郵政民営化で消えゆく簡易郵便局。3年間で299局7%の減
今日は、たぶん5人ぐらいしか読者がいないネタです。
種村直樹御大によって鉄道趣味界に広まった「旅先での遊び方」の一つとして、"郵貯趣味""旅行貯金""郵便局巡り"というのがあります。Wikipediaだと、こことここ。
郵便局の窓口に郵便通帳を差し出し、いくらかのおカネ(100円とか)を預入すると、機械で必要事項が印字された後、「○▲郵便局」というスタンプが押されるのです。それを全国24,000局もあるという郵便局を一つ一つ回りながら集めていく……という酔狂な趣味が、この"郵貯趣味"です。
まあ、四国八十八箇所巡りでお寺を廻ったときにもらえる"朱印帳"なんかと同じことを狙っている訳です。昔は、朱インキの主務者印というスタンプももらえましたし。ただ、お寺や神社と違って御利益は全くなく、郵便局員にしても有り難いお客なのか、面倒な客なのか、微妙なところです。
そんな私も、19年前に深名線でいっしょになった旅行者に感化されて朱鞠内郵便局で初めて以来、現在までに2700局ほど廻りました。最初は鉄道の駅おりつぶし(駅めぐり、下車駅増殖)をしているついでに立ち寄っていたのですが、高校の鉄道研究部の知人でズブズブにハマった大バ▲者がいて、彼らとクルマで郵便局を訪問するようになってから飛躍的に数が伸びました。6500局まわったというメンバーの一人は、結婚式の披露宴会場に郵便ポストを持ち込んで会場内を唖然とさせたのですが、それはまた別の話。
過疎地の郵便貯金事業を支えてきた簡易郵便局の今
とりわけ、そんな郵貯趣味人を魅了してくれたのが、「簡易郵便局」というタイプの郵便局でした。
この簡易郵便局を運営しているのは旧郵政省からの職員でなく、自治体や農協、各種団体の職員、あるいは地元の名士などです。窓口に座っているのは、フツーのおじさんやおばさん(あるいは農協や漁協、役場などのお姉さん)。実際、民家やプレハブ小屋、農協や役場に間借りしているケースが多く、一目では郵便局とは分かりづらい。どちらかというと、ムラのたばこ屋さんやナンデモ屋さんみたいな雰囲気です。まあ、僕らの思っている郵便局とはかなり趣きは異なります。
普通の郵便局と比べると、文字通り、施設もシステムも簡易的ではありますが、経済的理由で普通の郵便局を置いてもらえなかった山間部や農村部の集落にとっては、地域の郵便・貯金需要を担ってきた重要な施設であったのも確かです。全国24,000の郵便局の2割弱が簡易郵便局になっています。
初老の方、あるいは他に仕事を持っておられる方が兼業して委託事務を引き受けているのですが、覚えなければならないルールや作業がたくさんあって、いろいろ大変ならしいんです。特に機械操作とか書類造りとか。現地で郵便貯金をお願いしても、「通帳の更新ってやりかた忘れたから本局でやって」とか「ごめんなさい、定額貯金って知らないんです」とか「私、近所からお手伝いに来ているんで、今日は貯金の作業はできないことになっています」とか「ちょっと忙しいから1時間後に来て!」とかなんとか、おいおいと思わせるようなケースにも遭遇してきましたが、そうした泥臭さが旅行貯金をしている人間にとっての魅力になっていたのも確かです。
でも、そんな簡易郵便局に淘汰の波が押し寄せています。
営業している簡易郵便局は3年間で299局7%の減
さて、例のドタバタで郵政事業の民営化が決まり、日本郵政公社は郵便局株式会社その他の会社へ移行していくようです。その是非は問いませんが、それによってわれわれ趣味人も困惑しているんです。エライ人たちは「過疎地の郵便局は減らしません」とここなんかで力説していますが、すでに過疎地の郵便事業の担い手だった簡易郵便局の数は少なくなっている。郵政公社のHPの統計データで調べてみると、以下のようになります。
- 全国の簡易郵便局、ここ3年の推移
年末 | 簡易郵便局数 | 営業している簡易郵便局数 |
---|---|---|
2003.12末 | 4490局 | 4383局 |
2004.12末 | 4446局 | 4303局 |
2005.12末 | 4447局 | 4213局 |
2006.12末 | 4388局 | 4089局 |
3年間の減少数 | −102局 | −299局 |
ここ3年間で簡易郵便局は102局しか減っていません。わすが2%の減。この数字は意外に少なく思えますし、だから目立たないのかもしれません。
ただ、実際に「営業している簡易郵便局数」、すなわち"簡易郵便局数"から"一時閉鎖している簡易郵便局数"を引いた数で比べると3年で299局の減。割合で言うと7%減になります。マスコミは「簡易郵便局数」の減少にしか目は行かないようですが、実際「営業している簡易郵便局数」はもっと少なくなっている。今年1月から2月22日までの改廃状況を見ると、全国で50局が一時閉鎖(13局が再開)、5局が廃止となっています。2ヶ月で42局の減。さらに年度末、そして2007年9月の民営化に向けてもっと増えるのでしょうか。
この「一時閉鎖」という処置が曲者なんです。かつては局長の高齢化などで業務を続けることができず、後継者が見つかるまで一時お休みするという意味合いが強かったのですが、これが2005年ぐらいから激増している。その一方で、営業を再開する(後継者が見つかった)簡易郵便局が極めて少ないので、公式発表として表に出ている数字以上に稼働している局の数は減っているんです。
マスコミでも全国的に郵便局の数が減っている旨は報道されていますが、それは地域の拠点となる郵便局が集配を取りやめるのはケシカランという類のモノばかりです。先の衆院選などでも話題になった過疎地の郵便局、そしてその象徴である簡易郵便局については全く触れられていない。
- 2005・2006年に廃止された簡易郵便局の数(2007.2.22までに掲載分も含む)
支社名 | "廃止" | "一時閉鎖" | "再開" |
---|---|---|---|
北海道支社 | 17局 | 27局 | 9局 |
