不発に終わりそうな「第三次鉄道趣味ブーム」とその課題

katamachi2007-12-21

 月並みだけど2007年の鉄道事情について回顧してみようと思う。となるとやはり"鉄道ブーム"について触れないといけないだろう。
 なんでも、今年は、空前の"鉄道ブーム"とかいうのがやってきていたらしい。読売新聞のホームページが「本当に『来ている』」鉄道ブーム」と伝えている。朝日新聞小説新潮NHK、光文社……とにかく様々なテレビ・ネット・月刊誌など各種メディアで、"鉄道ブーム"が到来したことが取り上げられていた。
 こうした、2003年頃から始まった「第三次鉄道趣味ブーム」(その時期区分は末尾)の時期に起きた象徴的な現象をいくつか拾い上げてみると、

ということになろうか。

本来は「特急田中3号」でブームは最高潮に達するはずだった

 その総仕上げとも言えたのが今年2007年である。
 TBS系ドラマ「特急田中3号」の放映が4月から始まり、それにあわせてメジャーマスコミが雨あられのように鉄道情報、正確に言うと「鉄道趣味が来ている」と伝え始めた。本屋に行くと目立つところに鉄道コーナーが設けられていた。
 ところが、実際には、関係者が期待していたほどの"鉄道ブーム"はこなかった。ドラマは関東地区の平均視聴率が9%を下回る。同じ時間枠で前期に放送された「花より男子2」が同期視聴率ナンバーワンだったのと比べれば惨敗である。「鉄子の旅」はテレビアニメ化されたが放送されたのはCS放送枠。作品の作画・演出共に褒められた出来ではなく広範囲な支持を得るまでには至らなかった。
 鉄道関連本も同様である。ブームを見越して凄い数の鉄道入門書が刊行されたお陰で、関連本の出版点数は確実に増えている。特に、ライトな層向けの読みやすい書籍の出版が相次ぎ、一見すれば隆盛していたようにも見える。だが、現在の出版界でヒットの境界線である1万部を越えた本はどれぐらい出たのか。比較的書店で平積みされていてよく売れていた酒井順子「女子と鉄道」(光文社)でも累積で1.5万部だったという。新書や文庫でもどうだったのだろう。グッズ販売にもいろんな会社が参入してきたが、完全に供給過多&限定品スパイラルに陥っている。20年前のオレンジカードや記念切符と同じ状態になったとも言える。
 ホントに"第三次鉄道趣味ブーム"という現象が存在しているのか。"ブーム"と言われるけど、鉄道系の本やグッズの点数が多くなっただけではないのか。盛り上がっているのは業界関係者と、鉄道趣味がメディアに露出したことを喜んでいる一部の人たちだけじゃないの。なんて、永年、鉄道マニアをやってきた自分のような口さがない人間には、冷ややかな言い方しかできない。
 そこで気になるのが、なぜ「第三次鉄道趣味ブーム」という気分が醸成にされていったのだろうか。もちろん様々な外的要因や社会の変化も考えられるが、そこらを語り始めるとややこしくなるので、鉄道趣味の生産者と消費者に限って話を展開していこうと思う。


 と書いていたら、もう時間切れ。近所のスーパーが閉まる前に晩飯を買いに行かねばならない。とりあえず年内に後編を続けたいなあ……と思います。
 キーワードとなるのは、「鉄道趣味の細分化と淡泊化、高齢化による行き詰まり感」、「送り手側の中心は第二次鉄道趣味ブームを経た鉄分の薄い業界関係者」、「語られる言葉と内容は以前のブームの時と変わらない」の三点。一言で語るならば、「むかしの入門書を焼き直ししたり、お手軽な旅行日記で点数を増やしているだけでは早晩ブームは終わってしまいますよ」というところ。では、その先をどうやって見つけていくのかを考えていきたい。えっ、それって、筒井康隆が1974年に語った「(SFの)浸透と拡散」という言葉、そして90年代に宮崎事件やエヴァ騒動を巡って交わされたオタクたちの論説とたいして違いはないんじゃないの……と言われると困るのですが、それはまた別の話。

続きはポスト"鉄道ブーム"を模索し続けた90年代以降の鉄道マニアたち
鉄道趣味ブームの変遷とその特徴

時期区分 年代 ブームの中核 中核世代
第一次鉄道趣味ブーム 1967〜1975年 蒸気機関車 40・50年代生まれ
第二次鉄道趣味ブーム 1978〜1982年 ブルトレ・特急、コロタンNゲージ 小中高生
  1978〜1988年 ローカル線・旧国、宮脇・種村・RJ 60年代生まれ
中間期 90年代 ジャンルの分散、国鉄型、川島・RM 70年代生まれ
第三次鉄道趣味ブーム 2003〜?年 メディアとの複合、ネット 80年代生まれ


<参考>
2007-06-21国鉄分割民営化の時の鉄道マニアを想う
2006-09-24種村直樹が歴史的使命を終える瞬間を見てしまった
2007-03-13鉄道マニアが求める"世界観"。そして物語の不在
2006-12-26「鉄道に魅せられた旅人 宮脇俊三」(別冊太陽編集部)を斜めに読みました。
2007-06-01"ポストのりつぶし"を模索した鉄道旅行派マニアたちの動機。