鉄道会社公認グッズに群がる鉄道マニアの気持ち。

katamachi2009-04-11

 昨秋、日経で「電子コミック急伸、メイド喫茶は縮小 07年度の「オタク」市場」という記事が目についた。矢野経済研究所が2007年度の「『オタク市場』に関する調査」を出したという記事だ。この手の調査、野村総研も含めて、ときどき思いついたように実施しているのだけど、毎年、持続的にされているのではなかったりするので、なかなか経年での変化を読み取りにくい。
 で、元データは、ここ。
オタク市場徹底研究(2007年発行、2006年度のもの)
2008 オタク市場徹底研究(2007年度のもの)
 ああ、2年分しかないのか……。これだけでは業界の動向についてコメントしにくいなあ。しかも一冊、105,000円。コンサルが作った報告書ってまあどこでもこれぐらいはするのだけど、ううう、高い。どこかの図書館が買ってくれないかな。
 いろいろ語りたいこともあるけど、とりあえず僕の本籍地は"鉄道"なんで、そこらのことについて。

鉄道模型の2007年度の市場規模は前年比5.6%増の152億円

 itmedia「オタク市場」 メイド喫茶は縮小、電子コミック・同人誌など成長という記事には数字まで記載されていて、鉄道模型に関しては、

 団塊世代のコアユーザー化や鉄道ブームが後押しした鉄道模型は5.6%増の152億円だった。(中略)鉄道模型は中高年層に偏りがちなため、新規ユーザーの獲得と定着が課題としている。

とある。
 矢野経済研究所の報告書を見ると、「鉄道模型(鉄道玩具、鉄道グッズ)事業概要」として以下の会社が取り上げられ、その業績概況も付け加えられている。

  • ジェイアール東海エージェンシー(総売上高における鉄道グッズ販売のウェイトは低い)
  • 関水金属(2007年度は鉄道ブームにより増収模様)
  • トミーテック(鉄道人気の高まりにより、増収傾向)
  • 日本車輌製造(総売上高における鉄道グッズ販売のウェイトは低い)
  • マイクロエース(再生産が少ないため限定品としての付加価値)

 鉄道模型でKATO、トミー、マイクロ、グッズでJR東海エージェンシー・日車を取り上げるのは妥当な所か。鉄道界のGMこと、グリーンマックスが外れているのは致し方ないところか。
 でも、前年の報告書で分析対象とされたカテゴリーは、トミーテック関水金属、カツミ、東京マルイタカラトミーバンダイ。うん? 会社名が2007年度のと違うんだけど、統計的信頼性は大丈夫なんだろうか。
 この鉄道模型の業界。80年代前半の第二次鉄道ブームが一段落ついた後、確実に購入者のパイが小さくなっていった。マーケットの趣向にあわせて製品の質は飛躍的によくなってきたが、「市場の縮小→購入者の年齢層が上がる→価格の高騰→新規ユーザーの確保難」と伸び悩み続けてきた。それがマイクロエースという新参者が2000年頃から精力的に新製品を出して、いろんな意味で市場が活性化してきた。
 2007年度に「鉄道模型は5.6%増」というのが意外と言えば意外。数年前ぐらいがピークで、最近は落ちていると感じていた。僕の勘違いだったんだろうな。今までこういう数字はなかなか出てこなかったし、印象だけで想像するのはダメだ。NHKの教育番組で取り上げられたあたりから、再び市場が動き出したのかもしれない。知り合いの団塊の世代なんかもそうだ。上の記事で指摘されているように、トミーの「ジオラマコレクション」を中心とした「トミーテック ニューホビー」戦略が功を奏しているのかなあという印象はある。講談社の「週刊 昭和の鉄道模型をつくる」もそれなりに話題になっている。
 でも、

