津軽鉄道ストーブ列車と太宰治と羽柴誠三秀吉
しばらく更新していませんでした。出張で出歩いていたこともありますが、先週の日曜から青森へ旅行に行っていたこともありました。最大の目的は津軽地区の郵便局巡りで、途中、27の簡易郵便局に回れてマニア的には堪能できたのですが、それを書いても読者は誰もいないので割愛します。
初日、3月2日は伊丹から青森にJALで飛んだ後、レンタカーを借りて金木駅へ向かいました。
金木町といえば、なにはなくとも太宰治の出身地。その生家である斜陽館は太宰の記念館となっています。私も16年前に初めてこの街を訪れたとき、趣のある木造旅館だった建物の喫茶店でしばしまどろんだことを思い出します。
でも、今回、太宰関係は華麗にスルー。とりあえず初日の目的は津軽鉄道のストーブ列車でした。
- ここ数年、津軽鉄道を巡る厳しい話が漏れ伝わってくる
- 一方、地元住民主導で存続のための運動も活発になってきた
- この冬(2007年12月)から「ストーブ列車維持」を目的として「ストーブ列車料金」を取るようになった
- その関係で、同社の軽快気動車が地元客のために客車と併結して運行されるようになった(マニア的にはちょっと寂しい)
と、いろいろ動きが出てきたので、久しぶりに訪ねてみたくなったのです
まちおこしと鉄道存続のためにオープンした喫茶店「駅舎」でまどろむ
最初は、ツレに津軽鉄道芦野公園駅まで運んでもらった。
国道から脇に入っていくと、レトロな木造駅舎が見えてくる。1930年の開業当時のものなんだろうか。白と赤のコントラストが雪に映えてまた美しい。やたらと保存状態がいいなあ……と近づくと、どうも喫茶店として営業を行っているらしい。扉を開けると、「いらっしゃいませ」と女性スタッフが出迎えてくれた。オススメは「昭和の珈琲」と「金山焼自家焙煎コーヒー」ですよ……と勧めてくれるのだけど、すみません、ちょっと趣味活動がありますので、それは後で。
で、さっそくやってきた10:56発の下り列車でお隣の川倉駅へ向かい、これで芦野公園駅と会わせて2駅乗降達成。迎えに来てくれたレンタカーに乗り込み、芦野公園駅へ戻り、もう一度、店内に入ってみた。
室内は黒くニス塗りが重ねられていて、お洒落な造りになっている。店の名前は「駅舎」。
話を聞くと、五所川原市旧金木町のかなぎ元気倶楽部という団体が、津軽鉄道などの支援を受けてここで店の営業を始めたとのこと。オープンは昨年(2007年)6月というから半年ほどしか経っていない。ご多分に漏れず利用者は年々減少の一途を辿っており、沿線自治体である五所川原市(含む旧金木町)も中泊町(旧中里町)も財政難で苦しんでいる。ストーブ列車人気だけでなんとかなるような状態ではないというのもまた事実。少しでもお客さんを呼ぼうと、有志で駅舎を改装して珈琲屋さんを始めたと言うことのようだ。
そうした由来を珈琲を飲みながら聞き、早起きしてからここまで突っ走ってきた疲れを癒すことにする。カウンターの張り紙を見ると、津軽鉄道から切符販売の委託を受けてもいるらしい。入場券や乗車券などの硬券を一揃え買い求めると、おまけに無札証明書をいただくこともできた。
この後、金木駅に戻り、駅2階の食堂でシジミラーメンを食べ、往復券とかJR連絡券とか一通り購入した後、12:12発のストーブ列車に乗り込み、終点の津軽中里へ向かう。機関車DD35-2+オハ46-2+オハ33-1+気動車。団体専用の1両目、一般観光客用の2両目はともに定員の7割ほど。土日は満員となる日もあると喫茶店「駅舎」の人から聞いていたが、幸いなことに今日はそれほどでもないらしい。一方、最後尾の気動車「走れメロス」号は5、6人ほど。う〜ん、観光客はともあれ、フツーの客がコレだと本当にかなり大変なのかも。
車内でボランティアのオバサマから焼き餅を買い求め、ダルマストーブの上に乗せ、こんがりと焼いてみる(スルメは金木駅でしか扱っていないらしい。残念)。きつね色になったところを割り箸でつかみ、一気に口の中へ。ちょっと熱すぎた……
列車は12:30に津軽中里着。
到着するや否や、車掌がDD35-2と客車との連結器を外し、
と素早く解結作業を行う。その間、わずか3分。あまりにもの早業に、僕も含めた鉄道マニア&観光客たちはなかなかカメラで捉えることができなかった。
川倉賽の河原地蔵尊&小田川温泉「秀吉のやかた」という旧金木町の二大珍名所へ行く
その後は、
- 12:55 津軽中里発
- 13:12 金木着。団体客をいっせいに降ろした後、13:19発
- 13:35 ツレの希望で、芦野公園駅から東側に1kmほど行った老人ホームの側にある川倉賽の河原地蔵尊へ行く。
- 14:20 金木歴史民俗資料館にある津軽森林鉄道のトロッコを見に行く
- 14:49 大沢内駅へ行き、再びストーブ列車に。ただし今度は気動車の方に乗車。次の深郷田(ふこうだ)駅まで一駅。
- 15:43 上りストーブ列車を嘉瀬駅の南側でキャッチ。
と移動。
このうち、川倉賽の河原地蔵尊はあまり知名度は高くはないのだけど、津軽地方有数の民間信仰のメッカ。未婚のまま早世した方たちが来世で異性と結ばれるよう、地蔵尊が何千体も並べられている。5年に1回、2万円近くの祈祷料を払えばいろいろお祈りしてくれるらしい。地蔵の隣には、亡くなった人の名前と、来世で結ばれるはずの相手の名前、日本人形、生前の写真、おやつ、ジュースなどが一緒になっていて独特の雰囲気を醸し出している。個人的にはいろんな過去の傷跡がえぐり取られるような気がする。
青森といえば、やはり思い出すのは恐山のイタコ。それと同様、毎年夏の例大祭ではイタコのの口寄せをして亡くなった人たちを祀っているらしい。その日は、かなり凄い空間になるらしい。あまり長居したくなかったのだが、かれこれ40分ぐらいはいたか......
