婚活イベントが自治体主催で行われる目的と企画団体を調べてみた

katamachi2010-12-10

 先日、紅葉を見に京都市の東山を訪れた後、東山三条駅から市営地下鉄東西線に乗ろうとしたら、面白いポスターを見つけた。
 「京都婚活 2010〜京都恋物語 in 岡崎〜」というイベントが12月に開催されるのだという。
京都婚活2010〜京都恋物語in岡崎〜
http://www.miyakomesse.jp/events/2010/12/-2010-in.php

 京都市では,進行する少子化と,その要因としての未婚化,晩婚化への対応として,結婚を望む市民を対象に,出会い及び交流の場を設ける取組を新たに実施します。

 最近、いろんな自治体でこの手の婚活パーティーが開催されている。しかも主催に市役所や町役場が絡んでいるというのがポイント。
 こういうのは地方都市、どちらかという過疎地でやるものだと思っていた。京都みたいな大都市でもやるのか。少し驚いた。
 主催は京都市文化市民局共同参画社会推進部勤労福祉青少年課となっている。婚活と共同参画社会となんの関係があるのかよく分からないが、テキトーな担当部署がなかったのだろうか。
 あとから気付いたのだけど、地下鉄の駅や市の施設などあちこちでこのイベントのポスターとビラを見た。かなり大々的に宣伝しているらしい。京都市役所なんだから宣伝スペースもタダで大量に確保できるからだろう。
 説明文を見ていて、いろいろ疑問が生じた。

既婚者でも京都市外の住民でも参加できうるイベント

は、まあどうでもいい。当日、イベントがしらけた場合、「途中退場は認められません」というのは辛いなあと思うけど、そういう縛りは必要なのかもしれない。
 参加費用2000円は実費以下だと思う。200人のイベント、運営を仕切る役所の人の人件費とか、みやこめっせの会場費とかそれなりにかかるだろう。200人×2000円=40万円で経費が納まるとは思えない。
 気になったのは、

  • 申込時点で、身分証明書の提出が不必要
  • 独身であるのかどうかの証明書は当日も提出不要

という点。
 同種の民間サービスの場合、どうやっているのか知らないけど、なんとでも誤魔化して参加できそうだ。「勤務先の区」を書く項目はあるが、いくらでも嘘はつける。京都市在住でもないし、勤務もしていないし、既婚者である僕でも参加はできる。市役所が主催のイベントでそんなゆるゆるな規約でいいのかなあ、と思う。
 あと、京都市文化市民局共同参画社会推進部勤労福祉青少年課がやるイベントなのに、「職業」を書く項目があるのはどうなんだろう。役所的には、有職であろうが無職であろうがそこらを問うてはいけないのではないか。

自治体系婚活イベントは農村の嫁探しの形が変わったものなのか

 この手の嫁探しイベントって、80年代から北海道の自治体を中心に何度か実施されてきた。ムツゴロウ的北海道イメージを利用し、深刻な嫁不足を解消すべく都市部から若い女性を招き寄せようとした。うまくゴールインしたカップルがあったと大手新聞などの記事で見たことはある。確かに、道内を旅すると道産子夫+都会嫁カップルたちにたくさん会う。でも、嫁探しイベントで繋がったカップルはそんなにほとんどいない(うまくいくはずないよ)、と御本人さんたちに聞いたことがある。農村へ嫁に行くということはそんなに生易しいものではない。
 80年代後半以降、嫁探しのターゲットはフィリピンや中国となり、仲介業者を巡るトラブルや国際結婚の軋轢なども孕みながら現在に至る*1。大都市にいた頃はあまり意識しなかったが、地方に引っ越してみるとそういうカップルが意外に多いと言うことに驚かされる。楽しそうな雰囲気を見ていると、負の側面ばかり強調すべきではないのかなあとは思う。
 ただ、嫁不足に悩んでいるのは、農村部の青年たちだけではない。
 