  • 鉄道模型は中高年層に偏りがちなため、新規ユーザーの獲得と定着が課題

なのか。ここ20年来の永年の課題なんだけど、10歳、20歳代の若年層をうまく取り込めていないというのは、「オタク産業」として痛い。バンダイのBトレインショーティー、トミーの鉄コレなど、500円〜1000円程度で買える製品も増えてきているし、そこからのマーケットの拡大に期待大、というところか。ここらの購入層が実際には何歳ぐらいの世代なのか。きちんとしたデータを見てみたいとは思う。
 コメが面白いのはマイクロ。「再生産が少ないため限定品としての付加価値」って、あれは会社が目指す"事業戦略"だったのか。「利尻」とか「北アルプス」とか、確かに瞬殺された製品は少なくない。再生産されないから、ヤフオクや中古屋で定価5割増とかになっているものも。でも、これで潤っているのって発売日に買い占めをしている人たちだよね。一方で、不良在庫となって決算期で半額程度で叩き売りされているのも同程度はある。ここ数年、新製品を発売する間隔が間延びしているようだけど、大丈夫なのかなあ。個人的には、20年来の悲願だった「くろびるが動く!キロ59「フェスタ」登場時」を買えたんで、今後、しばらくはどうでもいいんですが*1

鉄道グッズって90年代はまだまだあまり注目を浴びていなかったような……

 そして、気になるのは鉄道グッズを出している2社。いずれも「総売上高における鉄道グッズ販売のウェイトは低い」としている。ジェイアール東海エージェンシーや日本車輌の売上高でグッズの販売なんて微々たるものだろう。
 確かに、ここ数年、鉄道会社が自社に関連したグッズを積極的に出すようになってきている。
 それまでも「鉄道グッズ」というのは、鉄道模型以外にもいろいろ知らないメーカーから出ていた。量販店型の鉄道模型店(大阪だとジョーシンのキッズランド)や鉄道系の取扱の多い書店(書泉グランデ旭屋書店本店)へ行けば、その手のグッズを並べているスペースがたくさんあった。ただ、デザイン的なものはさることながら、あまり注目を浴びなかったのも事実。
 一方、大昔から記念切符というものが存在していた。1984年からはオレンジカード、続いて私鉄各社のプリペイドカードの販売も行われている。一時期、こうしたものに趣味人の興味が集中したこともあった。1970年頃からの切手ブームが飛び火して、記念切符やテレカ、オレカへと波及していた。特にアイドル物は一時期暴騰していた。投機の対象にもなっていた。ただ、記念切符は80年代半ば頃、オレカも90年代半ばには値段は下がっていく。国鉄時代のオレカ(1000円)でも、有名な柄じゃなくても3000円とか5000円とかしていたのが、一時期1100円ぐらいに暴落していた。斉藤由貴のカルピスのオレカとかなんとか、この時期に僕なんかは安値で買い集めた。鉄道趣味人の中でのコレクターのパワーが一時期、落ちていた時期がある。


 そこらが2000年頃から活性化し始めた。これは間違いなく「鉄道ブーム」の影響だろう。
不発に終わりそうな「第三次鉄道趣味ブーム」とその課題 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
 きっかけは運輸省が1994年に制定した「鉄道の日」。事業者に利用者に親しまれるような催しをすることを促したこともあり、鉄道各社はイベントの立案に苦慮する。そんな中で、自社鉄道のグッズを売り出そうというのも自然の流れなんだろう。
 これが大きなものになるのは2000年頃。この年、関西の交通機関のSFシステムであるスルッとKANSAIの事務局として、株式会社スルッとKANSAIが設立されている。加盟各社の出資でできた会社だがその運営費を賄うのは容易ではない。そこで、加盟各社共同で"スルットちゃん"ロゴを使ったグッズを販売し始めると、これがバカ売れし始める。
 そのマーケットの大きさに驚いた各社は、その後、様々なグッズの新規展開に取り組むことになる。
 鉄道模型各社が、車両商品化のライセンス契約を結んだ旨の但し書きを載せ始めたのもこの頃か。マイクロエースが2002年に出した岳南鉄道5000系→東急5000系を巡っていろいろやりとりがあったと聞くが、よく分からないので触れないで置く。

