大英博物館に眠る「風の谷のナウシカ」と「宗像教授異考録」と「土偶ファミリー」

katamachi2011-10-29

 先日のイギリス旅行、スコットランドを中心にブリテン島の北部を回った後、ヨーク経由で再びロンドンに戻ってきました。2011年10月13日のことです。
 ただ、僕も連れ合いもエジンバラ滞在中にカゼを引いてしまい、しかも、無理してヨークの国立鉄道博物館に4時間半いたため体調を崩してしまいました。
 翌14日はベタにロンドン市内の予定。朝8時から歩き回る予定でしたが、朝起きて体調が落ち着くまで動かないことにしました。宿を出たのは10時半でした。
 無茶しないことが第一条件。
 まずは、宿から徒歩1分。キングスクロス駅にある「9と3/4番線ホーム」に向かいました。

とりあえずベタなロンドン市内観光

 なんでも「ハリーポッター」シリーズで、主人公ハリーたちがロンドンからホグワーツ魔法学校へ向かうときに乗車する列車が発車するホームなんだそうです。9番線と10番線との間にある幻の番線。
 原作や映画が人気となった後、その舞台を求めて訪れる人たちが相次いだため、わざわざそれらしい記念撮影スポットを駅構内に設けたのだとか。もともとは本物の8番線の側にあったけど、ロンドン五輪に向けて駅改修工事が進んでいるため、現在は駅舎の南東部に移転しています。
 ちなみに、映画のロケで使ったのは本物の3番線と4番線の間だとか。

 続いて地下鉄でウエストミンスター駅へ移動。11時過ぎに到着。
 最近、傾斜角度がヒドくなっていると言われるビックベン、そして国会議事堂を見ながら、世界遺産に登録されているウエストミンスター寺院へ。13世紀から建築の始まった英国国教会最大のゴシック建築で、歴代の王様の戴冠式もここで行われている。
 さあて、見学しようか……と思うと、何かの行事をやっているらしくて15時までクローズ.....とか。残念。ちなみに、見学料は15ポンド。2000円近い。イギリスって博物館は無料で有り難いのだけど、教会や遺跡の入場料がバカ高いのが難点です

 仕方ないので二階建てバスで移動。金融街のシティーを抜けると、次は英国国教会とゆかり深い大聖堂、セントポール大聖堂。12:10到着。ここも12.5ポンドもするんで、時間もないし入場ゲートからチラ見して見学終了。

  • ロンドン塔

 昼食後、さらに東へ向かい、これまた世界遺産のロンドン塔。11世紀からロンドン、そしてブリテン島の政治的中心だった要塞が今でも残ります。13:30に入場。
 王室の宮殿が開放されており、王家の財宝とか服とかがいろいろ展示されていました。徳川秀忠がイギリス商人に与えたという鎧甲も展示されています。ここも入場料は18.7ポンドと2200円くらいで値段は高いけど、ビジュアルを駆使した室内展示には驚かされました。

 1894年にできた現役の跳ね橋。ネオゴシック様式のデザインがテムズ川に映えます。ロンドン塔の隣。これも外から見ているだけ。

本日の最後は大英博物館

 とか、マジメに観光していたら、もう16時過ぎ。これから大英博物館へ向かいます。
 ご承知の通り、世界各地から盗んで集めてきた歴史的遺物、図画、書籍、財宝などのコレクションで埋め尽くされている巨大な博物館。1759年にオープンし、700万点の所蔵物を誇っている。ミイラ、パルテノン神殿の彫像物、モアイ像、富嶽三十六景……と、世界各地のお宝が100近いへやに分かれて、よりどりみどり展示されている。1日あっても、到底、見回ることができない。それでも入館料が無料なんですよ。これはやはり有り難い。

 入り口の目立つところにロゼッタストーン。ここに人だかりができています。あとは、エジプトのミイラや各種遺跡。
 館内には巨像や門柱などがあちこちにゴロゴロ飾られています。めちゃくちゃ貴重な財宝なのに、見学客と石を遮る衝立もガラスも何もないんですね。それでなんとかなる……って、文化水準が保たれているところがここの真の凄さでしょうか。
 あとは、アッシリア古代ギリシアやローマ、メソポタミア……世界史の教科書にあるようなモノがあちこちに並べられている。あまり熱心な学生ではなかったんで記憶が断続的にしか残っていませんが、ぶらぶらと歩いているだけでも十二分に楽しいです。
 ただ、やっぱりというかなんというか、人気のあるのは1階にある地中海界隈の展示室ばかりなんですよ。2階にある中世ヨーロッパの展示室に行くと、正直、見物客はかなり少なくなります。インパクトのある展示物がないからですかね。
 アジアも、インドで1室、中国・韓国・東南アジアで4室ありましたが、エジプトやローマの展示室と比べると、展示物も見物客も寂しい限り。

 で、われらが日本には3室が割り当てられていました。
 縄文時代から室町、江戸……と、歴史順にいろいろと並べられています。兜とか刀とか、なんかそれらしいのも飾ってあるのですが、なにかいまひとつピンと来ないのは展示物に華がないからでしょう。せめて葛飾北斎富嶽三十六景ぐらいは……と期待したのですが、それすらもない。おみやげ物売り場ではロゼッタストーンに匹敵するぐらい人気のアイテムでしたが、どこか他所に貸し出されているのでしょうか……

