中之島線の乗降客数約3万人という数字のマジック。

katamachi2008-11-17

 京阪電気鉄道は17日、10月19日に開業した中之島線の1日平均乗降客数(同月末までの平日分)が約3万人だったと発表した。開業前に見込んでいた8万人を大幅に下回る結果に、上田成之助社長は「半年程度で認知度を上げ、他社線から移ってくる定期券利用者を増やすとともに、サーカスなどのイベントで乗客増に努める」と話した。
京阪中之島線、乗降客1日平均3万人 目標8万に届かず朝日新聞2008年11月17日

 想定していた利用者が8万人/日。実際には3万人/日。目標の4割にも届かず。うう、悲惨。
 「大阪市統計書」(2006年度)によると、淀屋橋駅+北浜駅の乗車人員は87,509/日。
 これから計算すると、

と、中之島線の新駅4駅を足しても、既存の京阪本線2駅の乗降客数の2割に満たない。
 で、その3万人のうち約1万人は京阪本線(すなわち淀屋橋・北浜駅の乗降客)から移ったという。新駅による乗客の純増は約2万人。ううう、これはキツい。
 あと、気をつけないといけないのは、この朝日新聞が伝える数字は「1日平均乗降客数(同月末までの平日分)」なんですね。ビジネス街を走る路線なんで、休日の利用はかなり落ち込む。月平均でならすと3万人を大幅に割るんでしょうね。
 「スーパーの開店とは違い、客が増えるのは周辺の開発が進んでから。長い目で見守ってほしい」という話だけど、じゃあ、その「8万人/日」という数字をいつ達成できるのか。それを明言できないんですよね。言い訳としては弱すぎる。

まあ鉄道も空港も高速道路もどこも需要予測を大幅に下回っているんですが

 ただ、これ中之島線だけじゃない。
 90年代以降に開業した東京・名古屋・大阪圏の鉄道新線って、大方、当初予想を大幅に下回る利用者しか集めることができていない。旧運輸省から路線の免許を受けたときは、かなり多めの数字を見積もっているのだけど、実際、開業してみると、たいていはその半分程度に過ぎない。
 以前、今里筋線の利用者数をきちんと発表しない大阪市交通局 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月でも紹介したが、京阪中之島線のすぐお隣を走るJR東西線だと、

  • 着工前の1989年 50万人と予測
  • 開業前年の1996年 20万人と下方修正
  • 1997年の開業日(3/8) 10.1万人
  • 同年3月の平日 10.7万人
  • 同年4月の平日 12.1万人
  • 同年5月の平日 12.4万人
  • 同期の休日  7.0万人
  • 開業1年間 10.5万人(平日13.4万人、休日7.0万人)

とやはり予想の約半分程度(いずれも1日平均)。
 それから11年経っていますが、いまだに20万人/日という数字には達していない。
 同じく大阪市内の大阪市交通局今里筋線

  • 着工前の1999年 1日16万人と予測
  • 開業直前 12万人と下方修正
  • 2007年1月30日(開業1ヶ月後) 3.7万人

 こちらは中之島線以上に悲惨な数字。
 東京でも似たような感じかな。副都心線の利用が少なかったというのも、なにも開業初期にトラブルが多かったからという訳ではない。スペイン国王がお召し列車より素晴らしいと激賞したという、つくばエクスプレスにしても、利用者が多くて成功したという報道が多かったけど、建設を始める前である80年代に予想されていた数字と比べれば、かなり数字は小さい。
 別にこれは鉄道にのみ限らない。空港や高速道路、港を建設するときもいつも同じ。
 建設を始める前には膨大な需要予測の数字を叩き出し、その建設の必要性を訴え、で、実際に開業して、事前に発表された数字と食い違っても、誰も知らんぷり。
 中之島線だと誰に責任があるのだろう。
 第三セクターに出資した大阪市大阪府? 必要もないのに建設を煽った京阪電気鉄道? 景気対策を理由にして90年代末にゴーサインを出した旧運輸省国土交通省? ここ数年、京阪と一緒になって中之島プロジェクトを推進してきた朝日新聞
 なんか、ここらの責任問題はいつもうやむやにされてしまう。
 意志決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。そして完成したときには、決定した人間は全てその現場から遠い場所へと部署を移している。かつて、インフラストラクチャーの必要性を訴えたヤツでロクな奴はいなかったし、その口車に乗って建設しても閑散としている交通施設のリストで国土交通省の地下倉庫は一杯だ。
 と、某映画の一節を引用して改編。
 いやあ、ホント、これネタじゃなくて、8年前のちょうど今頃、運輸省の地下倉庫に日参して鉄道免許の許認可関係の文書をいろいろ調べ上げたんだけど、役人と鉄道会社の妄想でいっぱいとなった文書が山ほど積み上げられていたんだよなあ。なんで、昔の人は、こんな計画を立てたんだろうというヤツばかり。今はその一部が国立公文書館で公開されています。ヒマな人は、こちらの「http://bunzo.jp/archives/category/200railway.html」というサイトから。
 とりあえず、何十年間も、「責任者出て来い!」とボヤき続けてこられた人生幸朗師匠のような人が必要なんだろうなあ、とただただ思う次第。
 あとは関西で大物の新線は、阪神なんば線だけか。あれはどうなるんだろう。社運をかけた阪神は大丈夫か(まあ三セクだしなんとかなるんだろうけど)……と思ったりもするのだけど、それはまた別の話。<参考>
京阪中之島線開業。そして消えゆくダイビルと朝日ビルディング - とれいん工房の汽車旅12ヵ月