鉄道会社公認グッズに群がる鉄道マニアの気持ち

 その切り札となったのは、「▼●電気鉄道株式会社商品化許諾済」という文言。
 「鉄道会社公認」グッズが多数出てきたことで、それまでの模型やグッズや切符などのコレクターだけでなく、当該鉄道を愛好するマニアたち、ファンたちも、商品の買い集めに走り出した。どこか聞いたことのない会社が勝手に作ったようなモノはスルーしてきたけど、おらが▼●電気鉄道の公認となると、ちょっと事情は違う。なんだか財布の紐も緩くなる。
 で、限定3000個のBトレ、限定5000枚の下敷……そうしたものが飛ぶように売れた。
 ネットの普及で、販売情報の入手が容易になったというのもある。鉄道会社側も、イベントの盛り上げ要素として重宝したし、利用者数が伸び悩んでいる中で少しでも関連業の売上を上げようという気持ちもあった(本業以外での売上アップは永年の課題である)。
 集める人たちとしては、グッズを集めることにより、その当該鉄道や車両が好きな自分を再確認したいという気持ちがあるんだろう。なにかにこだわるものを表現したいという愛情表現か。それが岡田斗司夫言うところの「どうしても自分のモノにしたい動機」になるんだろう。本来、コレクターとはそういうものだ。
 ただ、どんなにそれが盛り上がっていたとしても、そこの売上は大手の鉄道会社にしては微細な数字なんだろう。「商品化許諾」でやりとりしているカネもわずかだとは聞いている。
 検索エンジンをかけると、長電2000系のBトレインの販売数は2000個。1個1050円。鉄道会社の正味の利益はどれくらいだろう。2割としても40万円? 中規模の私鉄としては額が大きいんだろうけど、どうなんだろう。鉄道イベントをやったときの経費&ボランティアで出てきた社員さんの打ち上げの費用ぐらいで相殺されていそうな気もする。
 そして、現在、ヤフオクでは、発売時に1050円ぐらいだったBトレ各種限定商品が2000円とか3000円とかいう値段になっている。「転売屋」という人たちの商売の種になっている。となると、鉄道会社として、そうしたグッズを限定品として出す「意義」ってなんなんだろう……とか思ったりはする。あまりにも限定品が乱売されてきて、消費者として疲れてきたなあという気分も個人的にはある。


 ちなみに、かく言う私の場合。
 中学生だった1980年代半ばから、硬券切符とオレンジカードは継続的に集めている。1990年頃からは補充券とかも軟券とかも。基本、自分で現地へ行って買うことにしている。郵送依頼はしない。他者に売却もしない。チケット屋とかの流れ品でも、1000円券だと1100円を超える値段では買わない。オレカはすべて消費する。海外でもできるだけ切符をコレクトする。……という感じで20年以上継続してきた。たぶんこれからも続くんだろうな。
 グッズ関係はボチボチというところか。交通博物館とかで販売していた鉄道下敷は今でも大切にしているよ。東北新幹線開通時の鉛筆とかも。現地で見つければ買うけど、そんなに積極的に欲しくない。
 鉄道模型系統はかなり空白時期が長かったけど、建物系食玩が売り出された2002年頃から再び買い始めた。諸悪の根源はマイクロエーストミーテックだ。なんか変化球だらけの品揃いに魅せられて、鉄道コレクションや建物コレクションはほぼ制覇した。マイクソ商品もたくさんある。その変貌ぶりに、僕の大学時代を知っている仲間たちはみんな驚いた。で、箱買いしたグッズは押し入れからはみ出している。
 いやあ、一番大変なのは本だ。これは鉄道系に限らない。もうどうしよう。毎日、途方に暮れている。
 今日の昼間、その大量のストックを整理していて、これからどうなるんだろう……と、ふと我に返った。言わずもがな、家族や友人たちの評判は悪い。
 そして過去に、粛清に遭った仲間たちを何人か見てきた。その「遺品」を引き取ったこともある。だから再び山は膨らむ。来月は「鉄道ピクトリアル」400冊を引き取ることになる。今度は書棚が足りなくなる。ああ、そうやってみんなオトナになっていくんだろうな……と思いつつ、今日もまた何も捨てられなかった自分がなんとも言えなかったのだけど、それはまた別の話。

*1:魚をモデルにしながらも、前面はオバQそっくりなJR最強のジョイフルトレイン。20年前、「私はフェスタです」と無人備後落合駅側線で独り言を言い続ける姿を見て以来、僕を虜にしている。模型は「くちびるは別パーツ。手動で開閉OK」なんですけど、僕が買った製品はくちびるが動かないんです。何とかしてください