なにわ筋線構想に過剰な期待を寄せられても困るんだけど。
この数ヶ月で、なにわ筋線を巡る議論が急ピッチで進んでいる。
この路線については、「なにわ筋線について語ってみるぞ。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で詳しく書いたのだけど、新大阪から北梅田ヤード開発地、中之島などを経由してJR難波・汐見橋を結ぶ構想である。60年代からたびたび企画されたのが1989年の運輸政策審議会で取り上げられ、関西新空港へのアクセスの目玉として企画されるモノの、採算面が不安視されてバブル期にも鉄道系公共事業が乱発された時期にも見送られ、20年間、放置され続けてきた。
で、今年に入って景気回復のためという名目で公共事業が大盤振る舞いされる中、例の橋下徹府知事が2月くらいから盛んにこの構想の実現促進を主張し始めた。関西空港活性化の目玉、ということらしい。国交省も共同歩調で行動しているから、事前に府と省との打ち合わせがあったのだろう。
新大阪とミナミ結ぶ鉄道「なにわ筋線」実現へトップ会議朝日2009年2月14日(ここも)
「なにわ筋線」実現へトップ協議──17日にも大阪府・市や鉄道会社日経2009/04/08
大阪駅―関空30分、7月にも「なにわ筋線」調査着手読売2009年4月14日
ここ2ヶ月の動きは下の通り。
- 新大阪〜北梅田駅は東海道線支線(梅田貨物線)と共有化。4000億円と見られた工費を1000億円ほど削減できる見通し(大阪市は同駅をなにわ筋線建設含みで2面4線対応で設計済)
- 3千億円規模とみられる建設費は、国、自治体、鉄道事業者が費用の3分の1ずつを負担
- 2010年度調査費の予算計上→後に2009年度の国の補正予算案に調査費を盛り込ませたい考え
- 4月17日に「関西復権に向けた今後の鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」。大阪府知事、大阪市長のほか、JR西日本や南海、関西国際空港会社、関西経済連合会などのトップ、近畿運輸局長が参加予定
と、JR西日本や南海も大喜び……かと思うのだけど、そうでもないらしい。朝日を後追いした産経の記事にこのようなコメがあった。
これを受けてJR西日本では、「慎重に判断する必要はあるが、関空へのアクセス機能強化や大阪市中心部を南北につなぐ都市鉄道として有益」とコメント。同社は「梅田北ヤード」開発工事に合わせて東海道線支線を地下化し新駅を設置する構想も具体化しており、この支線をなにわ筋線と共用すれば、事業費の圧縮にもつながるとの判断もあるとみられる。
また南海電鉄は「費用負担には限界がある」(同社IR広報部)と慎重な姿勢をみせながらも「これまで全く協議されていなかった現状を進展させるきっかけにはなる」としている。
地下鉄なにわ筋線整備へ 橋下知事と金子国交相会談産経、2009.2.21
「慎重に判断する必要」と「費用負担に限界」と口ぶりは重い。
1994年9月に開港してからは4ヶ月ほどは賑わった関空連絡特急。阪神大震災で見学ブームが去った後、バスに利用客を食われたり、関空が伸び悩んでいたりして、決して乗車率は良くない。混んでいるのは、朝に大阪から関空へ行く便と、朝ラッシュに日根野・泉佐野から天王寺・難波へ向かう便ぐらい。あとはガラガラだ。15年前の思惑と現状とはかなり食い違っている。
そして、なにわ筋線のインフラを建設する「鉄道事業者」の出資には、当然、JR西日本と南海も参加せざるを得ない。巨額の資金を負担できるだけの余裕があるのか。特に南海。