東北支社 | 8局 | 55局 | 23局 |
関東支社 | 6局 | 20局 | 6局 |
南関東支社 | 5局 | 10局 | 1局 |
東京支社 | 0局 | 0局 | 0局 |
信越支社 | 17局 | 44局 | 6局 |
北陸支社 | 0局 | 34局 | 5局 |
東海支社 | 0局 | 49局 | 13局 |
近畿支社 | 18局 | 24局 | 13局 |
中国支社 | 0局 | 39局 | 14局 |
四国支社 | 0局 | 39局 | 14局 |
九州支社 | 0局 | 44局 | 27局 |
沖縄支社 | 0局 | 2局 | 0局 |
全国計 | 72局 | 387局 | 131局 |
今度は地区別にまとめてみました。2005年と2006年の廃止分に、昨日(2007.2.22)までにHPで掲載されている分も含めました。全国的には2年間+2ヶ月の廃止は72局。一時閉鎖が387局で再開が131局。差し引き328局の減。やっぱり営業している簡易郵便局は減っているんですね。
わざわざ郵政公社の中央や各支社が簡易郵便局の整理統合に乗り出さなくても、勝手に自然減しているんです。
簡易郵便局を止めてしまう理由
さて、北海道留寿都村に登簡易郵便局(一時閉鎖中)という簡易郵便局がありました。「ほうぼう」という"旅人宿"というか"とほ宿"(北海道のペンション風民宿)の宿主がやっていた郵便局で、以前、「とほ」という雑誌で「簡易郵便局は歩合制です。お客さんが来ないとなくなっちゃうかもしれません」という広告を出し、僕ら郵貯趣味人の間で密かに話題となっていました。ところが、昨秋、一時閉鎖してしまった。
受託者のコメントがここにあるのですが、その理由として「郵政民営化に伴う契約形態の変更で、開設者である留寿都村が郵政公社との契約を解除するためです。」と言う点を掲げています。むかしは郵政省→留寿都村→この人......と業務が委託されていたのでしょうが、民営化に際してその関係が見直されようとしている。
簡易郵便局の一時閉鎖が相次いでいる背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 郵政民営化に対する何とも言えぬ不安
- 業務を受託している自らの高齢化、そして後継者難
- 周辺エリアの過疎化と高齢化、他金融機関進出、タンス預金増などによる郵便貯金額の減少、売上げ減
- 民営化以降に際し、新しい業務内容を覚える必要がある。平日の業務以外に土日に研究会や勉強会に参加せねばならない。
- 民営化にあわせて新規に投資している金銭的余裕がない
なんていうのが、ここ数ヶ月、各地の簡易郵便局を訪れた際の受託者たちの嘆きでした。さっき、郵便局の開局情報というところに行ったら、先日、訪れた簡易郵便局が一時閉鎖扱いになっていました。もう継続するのは断念したよ......とボヤキながらも、地域集落の憩いの場だった頃の郵便局の思い出を僕たちに語ってくれていました。でも、やはり存続はできなかったんですね。地元では後継に手を挙げる人が誰もいない(それ以前に60歳以下の若い人が誰もいない)と言っていました。どこの地域でも、どの産業でも抱えている悩みですね。
そういや、今日、無罪判決が出た鹿児島の県議選買収事件で被告とされたうちの一人は、鹿児島の志布志市志布志町にある簡易郵便局の局長さんでした。77歳で郵便局業務って大変そう。それについても何か語ろうとしたのですが、それはまた別の話。
「元県議ら12被告、全員無罪=「自白は不自然」−03年選挙買収事件」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070223-00000040-jij-soci
「<鹿児島県議選買収事件>12人全員に地裁が無罪判決」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070223-00000040-mai-soci
追記
嗚呼、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が同じネタを2日前にやっていた。一週間前から仕込んできたのに、ちょいとガッカリ。
簡易郵便局閉鎖 310局 吉井議員 サービス水準維持せよ
日本共産党の吉井英勝議員は二十日の衆院予算委員会で、郵政民営化(十月一日)にむけて、現金自動預払機(ATM)の撤去や過疎地などの簡易郵便局の閉鎖が拡大していることを告発しました。この地方切り捨てが地域間格差を拡大することなどをあげ、「郵政公社法施行の際に存するネットワーク水準を維持する」と定めた公社法を守らせるよう迫りました。
郵政公社発足後に減らされた郵便局は百二十一局、銀行がない過疎地などで貯金や保険サービスを提供する簡易郵便局は、一時閉鎖という名で三百十局がサービスを停止していますhttp://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-02-21/2007022101_04_0.html 2007年2月21日(水)「しんぶん赤旗」
郵政民営化前にサービス切り捨てATM738台撤去計画、簡易局500閉鎖の恐れも
二千五百六十四台の局外ATMのうち撤去の対象になっているのは約三割の七百三十八台。そのうち六百二十四台についてはすでに設置先と「合意」したとして、病院や学校などをふくむATMの撤去が始まっています。
(中略)
また、全国に約四千四百ある簡易郵便局についても、一時閉鎖が二〇〇三年三月末の七十一局から、〇六年十二月末には二百九十九局に急増。さらに約二百局の簡易郵便局長が委託契約を解約・保留の意向を公社に示しており、最大であわせて五百局が閉鎖される危険があります。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-01-19/2007011901_01_0.html 2007年1月19日(金)「しんぶん赤旗」