さて、嘉瀬で撮影をした後、ツレ(ちなみに男)は「小田川温泉へ行きたい。ここまで来たのなら行かねばならない」と何度も強調する。小泊町まで行くなら早く北上した方がいいし、もう諦めろよと何度も繰り返すのだけど、かく言う私も気になるのは気になる。
この小田川温泉。平成時代に掘られた歴史の浅い温泉で、別にこだわるほどのシロモノではないのだけど、なんか心牽かれるモノがある。そう、この小田川温泉こと、羽柴観光小田川温泉ホテル「秀吉のやかた」の経営者。関西だけでなく全国的にも有名になった、あの三上誠三氏が経営しているんです。
三上誠三と言ってもピンと来ない人がほとんどでしょうが、羽柴誠三秀吉と言えば思い出す人も多いでしょう。大阪府知事選や大阪市長選のたびに青森からわざわざ出馬してくる万年泡沫候補のあの方です。で、昨年春の夕張市長選では当選者まで342票差の次点まで迫ったあのお方です。
とにかく、金木町の産んだ三大偉人といえば、太宰治、吉幾三、そして羽柴誠三秀吉。そう言われると、人間失格な方たちは激怒されるかもしれないけど、もしかしたら大阪のナウなヤングの間では太宰より羽柴さんの方が知名度が高いかもしれない。
ところが、旧金木町。それに五所川原市の観光マップを見ても小田川温泉の場所はなにも明示されていないんですね。確か嘉瀬駅からほど近いところにあるはずなのだけど、駅の観光案内図には温泉の場所は何も記されていない。
この選挙マニアの御仁。旧金木町選にも五所川原市長選にも何度か出ているんで、なかなかその個人でやっている事業を観光地として紹介しづらいんでしょうか。あと、正直、地元の方複数に聞いても、あまり羽柴さんというか三上さんのことをよく言う人はいない。都会の人は面白がるけど、地元民にとっては複雑な印象しか持てないのかもしれません。
でも、雪で埋まった県道にクルマを停めて周囲を見渡していると……ありました。お城が。
なんで、ここにお城があるんだろうか……そんなヤボなことを聞いても仕方がない。とりあえず目指す目的地はアソコなんでしょう。
県道から分かれる道を行くと、「国道1号線」の標識が……。「国道」……。「小田川藩」……。ああ、これは羽柴さんのユーモアなのね*1。
で、今度はショベルカーが数台。
- 羽柴環境建設(株)
- 夕張再建炭坑建設(株)
か。あれ? 選挙の後も、夕張再建のため私財を投じて夕張市民のための建設会社を興すとかなんとか言っていたのに、重機を青森県内で遊ばせていてもいいんだろうか。
国道1号線の割にはやたらと急な坂を登っていくと、「小田川藩帝国」「城主 羽柴秀吉」の文字が。なんだか櫓みたいな雰囲気の建物だ。その先には「帝国海軍省」。小田川帝国ミサイル防衛基地ということで、核弾頭攻撃ミサイルや北朝鮮のテポドン迎撃弾や地対空レッカウラン弾や地対空スカッド改が装備されているとかなんとか。さすが、米軍の三沢基地を抱えている自治体だけあって、防空の備えは万全。他にも運輸省(バス車庫)や農林水産省(羊の飼育小屋)、神社庁(事務所)、首相公邸(三上さん家)
けど、よくよく近くから見れば安物の建材を使った張りぼてが……いや皆まで言うまい。
その安っぽさの先にあるのが、国会議事堂、いや小田川温泉ホテル「秀吉のやかた」。
受付で350円也を払い、なんかヤケに安っぽい外観を見ないようにして、羽柴さんが出た歴代選挙のポスターで覆われた通路を行くと、紫色と金色に彩られた独特な雰囲気の脱衣場に辿り着く。ここにお目当ての温泉があるんですね。
温泉は……まあ、350円ですからあまり期待しない方がいい。泉温は37度。循環している沸かし湯。風呂は小さいし、露天風呂は休止中。ボディーソープやシャンプーぐらいは常備していると思っていたけど、当てが外れてしまった。「秀吉のやかた」と銘打っている割にはセコイなあとも思ったのですが、それはまた別の話。
おまけ
羽柴誠三秀吉さんって実際は何をしている人なのか。羽柴誠三秀吉-Wikipediaを見ても分かったような分からないような。
で、温泉での掲示を頼りに調べてみると、
- 東北興産建設 http://www.pref.aomori.lg.jp/kankyo/econavi/waste/meibo/tok_sho.pdf ※本社金木町にある産廃業者。青森県や青森市、五所川原市の指定を受けていることが分かる。これがメインの仕事?
- 羽柴環境建設 門の前にそうした名前の重機が並んでいた。
- 羽柴観光 小田川温泉の経営主体。青森や弘前発のツアーも出している。途中ですれ違った観光バスにはそれなりに人は乗っていた
ここらがメインの仕事なのか。でも、それぐらいであんなに何度も選挙に出るぐらい、そしてどう見ても採算が取れない観光ホテルを運営できるほど経済的余裕があるのだろうか。やっぱり不思議の多い人です。
*1:日本国の道路標識にクリソツですが、ホンモノとは違って「〜号線」と書かれている