全国のローカル鉄道89社のワースト偏差値ランキング

katamachi2007-09-11

 秋になって来年度予算編成に向けて政府や自治体が動き出している昨今、ローカル鉄道や鉄道新線建設を巡る情勢も大きく動きつつあります。各自治体が財政再建補助金カットに本格的に乗り出したとなると存続がキツくなる鉄道は今後も増えてきそうですね。

福井鉄道秋田内陸縦貫鉄道いすみ鉄道での存廃に関する議論

 鉄道事業の再建策を検討してきた福井鉄道は、多額の累積債務と金利負担が経営を圧迫し、事業者単独での立て直しが難しくなっていることが6日までに関係者の話で分かった。
福鉄福武線 自主再建は困難 県などに本格支援要請へ福井新聞、2007年9月7日

 まず、福井鉄道福武線id:Cat-Tramさんが整理されたhttp://d.hatena.ne.jp/Cat-Tram/20070908の記事を見ていると、なんだかややこしいことになっているようです。この週末、僕も、越前そばを食べ歩くため福井に行っていたので当該新聞記事を見ましたが、この件のカギとなるのは「存続のための抜本的な経営支援」というところなのでしょうか。ここらは役所の補助を受けるための議論を引き出すための仕掛けなのかな......とも思いましたが、どんなんでしょう。

 秋田内陸縦貫鉄道も、やっぱりヤバいようです。

 赤字経営が続く秋田内陸縦貫鉄道北秋田市、通称・秋田内陸線)について、寺田典城秋田県知事は10日の県議会9月定例会本会議で、「鉄道を現状のまま続けることは難しい」と語り、運行区間の縮小などを検討する方針を明らかにした
秋田内陸線「現状維持は困難」 知事方針河北新報、2007年9月11日

 記事の文章にまとまりがないので分かりづらいですが要約すると、

  • これまでの改善の成果が見られない。県としては財政支援を行う余裕がない
  • 「必ずしも存続か廃止かの二者択一ではなく、何らかの方向転換の可能性も含め検討している」
  • 運行区間の縮小やダイヤの大幅な見直しなど、鉄道の一部存続に向けた検討
  • 1年以内に方針を決める
  • ただし、「検討の結果、廃止することもある」(建設交通政策課)と話している。

ということらしい。2008年度には何らかの動きがあるということでしょうか。
 続いて、千葉県にある、いすみ鉄道

 1988年の開業以来、経常赤字が続いている第三セクターいすみ鉄道が存続の是非をめぐり、揺れている。筆頭株主の県は存続の条件として鉄道会社の一段の経営努力を求め、そのためにも地元自治体の一体となった取り組みが欠かせないという立場だ。一方、地元には、高校の通学や観光振興のために存続を望む自治体もあれば、新たな財政負担へ警戒を示すところもあり、一枚岩ではない。
(中略)
 県はインフラ整備を切り離した経営で、黒字化の見通しがつけば存続に踏み切る見通しだ。関係4市町を交えた再生会議の最終報告は10月中旬にも出される。
いすみ鉄道 存廃に温度差 県と自治体朝日新聞、2007年09月04日

 この記事をまとめると、

  • 8月を目処としていた最終報告を出す時期が10月に延期(もともと3月のハズだった)
  • いすみ市長は、「財政負担の6割を県が持つべきだ」と強調
  • 勝浦市長は冷淡な姿勢
  • 千葉県知事は「もっと工夫をしていくことが大事だ」と地元の奮起を促す発言を繰り返した

というところでしょうか。興味深いのは、大多喜町の町長が「普段は鉄道を使わないが、1年前から半年で10万円の定期券を自己負担で買う」という箇所。これを美談や熱意と捉えていいのかどうか。やや迷うところです。かつてローカル鉄道を抱える自治体へ取材に行ったことが何度かありましたが、肝心の関係自治体の役人さんたちですら、みんな鉄道を使っていないんですよね。
 で、関連する千葉県ホームページの「いすみ鉄道再生会議」を閲覧していると、1 いすみ鉄道の現状についてという項目があり、「地方鉄道89社との比較」という項目で、

  • 職員1人当り輸送人員 16.6千人 全国74位
  • 職員1人当り運輸収入 3,408.0千円 全国80位

とありました。へーえ、いすみ鉄道って全国で下位ランクに位置するのか……と思って、その参考文献はなんぞや...と、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構「地方鉄道の活性化に向けて」という文書を見たのですが……いやあ、この鉄道・運輸機構の調査報告。凄すぎます。なんせ全国ローカル鉄道89社の偏差値まで載っているのだから。

