阪神なんば線の工事現場を歩く

katamachi2008-11-09

 この1年、JRおおさか東線、京阪中之島線と新線開業が相次いだ関西地区。来春開業予定の阪神なんば線区間で、そろそろ試運転が始まりそう......というので、久しぶりに現地へ行ってみました。
 駅の外へ出てみると、阪神なんば線の高架橋がほぼ完成しているのが見えます。ここって、阪神西大阪線西九条駅ホームの高さが、下を走る大阪環状線の高架線の架線柱のてっぺんとほぼ同じ高さにあるんですよ。建築限界に引っかからないのか、どうやって工事を進めるんだろう……と、かねてから話題にはなっていた。けど、そこらはクリアーされているみたい。かならギリギリ感はあるし、2社間のやりとりも必要な設計なんかは大変だったんだろうなあとは想像できるけど。

 そこからは高架線沿いに歩いてみる。駅の近くには二層の駐輪場が設けられいる。有料?、無料?、どっちにするんだろう。駅前までチャリで来て電車に乗り換えられたら便利なんだろうけど、大阪ではカネを払ってまで駐輪場に止める人って決して多くないんだよなあ。
 そんな話を同行のツレと話しながら、高架線を見上げてみる。両脇に防音壁(セミシェルター)が施されているのが印象的。「阪神なんば線 環境にやさしい鉄道を目指して」を見ると、「近接した住宅での騒音を低減するために」ということらしい。都市部の高速道路でもよく似た感じの壁が設けられるようになったけど、緑系で透明の色合いがちょっと小洒落た感じ。ただ、この壁、透明度は低そうだし、高架線を走っている電車の中からは外の景色が見られない......ということなんだろうか。

 駅から300mほど行ったところで、なんば線は安治川を跨いでいく。シンプルな構造のアーチ橋だ。船に橋の構体を積んで取り付けらたのは2年ほど前。クレーンが回転して1日がかりで設置されたシーンは関西ローカルのニュースでたびたび放送されていた。
 この間、大阪市が戦時中に造った面白い施設が存在する。それは鉄道マニア心をくすぐってくれる安治川トンネル - とれいん工房の汽車旅12ヵ月を参照のこと。

九条の市街地を横断する阪神なんば線の高架線

 さて、阪神なんば線の路盤は、安治川を跨いだところから、ひと息に地下線の九条駅へと向かっていく。その間、600m。この区間が、永年、阪神なんば線が実現しなかった原因ともなった。
 阪神西大阪線の延長区間、いわゆるなんば線は、終戦直後から構想はされてはいたんだけど、60年経った現在でもまだ完成はしていない。その際、"事情通"の鉄道マニアたちは、「大阪市阪神を邪魔するために地下鉄千日前線なんかやるからだ」と、原因が大阪市にあったように語る。確かに1957〜1958年の都市交通審議会大阪部会の記事録を紐解くと、阪神の難波延長構想はいろんな関係者から批判されている。だが、60年代になってからは、大阪市は明確に反対の意志を示していない。それは運輸省文書(国立公文書館蔵)なんかを見ても同様。
 ただ、当時、阪神は、大阪市都市計画道路とまったく無関係のルートを提案していた。当時の大阪市西区は今以上に人口密度は高かった。市街地を遮断しかねないルートで、大阪市の支援もない中、はたして用地買収や地元との折衝はうまくいくのか*1
 で、結局、1967年になって、阪神は計画を凍結している。阪神の路線が市街地を遮断すること、そして買い物客が他地区に流出することに対して、九条商店街など地元住民たちが反対したこと……がその理由とされている。当時の阪神には地元有力者たちの反対を押し切るだけの"政治力"が欠けていたのだろう。また、利用者の伸び悩みなどの影響で、阪神本社に建設費を捻出するだけの体力がなかった側面も見逃せない。
 その後、いろいろあって、1993年頃から阪神大阪市などと第三セクター鉄道会社を作るための協議に入り、2001年に西大阪高速鉄道が設立。2009年3月開業に向けてただいま最後の追い込みに入っている……というのが現状である。
 で、いろいろと批判のあった九条地区には、どんな高架線ができたのか。
 商店街の裏側にあった阪神所有地に側道が敷かれ、以前からあった市道のど真ん中に阪神の高架線が敷設。