大英博物館で展示される「クールジャパン」と謎の作品

 と、がっかりしながら、戦前の新聞とか、大阪万博のグッズとかを見ていると、最後に大物が待ち受けていました。
 そう、「風の谷のナウシカ」、です。

風の谷のナウシカ [DVD]

風の谷のナウシカ [DVD]


 セル画の隣にあった解説によると、

風の谷のナウシカ(1984年) 宮崎駿監督(1941年生)
 この絵は、ナウシカとテト(キツネリス)のセルロイドピクチャーもしくはセル画であって、映画「風の谷のナウシカ」の56,000枚の絵の一つである。これは、宮崎駿によって脚本・監督された最初の作品で、彼のマンガを原作としている。環境問題と人間愛をテーマとしたSF物語で……

ということらしい(多少の超訳はお許しを)。
 宮崎駿を語るのに「ルパン三世 カリオストロの城」をスルーするのは日本でも大英でも変わらないなあ……と、思いつつ、これがここにあることに、正直、驚きました。1984年の作品がもう博物館行きか。しかも、大英博物館
 ちなみに、お隣には山岸涼子の「パエトーン」が飾られていました。
 山岸先生はもちろん知っていますが、この作品、知りません。有名な作品なんでしょうか。

パエトーン (あすかコミックス)

パエトーン (あすかコミックス)

 あと、隣の特別展示室では、星野之宣の「宗像教授異考録」の原画展が行われていました。10月から2012年4月8日までの期間限定コーナー。
 考古学者を描いた作品で大英博物館も登場する作品。星野と博物館がコラボした企画でもあったようです。10月26日より大英博物館内の販売コーナーで英語版マンガの販売も始まったとか。確かにAmazonでも出ていますね。
宗像教授異考録 15 (ビッグコミックススペシャル)

宗像教授異考録 15 (ビッグコミックススペシャル)

Professor Munakata's British Museum Adventure. by Hoshino Yukinobu

Professor Munakata's British Museum Adventure. by Hoshino Yukinobu

 ここ十数年の日本文化の世界での受け止められ方、そして例の「くーるじゃぱん」なんかを見ていると、マンガやアニメが大英博物館に展示される、というのも決して意外ではないのかもしれない。でも、妙に浮いているというのもまた事実。他のアジアの展示室と比べると客は多いですが、半分は日本人観光客。他の国の人たちもさっさと見回って次の展示室に向かいます。


 ただ、真に驚いたのは、日本史展示ブースの縄文時代のコーナーでした。
 土偶を並べているんですが、その中に妙な物が……

 もう少しアップしてみると……

土偶ファミリー」ってマンガがなぜか一緒に飾られています。

土偶ファミリー 1 (月刊マガジンコミックス)

土偶ファミリー 1 (月刊マガジンコミックス)

 解説文を超訳してみると、

土偶ファミリー(1988-91) 西川伸司画(1964年生)
 ジローは12歳、彼の姉ハナコは14歳、兄タローは19歳、母ハルヨは269歳、父イチノスケは293歳、祖母ハツ4525歳、祖父ミノキチ4534歳。祖父は博物館の展示物だ。ドグウジ家、有史以前の土の人形、土偶は、漫画家西川伸司によって作られたキャラクターだ。現代日本を舞台にした冒険マンガである。

とかなんとか。

 大昔に土偶を作った文化が現代日本にも引き継がれていることをマンガという形で何か物語りたかったのだろうが、なぜ、この作品?
 もちろん「土偶ファミリー」って聞いたこともありません。そもそも西川伸司って誰?
 このマンガ、僕の知らないところでヒットしていたんだろうか。あるいは、イギリス的なジョーク??? 
 考えれば考えるほど、なんで大英博物館で「土偶ファミリー」が飾られているのかさっぱり理解できないんです。


 ホテルに帰った後、スマホで検索してみると、この漫画家、『ゴジラvsビオランテ』など特撮映画のキャラデザなども担当していたらしい。漫画家よりも今はそちらのジャンルで活躍しているみたい。
 で、1年前、西川は、大英博物館に飾られている自作についてブログで言及している。

 私の実質上のデビュー作である『土偶ファミリー』。連載終了からもすでに20年近くが経っている作品な訳ですが昨日なにげなく検索してたら、とんでもないことになってるのを発見してしまいました。
(中略)
大英博物館の蒼々たる文化遺産の数々に混じって展示される『土偶ファミリー』の単行本…
あまりにあり得ない光景。あり得なさ過ぎて驚くより喜ぶより先に笑ってしまいました。
こんなところに『土偶ファミリー』が!MASHのBLOG、2010/10/10

 嗚呼、あの偉大な大英博物館、本人に連絡せず勝手にマンガを展示し、解説も付け加えていたのか。偉大なる博物館に紛れ込んだ珍作、そのシュールさが気になって、ちょっと古本屋で探してきて読んでみたくなったのですが、それはまた別の話。