黒部峡谷鉄道の秘境駅"黒薙駅"を訪ねる白人旅行者

katamachi2007-08-11

 ここ数日の猛暑から逃れてみたい……と富山県宇奈月温泉から出ているトロッコ鉄道、黒部峡谷鉄道に乗ってきました。でも、太陽の日差しというのは平地でも山中でも変わらないといえば変わらないわけで、うだるような暑さにヘトヘトとなった今日一日でした。
 目的の一つに、途中の鐘釣駅近くにある鐘釣温泉に行くということを考えていたんで、途中下車して川沿いにある露天風呂に入ってみたのはいいんですが、まったく落ち着けませんでした。列車が到着するたびにツアー客が3〜4組、総勢100人ぐらいが露天風呂のある川べりに押しかけてきて、岩盤風呂に浸かっている私達をジロジロと見下ろしていく。あれっ、16年前に来た時はもっとイイ感じのお風呂だったのに……って、お盆のハイピーク時なんだから仕方がないかあ。
 驚いたのは、あちこちで朝鮮語や中国語が聞こえてくるということ。13両編成の1両か2両は海外からの団体さんでした。時期によっては、韓国からの団体さんが一日の全乗客の3分の1を占める日もあるとか。そのおかげで、バブル以後、減りつつあった利用者が最近は横ばい状態にまで回復してきているとか。近年、立山黒部アルペンルートにはアジア系の方たちが増えているとは聞いていましたがそこまでになっているとは……
 帰りは、日本有数の秘境駅ともいえる黒薙駅で下車しました。

 黒部峡谷鉄道の途中駅で旅客扱いしているのは鐘釣と黒薙の2駅だけ。このうち、鐘釣駅の方は団体ツアーの下車スポットとして、今では欅平駅以上の賑わいを見せています。旅行会社がコスト削減とで欅平まで行かなくなったとかいう裏事情もあるのですがそれはまた別の話。
 一方、黒薙駅のほうは、ホームが一面あるだけの小さな駅です。両脇が渓谷で挟まれており登山道などで他所へ行くことも出来ず、山脈を刻み付けるようにして広がる谷の裾には、小さな駅と温泉宿が一つあるだけ。それこそ昭和のはじめに観光客を乗せるようになったからこの方ほとんど手付かずの状態になっています。満員の乗客を乗せた列車が行ってしまうと、ただただセミの声だけが広がる静寂が辺りを支配していきます。あの騒々しいツアー客がいなくなったから特にそう感じたのかもしれませんが。
 まあ、秘境駅度合いなら小幌とか押角とか奥大井湖上駅とかと同レベルの駅だと思いますが、旅客の安全も考慮して、駅員さんが一人配置されているんですね。この鉄道の最近の状況とか観光客の傾向とか聞いた後、
「個人のお客さんなんかがリピートで来ていただいている方は多いんですけど、ちょっと知名度では鐘釣とか欅平より落ちるんですよ。素敵な景色と温泉があるところなんで是非来て欲しいんですけどね。最近は外国の方も来られるし……」
「へえ、韓国や台湾の方もここに来られるんですか凄いですよね」
「違いますよ。白人さんの方ですよ」
 えっ、日本の鉄道駅でも超ど級の秘境駅である黒薙駅にやってくるユーロピアンがいるんだ……凄いなあ。英語しか喋ってくれず、最初は正直なところかなり困っていたそうなんですが、今ではそれなりに慣れてきましたよ……という話でした。
 さすがに来るのは年に1人とかそれぐらいだそうなんですが、日本語が喋れないにもかかわらずガイドブック片手にわざわざここを指名して降りて来るんだとか。
 ああ、たぶんロンプラこと「ロンリープラネット」の日本のやつに黒部峡谷鉄道、そして黒薙駅が載っているんでしょう。この本、世界中のバックパッカー御用達となっているガイドブックなんですが、凄いなあ、こんな超穴場まで紹介されているのか……

Lonely Planet Japan

Lonely Planet Japan

 私もアフリカやアジア、東欧の僻地に行く時はしばしば使っているんで、このガイドを取材している連中の凄さは理解しているつもりなんですが、しかしなぜに黒薙駅なんか超穴場のスポットを見つけて、紹介しようと思ったんだろう。確かに個人旅行をしているパッカーの感性からすると、ツアー客だらけのアルペンルート欅平駅より、絶対、黒薙駅みたいな雰囲気の方が喜ばれるはずなんですが……
 このガイド、宿泊地に西成や山谷の安ホテル街を紹介したり、北海道や沖縄の離党も網羅していたり、日本の甘っちょろいガイドブックなんて比べ物にならないほどのクオリティーなんです。うちにも一冊あるんで、一度、これを片手に日本を回ってみたいなあと思ったりもしたのですがそれはまた別の話。