かつて北海道に憧れた鉄道マニアと夜行列車の全廃

katamachi2008-04-18

JR北海道は18日、札幌―釧路間の臨時夜行特急「まりも」の運転をことし夏に終了すると発表した。「まりも」を最後に北海道内発着の夜行特急すべてが運転を終えることになる。
夜行特急「まりも」引退へ2008年4月18日、スポーツ報知(サンケイスポーツにも同記事が)

<参考>夜行特急「まりも」が9月いっぱいで廃止 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
 また一つ、国鉄的なモノが消えていく。昨年(2007年)、JR北海道には、冬・春のみ運転の臨時特急「オホーツク」(札幌〜網走)、夏のみ運転の臨時特急「はなたび利尻」(札幌〜稚内)、そして週末運行の臨時特急「まりも」(札幌〜釧路)と、三系統の道内都市間夜行列車が運行されていた*1
 「オホーツク」と「利尻」は2006年春に廃止→臨時格下げとなり、「まりも」も2007年秋に同様の運命を辿っていた。一日あたりの利用者数はバスで言うと1〜2台程度。オフシーズンに何度か乗ったが、座席の利用者4人、寝台2人とかそういう極端に利用者が少ない日も何度か見かけた。
 この情報の少ない記事から実際のところを読み取るのは難しい。

  • すでに札幌―稚内間の「利尻」と札幌―網走間の「オホーツク」の夜行特急が3月までに運転を終えている
  • 北海道内発着の夜行特急すべてが運転を終えることになる
  • 2007年度の乗客数は約4万人で、ピーク時の1988年度の約13万人に比べ約3分の1

とあるから、三列車とも臨時列車としての運転も終えるのか。記者の勘違いもありうる。定期が消えるだけで、臨時列車は少ないながらも運転が継続される……という可能性もある。むしろ、それを期待したいけど、どうなるんだろう。
 昨年、「はなたび利尻」の運転は6月1日から始まっている。夏の臨時列車のダイヤがリリースされたのは5月中旬と遅かったが、それ以前から稚内行き夜行の情報は流されていた。今年は......まだない。

北海道三大夜行急行で旅した往年のマニアたち

 かつて北海道三大夜行急行というのがあった。

  • 急行「狩勝」(札幌〜釧路 1981年から「まりも」)
  • 急行「大雪」(札幌〜網走)
  • 急行「利尻」(札幌〜稚内)

の三系統。SLブームが盛んになった60年代から、これら夜行急行は鉄道マニアたちの安価な寝床であり続けた。ここで仮眠を取り、早朝の駅に降り立ち、マニュアルカメラを抱えて撮影地への独行を重ねたものだ。いま団塊世代の人たちは懐かしげに、楽しそうに、その苦労談を語ってくれる。
 30代半ばの僕が初めて北海道の夜行に乗ったのは1984年夏。DD51が牽引する14系客車(座席)に乗って釧路駅を降り立ったのが痛烈に印象として残っている。
 ちょうど国鉄の赤字廃止対象路線が整理される直前の時期で、夏休みの車中は自由席のみならず指定席も満員だった。年上の旅行者に教えてもらって、座席を確保すべく札幌駅に20時頃から並んだ。2時間前に行かないと席に座れないよ……と脅されたからだ。しかし、その時点でもホームには長蛇の列が続き、「座れるのかな」、「いや、乗れるのかな」、「乗れなきゃ、今晩どうしよう……」と、旅慣れぬ身ゆえにその夜に対する不安は募るばかり。周囲では鉄道マニアっぽい連中だけでなく、六本木でフィーバーしてそうなナウなヤング達のグループもたくさんいる。私は一人。彼らの喧噪をヨソに、よりいっそう孤独感と不安感を噛みしめていた。
 列車がやってきたとき、並んでいた列が崩れ始めた。「ヤバイ」とリュックを背負ってその波に潜り込む。
 なんとか座席を確保できた。が、通路もデッキも満員。冷房もあまり効かず(当時、北海道の国鉄で特急以外の冷房車って珍しかった)、なんか妙な匂いが漂う車中の蒸し暑さに辟易としつつ、眠れない夜を過ごしたのを思い出す。思えばそれが僕の座席夜行初体験だった。
 当時、宮脇や種村、チャレンジ二万キロの影響でローカル線ブームの最盛期だった。1983年に白糠線は消えたものの、興浜北線、美幸線、瀬棚線……などキラ星の如く魅力的な路線がまだたくさん残っていた。そうした路線を乗り回るべく、有効日数20日間の北海道ワイド周遊券を片手に、東京、名古屋、大阪から多数の鉄道マニアが北の大地に集結していた。
 80年代の鉄道シーンの中心は北海道など遠隔地へ目指すことが一つの流れになっていた。周遊券で夜行を乗り継いでいった先には、未知の鉄路が待ち受けているような気がした。しかも、国鉄合理化の嵐の中で、そうした路線から削減されようとしていた。今みたいに情報がネットで瞬時に共有されることがないから、みんな「すぐにでも●▼線は廃止されるのでは……」と噂に踊らされつつ、北へ向かっていった。
 そうしたマニアたちが「格安の宿」として各夜行急行を選んだ。周遊券があれば運賃も急行券もいらない。混雑は激しいけどまあそれも覚悟の内。あるいは、「まりも」なら新得、「大雪」なら上川、「利尻」なら名寄(士別)で降りて、そこで列車交換をする反対の急行に乗り込めばいい。しんどければ、途中駅でテキトーに降りて駅寝をする。そんな連泊を重ねながら、旅を続けていった。
 そこらの思い出話をし始めると止まらない30・40歳代の鉄オタは山ほど存在する。

