そう信じているらしい。だから、紀淡連絡道路実現期成同盟会の事務局は淡路島や徳島ではなく、和歌山市に置かれている。いや、徳島側にも、紀淡連絡道路建設徳島県推進協議会という組織があったけど、この記事によると、2008年度から休眠状態に入ったらしい。
 ともあれ、1998年の全国総合開発計画(21世紀の国土のグランドデザイン)によって、紀淡海峡で道路橋を造る計画が閣議で決まった。にもかかわらず、新幹線計画と紀淡トンネル構想は中止にされず、「三十年史」には、「平成6年度(注 1994年度)以降これらの箇所(注 紀淡海峡)の地質構造を解明すべくボーリング等を実施する予定である」とある。それが2007年度まで粛々と人知れず海の底で進められていたのだろう。いや、予算が計上されただけで、実際には執行されていないのでは。そこらの事情が私に分かるはずもない。
 もはやこうなると訳の分からない世界である。確か「道路族のドン」とか言われている某議員がこの県を地盤としていたように記憶している。あるいは、そこらの議員さんたちの影を恐れた国交省が単に事なかれ主義にしていただけなんだろうか。もはやロマンとかそういった話を越えた次元の話になっているのだけど、それはまた別の話。

追伸

 ちなみに、紀淡連絡道路を含めた「六海峡横断プロジェクト」というのが「21世紀の国土のグランドデザイン」で取り上げられています。一応、これらも実現に向けて着々と調査が進められている、はずです。

 他にも、津軽海峡大橋(青森県大間町〜北海道函館市http://www.kh.rim.or.jp/~hhbridge/とか、例の壺とスルメな団体の日韓トンネルhttp://www.jk-tunnel.or.jp/とか、曰く付きの計画はたくさんある。
 国土交通大臣は3月7日の記者会見で、海洋架橋・橋梁調査会に委託してきたプロジェクトの調査を打ち切り、2008年度から調査費を支出しないと発言したとか。でも、「プロジェクトそのものを(国土形成計画から)削除することはできないとの考え」も示しているとか。計画を中止したとは明言できないワケなんだね。いろんな自治体がこれらの橋を推進するためのホームページを作っているけど、なんだかなあ……

*1:ちなみに、大鳴門橋は、きちんと高速道路の下に新幹線の走行スペースが確保されている。瀬戸大橋も新幹線対応。岡山県側には新幹線用のトンネルも確保済み