 以前、なにもなかったところに、高架線が続く。「桁下2.5m」とは大型車は通れないのか。

 途中で途切れてしまった横断歩道。まるでトマソン状態。ここにあった交差点3箇所が高架橋で分断されてしまっている。

 地下鉄九条駅付近から阪神高架線を眺める。阪神の高架線と透明緑の防音壁がまるで大蛇のように市街地に横たわっている。

 今回、改めて、ほぼ完成した状態の高架線を見たんだけど、う〜ん、この評価は難しい。九条地区って、40年前、この阪神なんば線の高架線のすぐ側に、中央大通という幹線道路が整備され、その真上に地下鉄中央線・阪神高速道路の高架橋が敷設されたんですよ。戦災で焼けてしまった地域とはいえ、この道路を挟んで完全に市街地が遮断されてしまった。それに続いて、来春、別な鉄道線ができることになった。反対運動をしたくなる人たちの気分も分からないわけではない。
 1年前、「「阪神西大阪線の工事認可取り消し訴訟」と大阪高裁判決。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」でも書いたように、一部の住民たちが、「阪神西大阪線の工事認可取り消し訴訟」を起こしていて、それに大阪高裁は「防音壁が完成すれば、重大な騒音被害が起きる可能性は低い」と判断し、住民の控訴を棄却している。
 ただ、騒音被害は防げるかもしれないけど、こういう高架線がうちのご近所にできたりするのは勘弁して欲しいなあ……とは、正直なところ、思います。毎朝、さあ仕事にでも行こうかと家を出たら、目の前に緑の大蛇が横たわっている。イヤですよ。自分が地元民なら。防音壁を作ったからと言って、それで解決していない点も少なからず存在する。
 一方、ヨソ者して、そして鉄道マニアとして、阪神なんば線って、ぜひ完成して欲しい路線だとは感じています。あればそれなりに便利なるし。
 先に話題となった第二京阪道路と保育園のイモ畑の話しなんかもそう(「第二京阪道路と大阪府と芋掘りの想い出。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」)。関東だと、小田急の高架線問題とか、外環道への反対運動なんかもありますよね。過去にも、あちこちで話題となってきた"公共の福祉"の妥当性がやはりここでも問われているのでしょう。
 判断は難しい。
 来春、なんば線が開業すると、大阪を中心とした関西圏での鉄道整備は一段落付くことになる。大阪港トランスポートシステム大阪モノレールの未成区間は工事をする気配はないし、阪急新大阪線なにわ筋線も構想段階に留まっている。唯一、次年度に工事が進められることになるのはJRおおさか東線ぐらい。ここにしても、解決していない諸問題が山積していて、開業の目処は立っていない。関東地区でも、開業時期が明示されている工事区間成田新高速鉄道線ぐらい。ここも羽田国際化とか複雑な政治情勢から採算度外視で建設されているのは周知の所。あとは、実現しそうなのは相鉄とJR・東急との直通線ぐらいか。
 バブル景気を背景とした新線建設ラッシュに区切りがついた今、都市部における鉄道整備の未来像をきちんと描き出さないといけない。羽田と成田を結ぶリニアとかまた変な動きもあるようだけど、平成期に開業した新線のほとんどが着工時の想定輸送人員の半分とか散々な成績しか上げていないという実態をきちんと分析し、それを将来に活かしていかねばならない。本当に経済波及効果はあったのか。なんで実需が想定値を大幅に下回るのか。過去の投資に関する分析がきちんとなされていないんじゃないの。それすらもしないで、鉄道新線や高速道路などのインフラ整備の"公共の福祉"を主張するのは筋違いだと思う。と、未成線好きの鉄道マニアが言うのはめちゃくちゃ矛盾しているのだけど、それはまた別の話。

*1:やはり都市部で新線鉄道を造るのなら、都市計画道路の下に地下線で敷設する……というのが基本ライン。地上に導入空間がない中で、高架線や地下線を建設するというのはまずムリと考えた方がいい。大阪市も、地下鉄千日前線神崎川野田阪神間に関しては都市計画道路と一体化したプランを進められず、せっかく取った敷設権(特許線)を後に手放している