鉄道マニアが北海道まで行かなくなった時代

 でも、1988年春に青函連絡船が消えた頃には趣きあるローカル線の多くは消え去り、1989年春に長大四線(標津、池北、名寄、天北)が廃止され、これで道内の廃止対象路線は全滅した。
 ここらを境に北海道を旅する鉄道マニアは激減した。「ピーク時の1988年度の約13万人」という数字はそんな僕の実感と一致する。
 そして70年代から続いてきた北海道旅行における個人旅行者の交通手段の変化。すなわち鉄道利用からレンタカー利用へという流れがあり、バイク利用が顕著に増えつつあったのと比べると、夜行急行を中心としたJR利用者は激減した。そして使いやすかったワイド周遊券が1998年に廃止。これで鉄道旅行派の心の友が失われてしまった。 
 「なんで北海道に行かないの」と現役学生のマニアたちになんどか聞いたことはある。でも、「あまりカネがない」、「バイトで忙しくて」、「地元で十分です」とつれないお返事しか返ってこなかった。そもそも北海道の鉄道にはあまり興味すら抱いていないらしい。行ったで行ったでそれなりの成果は見つけてくるようだが、かといって、その後、二度、三度、リピーターとなるほどにはならないらしい。
 ローカル線と周遊券の廃止はモチベーション低下の一つの要因である。夜行列車でわざわざ動いても、鉄道以外に関心がなかったら時間を持てあましているのかもしれない。ある意味で、魅力が薄れてしまったのは認めざるを得ない。ヤングの感性は確実に変わった。平成になってから、特にここ10年ほど、鉄道マニアの地元志向が強まりつつある。自分の利用している路線を中心にエリアを限定して活動している人が増えてきた。乗りつぶしブームの沈静化、内向けになりつつある世情、都市鉄道について書き続けた川島本の影響も少なからずあるだろう。いろいろ考えさせられる。
 かくして、夏になっても春になっても、いつでも夜行寝台の座席は空きだらけ。昨年、比較的大学生が多いと思われる9月に渡道したが、「まりも」も「利尻」も自由席の乗客はやはり各車2人とか3人とか散々たるものだった。7月末からのピークはまだそれでも違うのだろうが、絶対数は減っているんだろう。
 もちろん、道内を旅する個人旅行者は圧倒的にレンタカーを選択する。安くて便利。駅から遠い観光地もらくらく。鉄道の座席を利用するのと比べると疲労度も違う。車利用しないのなら、昼間の特急も速く快適になった。ユースホステル、とほ宿も一時代を終えた。夜行列車共々、利用しているのは30代半ば以上ばっかり。それより若い世代は海外へ行くのが当たり前になっている。
 東南アジアなんか行くと、バックパッカーを担いでいるよう連中は十数年前なら道内をうろちょろしていた連中と大差ない発想をしている。そんな彼らは、「物価が高くて見るものがない日本」と行ってもいないのに、国内旅行に見切りをつけ、北海道ですらスルーしてしまっている。
 なにはさておき、ツアー観光客すら北海道への利用者数は伸び悩んでいる。注目されているのは外国人旅行者だけどそのパイはまだまだ小さい。
 まあ、なんとか残して欲しいのは鉄道マニアとして当然なんだけど、ピーク時以外の惨めなまでの乗車率、明らかに使い勝手悪そうな気動車+寝台車、耐用年数が切れそうな車体を見ていると、無理強いも出来ないというのがホントのところ。
 ワイド周遊券が消えてから丸十年経った2008年。ついに北海道の夜行列車群も消え去る。いまさら名残乗車をする意志はないが、やっぱりその行く末は気になります。JR北海道が撤退した後、どのようなサービスを打ち出してくるんだろうか気にはなるのですが、それはまた別の話。

追記

 北海道新聞も来ていましたね。記事の内容はほぼ同じですが。
道内発着の寝台姿消す 「まりも」今夏限り 利用減止まらず

 JR北海道は十八日、乗客減少が続くため、札幌−釧路間の夜行寝台特急「まりも」の運行を今夏を限りに終了する、と発表した。これで札幌を起点とする道内発着の夜行寝台特急三本すべてが姿を消す。
 同社が運行してきた道内の夜行寝台特急は「まりも」のほか、札幌−稚内の「はなたび利尻」、札幌−網走の「オホーツク」の計三本だったが、二本は既に三月までに終了していた。

 とりあえず「はまなす」は残るのか。

*1:他に青森〜札幌の「はまなす」もあるが、あれは青函連絡船時代を知っている人間にはさほど思い入れがない