 
 実は、昨年10月、自治体主催の婚活イベントに遭遇したことがある。
 かつて、北海道最深部にある陸別町を縦断する北海道ちほく高原鉄道という第三セクター鉄道があったのだけど、例の如く巨額の赤字に耐えきれず2006年に廃止された。2008年から陸別駅の跡地にあるレールを使って現役当時のディーゼルカーを走らせた。
夜行列車がなくなった北海道へ2年ぶりに行くゾ。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
北海道ちほく高原鉄道株式会社の清算と陸別町の「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
 そのとき、ちょうど「ふるさと銀河線りくべつ鉄道まつり」が開催されていて、「パワフル聖子のものまねショー」と共に、「婚カツ列車」なるイベントをやっているのを見た。僕が現地に着いたときはイベントが終わる直前。カップルらしい人たちは……見なかったような気がする。


 昨年の参加者は62人。今年も「http://www.tokachi.co.jp/news/201009/20100902-0006500.php」と9月に実施したらしい。
 婚活が話題となっている昨今、確かにマスコミにウケはする。自分たちがイベントを頑張っていることのアピールにも繋がる。カップルが成立した、とあるが、まあお遊び程度のものだろう。
 と思っていたが、実際、陸別駅跡にいた役場や商工会の人にきくと、かなり本気で取り組んでいるらしい。とりあえず嫁不足。なにはなくとも嫁不足。後継者難。青年すら地元に居着かない。それを解消するためになんとか、という気合いはヨソ者の僕にも通じた。

婚活イベントを企画・主催している組織っていったいどこなのか

 でも、これって自治体が税金を使ってやることかな……とは思う。
 で、家に帰ってから調べてみると、自治体主催の婚活イベントがなんと多いことか。本当に全国に存在する。値段はタダとか高くても3000円程度。スポーツ紙に載っている広告を見ていると、大都市の婚活イベントは1万円とかそれなりにするらしい。自治体主催だとかなり格安だ。
 そして、その手のイベント、自治体と共に主催者で名を連ねている団体に気付いた。
 「YEG」。
 これ、日本商工会議所青年部のことだ。

 商工会議所青年部は、次代の地域経済を担う後継者の相互研鑽の場として、また青年経済人として資質の向上と会員相互の交流を通じ、己の企業の発展と豊かな地域経済社会を築くことを目的として、各地の商工会議所に設置されている

http://yeg.jp/2008/history.phpにある。中小の商店や工場の跡継ぎとなる30・40歳代の青年たちが参加している全国組織のことだ。同じような組織だと麻生太郎が会頭だった青年会議所の方が有名だが、それの商工会版である。
 京都市の件もそうだ。京都市長の広報ページ「婚活事業などの協力提案をいただきました 京都商工会議所青年部YEG」を見ると、京都商工会議所青年部YEGが主体となっていたことが分かる。


 地域おこしイベントとかの協賛者としてよく名前を見るんで、婚活イベントなんかもその一環としてやっているのだろう。全国組織の方からアドバイスなんかがあるのだろうか。
 最初はそう思っていろんなイベントを調べてみたが、どこもかしこも商工会青年部が関与しているのを見ていると、ちょっと違和感を覚えた。
 で、見つけたサイトがここ。
各地で商工会議所主催の婚活イベントが盛況CHAMBER WEB

地元の活性化、後継者不足解消、少子化対策への大きな効果と期待を!
 近頃、各地で商工会議所が主催するいわゆる婚活イベントが盛り上がりを見せています。「瀬戸de恋招き2」「Candle Cafe(キャンドル カフェ)」「出会い処ときめき亭」「バーベキューパーティで素敵な出会い」などの名称で各商工会議所HPにて参加者を募集。参加者数は多いところでは200名以上集まる大規模なイベントに発展するところや、好評を得て順調に回数を重ねている商工会議所もあります。