全国のローカル鉄道89社のワースト偏差値ランキング

 この文書は2006年7月に鉄道・運輸機構鉄道助成部の手でまとめられた「地方鉄道の活性化に向けて〜 地域の議論のために〜 」です。「各地域で行われている地方鉄道に関する活性化等の議論に対して、情報提供による地域の判断の支援を行うため」の基礎データと事例紹介について80ページに渡って報告されています。この手のお役所文書にしては読みやすく書かれています。pdfなので読みにくい環境の人もいるでしょうが、ローカル鉄道問題について興味がある方にはぜひオススメしたい文献です。こーゆーのが手軽に入手できるっていうのは有り難いですね。
http://www.jrtt.go.jp/news/pressrelease/data/pressh18.7.6.pdf
 そこの事例紹介なんかも興味深いのですが今回は割愛。巻末資料を見てみたいと思います。
 第4章には「地域の地方鉄道の現状」として、全国のローカル鉄道89社の現状を示すデータが一覧表として記載されています。財務指標や輸送実績指標、営業努力指標、コスト低減化指標、社会的影響指標などなど。鉄道統計年報などに記載されている基礎データを加工して全国での当該鉄道の位置づけが一目瞭然に分かるようになっているんですね。さらに凄い、いや怖ろしいのは、それぞれの指標に全国での"偏差値"が付けられていること。うわあ、これは偏差値教育の典型とも言える役所の人間にはたまらない指数です。
 鉄道建設・運輸施設整備支援機構がこの資料をまとめたのは、これまでの全国一律の補助制度を見直し、経営が難しい状況にあってもやる気のある鉄道会社(と自治体)とそうではないところを選別しようという動きなのでしょう。今年11月に施行される「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」を睨んだ準備をしている国土交通省と連動していると考えれば分かりやすい。
 で、以下にそのワーストランクに位置する鉄道をピックアップしてみました。"財務諸表偏差値"が"45"未満の23社です。

順位 会社名 財務諸表偏差値 営業努力偏差値 備考
1 阿佐海岸鉄道 26.4 36.4  
2 三木鉄道 29.2 38.2 08年廃止
3 紀州鉄道 30.2 37.5 親会社が……
4 北海道ちほく高原鉄道 31.7 37.8 06年廃止
5 秋田内陸縦貫鉄道 32.2 39.4 廃止論議
6 いすみ鉄道 32.7 40.3 10月に報告
7 由利高原鉄道 33.9 39.7  
8 くりはら田園鉄道 38.2 38.2 07年廃止
9 神岡鉄道 40.0 35.6 06年廃止
  十和田観光電鉄 40.0 45.3 地元と協議
11 一畑電気鉄道 41.0 49.7 地元と協議
12 わたらせ渓谷鉄道 41.4 41.0 地元と協議
  長良川鉄道 41.4 42.8 地元と協議
14 井原鉄道 41.8 45.5  
15 山形鉄道 42.5 103.9  
16 大井川鉄道 42.6 42.9 SLも大変か
17 のと鉄道 43.1 44.7 05年部分廃止
18 銚子電気鉄道 43.8 42.8 06年濡れ煎餅
19 上毛電気鉄道 44.1 45.3  
20 若桜鉄道 44.4 44.6 地元と協議
21 北近畿タンゴ鉄道 44.7 48.6 過剰投資の典型
22 三岐鉄道 44.9 42.1 貨物あるからOK?
  会津鉄道 44.9 47.4 地元と協議

※参考はhttp://www.jrtt.go.jp/news/pressrelease/data/pressh18.7.6.pdfのp.60以降
※財務諸表=「営業収益(償却あり)/費用」(2003年度)
※営業努力=「運輸収入(旅客)/職員1人あたり」(2003年度)
山形鉄道の「営業努力偏差値」は原典の誤記?

 と、並べていくと蒼々たるメンバーが名を連ねているのが分かります。

というのが注目すべき点でしょうか。以前も書いたように、威勢の良かった80年代に後先考えずに存続した第三セクター鉄道が大変だというのはよく分かります。
 この他にも最近廃止された、決まった、議論されている路線としては、

があるのですが(桃花台新交通と大手は未記載)、上でリストアップしたのはそれよりも偏差値が低い鉄道なんですよね。自治体の支援がなければ存続できるかどうか危ういところばかり。
 個人的に一番ナゾなのは、堂々のランキングトップに位置している阿佐海岸鉄道です。

 でも、4年前の日経でちらっと廃止を検討している旨の記事が出た以外には続報はありません。徳島県ホームページでは経営方針再構築(経営方針の再検討を行う団体)する団体として挙げられいますが、逆に言うと「将来的に廃止・統合を検討する団体」には分類されていないので、今後もしばらくは安泰……ということなのでしょうか。距離が短いから赤字額も少ないし、徳島県高知県に分かれているから責任の所在も曖昧だし、さほど存続問題が話題になっていないんでしょう。
 まあ、1人の鉄道マニアとして、こうしたローカル鉄道が存続して欲しいのは山々なんですが、存廃を決めるのは各三セク会社の出資者である地元自治体です。必要だと思えば補助金を注ぎ込めばいいし、そうでなければ廃止するしかない。欧州みたいに福祉目的だと割り切って存続するという方法もありますが、そうした決断をする勇気も資力もない。なかなか難しいところです。「鉄道の存続を目指すか否か。住民と自治体の意識が問われている」って新聞の慣用表現みたいな突き放した言い方しかできません。これは自分みたいなヨソ者が口出しする事柄ではありませんから。
 個人的には、大井川鉄道三岐鉄道のようにワーストランキングに名を連ねながらも独力で活動している純民営鉄道の方にシンパシーを感じます。ある程度は沿線自治体からの補助金を受けながら、ぜひ存続に向けて頑張っていって欲しいのですが、それはまた別の話。<参考>「2007-02-06ここ17年間で廃止された鉄道、42路線のリストを見てウンザリしてみる