あと、南海としては、なにわ筋線・汐見橋経由で運行するとなると、大阪側のターミナルである難波駅を素通りすることになる。ただでさえ難波駅での乗換の面倒くささもあって近鉄や地下鉄からの乗換客は伸び悩んでいる。なのに、その節点が桜川駅になるのは……。これはかなりリスキーなことだと思う。さらに、汐見橋線の一部地下化とか、ヘロヘロになつている現在線の高速化とか何とか、余計な自己負担がかなり上乗せされてしまう。
JRとしても同様だ。
大阪駅の北側の貨物駅地下には「北梅田駅」(仮)が新設される予定。ここが大阪駅・梅田地区との節点になる。上で書いたように梅田貨物線の地下化の準備は始められている。でも、その場所は阪神梅田駅や阪急梅田駅、地下鉄梅田駅からはだいぶん離れている。JRの大阪駅とも連絡通路で結ばれるのかどうかすらも不明。梅田地区の北端だしビジネス需要もどうなんだうろ。そもそも北梅田ヤードの開発って先行き大丈夫なんだろうか……
いちおう、「梅田」と呼ばれる地域に拠点はできるが、あまり期待しすぎない方がいい。
それ以上に気になるのは、2009年4月14日の読売新聞の記事のタイトル。「大阪駅―関空30分」とある。これは大ウソだ。
現在、「はるか」は新大阪〜関西空港間約60kmを47〜71分で走り抜けている。最速で表定速度75km/hぐらい。ただ、朝のラッシュ時は阪和線でスピードが抑えられているので、なんと50km/h程度という鈍足で走行せざるを得ない。
なにわ筋線ができればどうなるか。JR難波経由になって若干距離は短くなる。新大阪〜天王寺間の正味の距離呈は11kmぐらい。
だと、新大阪〜関西空港間の距離呈は約57km。3キロほど短縮。……?? うん? これじゃあほとんど速くならないんじゃないの?
北梅田〜難波間は4km強、難波〜天王寺間は3.5km。あわせて8km弱。
新「はるか」の停車駅は、北梅田から先、中之島、堀江、JR難波、天王寺……。北梅田〜天王寺間で12分くらい。
ホントに「大阪駅―関空30分」なら、天王寺〜関西空港間46kmを18分で突っ走る計算になる。表定速度153.3km/h。JR在来線最速の特急が誕生だ。
そんなバカな。阪和線でそんなに飛ばせないよ。
途中駅をJR難波と天王寺だけに絞っても、北梅田〜天王寺間で10分。天王寺〜関西空港間で30分。40分ぐらいが限界か。いや、2005年春までのJRなら、余裕時間を絞って、無理矢理、北梅田〜関西空港間を39分で結んだだろう。これなら「30分台」と主張するのも可能だ。でも、尼崎の事故以降、天王寺駅や阪和線内でのダイヤにゆとりができたことを考えると、そこまで"期待"するというのも酷な話である。
とりあえず、現在、「はるか」は新大阪〜関西空港間を47分で結んでいる。なにわ筋線ができると、それが43〜44分ぐらいに短縮できるかもしれない。北梅田〜関西空港間で(仮に)39分。梅田〜西九条間の単線区間がなくなるのでダイヤに余裕は出来る。
で、これが関西空港の劇的な利便性向上に繋がるのか。地盤沈下していると言われている大阪経済復活の起爆剤となるのか。橋下知事の言うように「関西全体を強化するインフラ。将来世代のためになる。関西の宝になる鉄道」となるのか。
元大阪府民として言わせてもらうなら、大いに疑問だ。あればそれなりには便利なるのだろうが、必要不可欠とは思えない。3000億円の巨費を投ずるほどの案件ではない。あまり期待しすぎて、実際開業しても利用客はさして伸びず期待ハズレ……という十年後の姿がなんとなく見えてしまう。日本で一番未成線が好きな鉄道マニアとしてあえて言わせてもらうなら、頼むから、鉄道計画に過剰な夢を持たないでくれ……と何度でも繰り返し主張したいのだけど、それはまた別の話。<参考>
「なにわ筋線について語ってみるぞ。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」