 で、気になったのがこの箇所。

こうした婚活イベントを主催する商工会議所としては、地元の独身男女の出会い・結婚をサポートすることで、将来的に地元地域の活性化、地元事業者の後継者不足解消、少子化対策等への効果と期待を寄せています。

 やはり「地域活性化事業」とかそれらしい言葉で包まれているけど、実態は「地元事業者の後継者不足解消」なんだね。嫁探しか婿捜しかは分からないけど、農家で昔からやってきた都会からの嫁探しの商工会版ということが分かる。少子化などをお題目で打ち出すことで自治体も企画に巻き込んでいる。役所が前面に出た方が広報面でも費用面でも安心。参加も少しはしやすくなるとの計算もあるか。
 そして、商工会議所主催の婚活イベントのしきりをしているのは、コンサルタント会社。そもそも上の商工会の婚活イベントを紹介しているリンク先はコンサル会社のHPだ。「日本商工会議所は中小企業支援策としてCHAMBER WEBを推奨しています」って、ずぶずぶの関係なんだね。
 広島県三次市の婚活イベントhttp://m-yeg.jp/news/20101021222046/を見ると、婚活本で有名になった白河桃子の名前が出てくる。基調講演「婚活時代〜結婚したくてもできない男、結婚したくてもしない女」、シンポジウム「自分力を高めるためには…」 だってさ。
 ここ数年、「婚活」という言葉がことさら語られた背景に「婚活ビジネス市場」の拡張という目的があったのがよく分かる。

婚活イベントで少子化や未婚化・晩婚化を解消しようとする善意の暑苦しさ

 でも、さあ。地縁でがんじがらめになっている商工会のイベント。どこまで「効果」があるんだろう。この手のイベントが「進行する少子化と,その要因としての未婚化,晩婚化への対応として」有意義なんだろうか。
 少子化対策のためにも税収アップのためにも若い非婚者に結婚してもらわないと困る。最近の若い者は非モテとか草食系とかオタクとか恋愛に奥手なヤツばかりだし、ちょっと出会いの場でも設けてやろうか。オ前達ノ父母兄弟ハ独身ノ貴様ノ身ヲ案ジテ皆泣イテオルゾ
……という既婚経営者たちや自治体職員のお節介心があるのだろう。
 このイベント、「少子化・未婚化・晩婚化はダメなこと」→「彼ら彼女らのために出会いの場を提供しなければならない」という暑苦しい義務感と発想が根底にある。
 ある意味、「善意」ではあるのだろうが、商工会の青年たちの自己満足企画にすぎない。そもそも婚活イベントで相手を見つけれるようなタイプって、男女とも、それまでの知人紹介か合コンで何とかなっているだろうに。

婚活失格 (ぶんか社文庫)

婚活失格 (ぶんか社文庫)

 なぜ、少子化・未婚化・晩婚化という状況にあるのか。
 「早く結婚しろ」「嫁がいないと一人前じゃない」「30歳を超えて独身ってのは恥だ」「女は子供を産んでナンボ」というステロタイプの社会常識が揺らいだのも一因だろう。経済や国力維持という視点からするとマイナスと扱われてしまいがちだが、問答無用のプレッシャーが薄らいできた現状は決して悪いことばかりじゃない。なのに、「男女共同参画社会」の理念とは程遠い施策にカネを出して付き合う自治体が少なくないという現実。そちらの方にガッカリさせられる。
 ちなみに、京都市文化市民局共同参画社会推進部勤労福祉青少年課の件のイベント。
京都市主催の婚活パーティーに女性の応募殺到 「草食」男子の3倍超す」(産経2010.12.9)によると、

  • 8日午前までの応募者は、男性295人、女性969人
  • 「男性が消極的になる一方で積極的な女性が増えているのでは」

だってさ。余計なお世話、と心底思うのだけど、それはまた別の話。

*1:そういや、統一協●の合同結婚式には、韓国農村男性の嫁探し的な側面があった、と韓国の自治体職員から聞いたことがある